幸福
「令息さまは別の方のお話を私のこととして勘違いしてしまったのではないでしょうか?結婚してからの私はそちらと一切の連絡を取っていなかったわけですし、お話の内容もとても私のことだとは思えませんもの」
語り始めてしまったら、私は止まらなくなってしまいました。
旦那さまと暮らす日々の素晴らしさを、誰かに伝えたかったのかもしれません。
いえ、家の者たちにはいつも伝えているのですけれどね。
外の人にも聞いて欲しかったのかなと。
「旦那さまとの暮らしが辛いなんてとんでもありませんわ。快適過ぎてこれでいいのかしらと不安に想うほどですのに。毎日お優しい旦那さまがお側にいてくださって、皆様もよくしてくださいますし、それにお料理もとても美味しくて。それから、それから……」
私は三年も続く夢のような日々を思い出しながら、改めてその幸せを噛み締めていました。
旦那さまの寝顔を見られた朝はとても嬉しくて。
でもほとんどの朝は私が見られる側で。
いずれにしても目覚めた瞬間から旦那さまの温かさを感じられる朝はやはりとても嬉しくて。
朝食のときには、旦那さまはいつも体調を気遣ってくださいます。
食べ方でその日の私の体調が分かるのですって。
その朝食も好きなものばかり並びますけれど、定期的に新しい料理が並ぶこともあって。
それが気に入ると、朝食のメニューに加えられてまた食べられて。
昼食やお茶の時間には旦那さまとご一緒出来ない時が多いのですが。
我が家のシェフに毎日一言伝えてくださっているようで、いつも旦那さまご指定のデザートを出して貰えるのです。
それがどれも私の好きなものばかりで、ご一緒していない時間にも私は旦那さまと暮らす喜びを感じています。
夕食はほとんどご一緒出来ていますね。
日中お互いがどのように過ごしていたかというお話をするのですが。
私は毎日似たような話しか出来ませんのに、飽きることなく楽しそうに耳を傾けてくださいますし。
お忙しい旦那さまのお話を聞くのはとても楽しくて。
先日なんかは少し早いですけれど冬のための編み物を始めた話をしましたところ、翌日には大量の毛糸を贈ってくださって。
もちろんすぐに旦那さまの冬支度のために使いましたよ。
去年までに編んだものも夏になっても大事に持ち歩いてくださる旦那さまなのですけれど。
洗い替えにと沢山編んだところ、もはや両手に抱えられんと悩まれてしまう可愛いお姿を見ることも出来て。
お仕事ですか?
旦那さまはお忙しい身ですから、私もお手伝い出来る範囲では書類仕事を行っているのですよ。
それも無理はするなといつも心配そうに様子を見に来てくださるので、なかなか捗らなくて。
以前と比べれば大分拙い仕事量しか終えられていないのですが。
それでも旦那さまは日々ありがとうと感謝の言葉を伝えてくださるのです。
それから、それから……。
そうでしたわ、お城の舞踏会に来ているのでした。
「このように私はとても幸せに暮らしていますの。ですからそちらに帰りたいと思う瞬間は結婚してから一度とてありませんでしたのよ?」
あら?旦那さま。
どうなさいました?
お口を押さえていらっしゃいますけれど。
私はやはり話し過ぎてしまいましたね?
こんなときにもお耳が真っ赤になられるところは、とても可愛らしくて大好きです。旦那さま。
「………………どうしてそんな嘘を吐くんだ!母上に手紙を出して来ただろう?辛いから助けて欲しいと書いてあったじゃないか!」
しばらく言葉が出なかった弟は、急に大きな声でそう言いました。
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