不服


 皆さま、冷静になられたご様子。

 それぞれ座り直しまして、お茶も頂きながら、お話を続けることとなりました。


 全員が過去に私の作成した書類をお持ちであることだけは気になりますが。


 旦那さま、駄目ですよ旦那さま。

 持っていた書類をそっと背中の後ろにお隠しになられてはいけません。めっです!


 お耳を赤くされても駄目ですからね?

 ちゃんと元にあったところに返すのですよ?


「私はこれらすべてをうちの補佐官が作成したものとして認識しておりました。これは完全に言い訳ですが、昔はそれなりに当主としての仕事を確認することもあったのですよ」


 開き直ったのか、父は恥もなくそのように語ります。


「すべてに目を通していたとは言わんのだな」


 私も陛下と同じように感じていました。

 当主として領地の仕事をすべて見ていた時期が父にはなかったのでしょうか。


「申し訳ありません。当時も抜き打ち検査の要領で少数を確認する程度でした」


「まぁねぇ。それがこの書類だったら問題ないとして処理する気持ちも分かりますよ。ねぇ、父上?」


「夫人が大臣をしてくれれば、私は遊んで暮らせるということか!これならサインをするだけでいいな?」


「そうなれば父上はもう必要ありませんね。辺境伯夫妻の代わりに辺境の地へと向かわれてはどうです?」


「嬉しそうに言ってくれるな」


「ではもう恥の上塗りはやめてください。ほぼ初対面だというのに、夫人からの印象が底辺に落ちてもよろしいのですか?」


「なんだと!そんなことはないな、夫人?……また顔が見えぬな」


 苦しいです、旦那さま。

 加減してくださいませとお願いしましたのに!


 ぷはっ。

 解放された私は、やはり息を吸い込むことに忙しくなりました。


 旦那さま、その隙に書類を隠そうとしないでくださいませ。

 子どもではないのですよ。もう、めっ。


「気付かぬ振りを続けてきたが……夫人も結構あれだな?そう睨むな、辺境伯よ。夫人とそなたがお似合いだという意味だ。途端ににやけるのはどうかと思うぞ?こうも扱いやすいとなると、国境が心配にもなるのだが……」


「父上。触らぬ神になんとやらという表現がありますので。引き際は見極めましょう」


 私が息を整え終えたあとには、うんうんうんと殿方三人が頷き合っておりました。

 心から通じ合う仲のように見えるのですが、父はもう王族の皆さまから罪を許されたのでしょうか?


「しかし腑に落ちんな」


 書類を眺めていた陛下が、急に不服そうなお声を出してそう仰いました。

 提出していた過去の書類に何か不備があったでしょうか?






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