罷免


「陛下!何故こちらに……」


 青褪めた父の顔が、先ほど見た弟の顔と重なって見えていました。

 やはりこの方は陛下なのですね。


 急ぎご挨拶をしなければ……旦那さま?

 陛下の御前ですよ、旦那さま?


 あら、目が合わない。


「父上。騒がしくしていて申し訳ありませんが。誰かがお呼びしてしまったでしょうか?」


「いいや、勝手に来ただけだ。だが来て良かったよ。これは実際に見ておいた方がいいものだな」


「はぁ。出来れば事後報告で満足していただきたかったのですが」


 殿下のお言葉がとても疲れているように聴こえたのは気のせいでしょうか。

 お若い方ですのに、そのお顔も急に十数年も歳を重ねたように感じます。


 一方の陛下はなんだかうきうきと楽しそうで子どものよう。


 大変不敬だと思いますが、それが私の感じたままのお二人のご様子でした。


「何を言うか!さて、侯爵よ」


 青い顔の父もまた、立ったまま頭を下げることはありません。

 もしやお城ではこのような対応が正解なのでしょうか?


 旦那さまも動きませんし。

 もう私は教わったマナーを忘れて、身を任せておくことにしました。


「もう君には大臣の職を降りてもらうからそのつもりで。あぁ、君はそれなりに引き継ぎをして行ってくれたまえよ。君の後任に、君のように前任者の引継ぎがなっていないと騒ぐような愚か者を選ぶつもりはないけれどさ。最後くらいはそれなりに頼むね」


「そ、そんな……陛下、お考え直しください。我が家の恥となるこの娘は今すぐに処分して、我が領はすぐにでも立て直しを計り──」


「君がそんなことだから、大臣を降りろと言っているのだよ。分からないのかな?」


 陛下の御言葉をこのように立ったまま目のまえで聞くことになるなんて。


 忘れようと決めたものの、学んできたマナーはぐるぐると頭を駆け回り、それらが私を不敬だと責めていました。


 それだけ学んでおりましたのに、私にはこの場でどのように対応すべきか、その答えすら分からなかったのです。


 これで弟と妹のことをとやかく評していたのですから。

 恥ずかしいことをしていたものでした。


 あの人が言っていたように、私のマナーはあれから三年過ぎても足りていないのでしょう。

 ふとあの人ならばこの場でどう対応するのかと考えてしまいましたが。


 その答えすら得られず。



 旦那さまが不安そうなお顔で私を見ておりましたので、私は笑顔を返します。


 大丈夫ですよ、旦那さま。

 少々この場の自分の振舞いについて心配になっただけですから。


 そのようなお顔をなさらないでくださいませ。






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