懸念
「無視するなんてあんまりじゃないの、お姉さま。前々からわたくしを嫌っていらっしゃるとは感じておりましたけれど。久しぶりに会ってご挨拶もなされないほどだったなんて……酷いわ」
妹が涙目になって訴えている相手は、旦那さまのようです。
くすっ。
私は笑っていたみたい。
「なによその顔は!田舎に行っても性格は醜いままね!こんなに悲しんでいるわたくしを笑うなんて!」
私は心配になって旦那さまを見上げました。
すると旦那さまも微笑んでいらっしゃったので、私は嬉しくなりさらに笑ってしまったのです。
そんな私に旦那さまは言います。
「笑っていればいい。私は君の笑顔が好きだからな」
私の心を読んだようなことを仰るので、私も頷いて言葉をお返ししました。
「旦那さまの笑顔も素敵です。いつも見ていたいと思っています」
澄ましたお顔をしているのに、お耳が赤くなる旦那さま。
私はこの可愛らしい旦那さまを愛しています。
だから妹の前でも笑えていたのでしょう。
「ちょっと!無視しないでよ、お姉さま!」
可哀想な妹として、旦那さまに泣き付く計画ではなかったのでしょうか?
妹は家にいるときのように、変わらず怒っていました。
どうして家の誰も妹を止めないのでしょうか。
家の誰も妹に構えなくなっているとすれば、それほど事態は悪化しているのかもしれません。
私がそう懸念したちょうどそのとき。
「姉上。お久しぶりですね」
もう遅いと思うタイミングで、弟が歩み寄り声を掛けてきました。
そして小声で、「静かにしろ。見られているだろう」と妹に囁いています。
すると妹ははっと気付いた顔をして周囲を見渡した後に、にこりと笑顔を作ってからまた周囲をぐるりと見渡しました。
もう遅いように感じますが。
妹もマナーを学んではいたのだなと知れたことで、私は少しだけ安心しました。
学んだことを実践出来てはいないのですから、マナーを身に着けているとはとても言えませんけれど。
知らないよりはずっと多く、まだこれから成長する可能性を秘めています。
私が知る頃にも、妹はマナーを勉強中で、お友だちとのお茶会程度の社交しか経験しておりませんでした。
その後の三年間がどうであったかは分かりませんが、このような王家主催の舞踏会には不慣れなままであったのかもしれません。
とすると、妹がここにいることを不思議に感じました。
他の貴族からの評価をとても気にしている人でしたから。
マナーを伴わない妹をここに連れてくるとは思えなかったのです。
やはり妹の振舞いを気にする余裕がないほど、実家は大変な事態に陥っているということでしょか?
あるいは病状がそれほど悪く、他に妹を見てくれる人がいないのかもしれません。
弟に妹の側を離れずよく見ているようにとの指示さえ、出せていないようなのですから。
『下の子たちに何かあれば、すべてあなたのせいになるのよ?だからちゃんと見ていなさいね。何かあったら、あなたに責任を取らせるわ。あなたに出来ることなんてそれくらいでしょう?』
妹と共に出掛けたことは一度もありませんでしたが。
家を継ぐ弟を連れて外出した際には、事前に何度もそのように言われていたことを思い出します。
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