齟齬


 私が遠く離れた場所に嫁いだことで心を病んでしまった?


 私の知る限りそれで心を病む人は実家にはいませんでした。

 ましてや身体まで悪くなるなんて……。


 むしろ私が居なくなったことで、大喜びで寛いでいらっしゃるとばかり思っておりましたのに。


「理解出来ぬな。私との結婚を決めたのは夫人だったと聞いているが?」


「姉のために良かれと思い泣く泣く手放したのでしょう。本当はずっと側に置いておきたかったと。そう言って泣いて暮らしているのです」


 また自然に旦那さまと目を合わせておりました。

 弟は何を言っているのでしょう?


「だからさ、姉上。もう意地を張っていないで、家に帰って来てほしいんだ」


 意地を張っていないで?

 この弟は私の知っている意味でその言葉を使っているのでしょうか?


「いいんだよ隠さなくて。私は聞いているからね。姉上も本当は帰りたがっているのでしょう?辺境での暮らしが余程辛いんだってね?あ、えぇと……伯には大変申し訳ない話ですが」


 旦那さまの眉間にまた一段と深い皺が刻まれておりました。


 痕に残らないとよろしいのですが。

 邸に戻ったら、よく揉んで差し上げましょう。


「お前は妻の何を知っていると言うのだ?妻は私と結婚してからそちらの誰とも連絡を取っていないのだぞ?」


 お前呼びになっておりますよ、旦那さま。

 ここは王都なのですから。ね、旦那さま?


「え?そんなはずは……母が手紙に書かれていたと」


「妻から夫人に手紙を送ったことはないし、逆もない」


「え?えぇと……あれ?」


 弟が臨機応変な対応をとても苦手としていたことを思い出しました。


 三年も経ち、もう私も側におりませんので、成長しているだろうと想像していたのですが。

 この辺りはあまり変わっていないようですね。


 目を泳がせた弟は、やはり私を見ました。

 きっと助けてくれるという期待をその視線から感じますが。


 残念ながら、私はもうあの頃の私ではありません。




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