招待状
結局私は決断をすることなく、旦那さまの「それでいい」というお言葉に甘え、実家に対して何もすることなく過ごしていました。
それは手紙が届いてから二月が過ぎてすぐのこと。
今度は王様から旦那さまと私宛に舞踏会への招待状が届いたのです。
これまでの王家との関係を考えますと、実家のためにわざわざ王様が気を回してくださったのではないか、そう感じ取れるものがあって、私は酷く恐縮してしまいました。
旦那さまはそんな私を珍しそうに見て笑っておられましたけれど。
私からすれば、笑いごとではありません
招待状にそのような旨が書かれていたわけではありませんが、実家が何かご迷惑をお掛けしているのではないか、そのように容易に想像出来たからです。
困ることになるのではないか。
それは嫁ぐ前から懸念していたことでした。
三年も過ぎて今さらそれが現実になったということでしょうか?
実家はどうなっても構いませんが、他人様に迷惑を掛けるようなことはいけません。
王様は当然ながら、領民の皆様が心配でした。
彼らのことを思うと、私は心がぎゅっと苦しくなります。
家を出てからは、実家のためには何もせず、私だけがここで三年も幸せに暮らしてきました。
本当にそれで良かったのでしょうか?
急に強い不安が押し寄せてきます。
「リーチェ?無理はしなくてもいいのだぞ?断ることは可能だからな?」
旦那さまはそう仰いましたが、その優しいお声で私は心を決められました。
大切な家族にまで実家のことで迷惑を掛けたくはなかったからです。
「一度会ってそれで終わりにしようと思います。ご協力いただけますか?」
旦那さまはにっこりと微笑んでくださいました。
「そうだな。勝手に潰れれば良しと考えていたが。二度とこのように君を煩わせることがないよう、早々に片付けて来ようか」
私もまた、旦那さまが実家のことでそのお心を煩わせるようなことがないように、終わりにしてきたいのです。
旦那さまと見詰め合いながら、私は自分が薄情であることを知りました。
旦那さまが晴れやかに笑えば、私の心もすっかり晴れていたから。
もう取るに足らないこと、ぼんやりと気付いてしまえば、心も満たされていきます。
あの頃の私と、しっかり変わっている私。
けれども先ほど感じた強い不安を忘れたわけではありません。
やはりご迷惑をお掛けした皆様には、今からでも何かしたい。
そういう考えを持っていることを旦那さまにお伝えすれば、嫌な顔ひとつせずに、自分も協力すると言ってくださる旦那さまです。
お忙しい身でありますのに、本当にお優しい。
そしてこの地で優しい人たちは旦那さまお一人ではありません。
「言いたいことを言って、すっきりしていらっしゃい」
「かの家との縁が切れようと、うちは何も困らないからね。もう君も我が家の人間だ。二人の好きにしてきたらいい」
不在の間、領地のことは任せるようにと言ってくださったお義母さまとお義父さま。
お二人からも温かい言葉を掛けて見送っていただくことになりました。
「はい、行ってまいります、お義父さま、お義母さま。留守の間のこと、申し訳ありませんがよろしくお願いします」
家族なんだから気にするな。むしろ嬉しいわ。
そう言って笑うお二人に、私も笑顔を返して。
旦那さまと二人、王都を目指すことになりました。
旦那さまも王都はもう五年振りだそうで。
馬車の中では、では王都観光ですね、と。
どこで何をしようか、何を食べようか、そんな話ばかりをしておりました。
私にとっても三年振りの王都です。
けれども私はそう王都の街に詳しくなく、特別な思い出もありませんでした。
今回旦那さまと二人で王都を観光すれば、きっとそれは素晴らしい思い出として私の中に残っていくのだと思います。
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