第2話
「ナイスやでハッチ。あいつらの驚いた顔見たか? まるでケツに膝食らったような顔しとったで!」
おじは助手席から、車を運転している相棒のハッチに話しかけた。
「相変わらず危険な真似をするねェ」
おじは笑いながら話すが、ハッチはおじのことを本気で心配していたようだった。
「おじは無敵やねん」
おじは手に持った万札の数を数えて――にやりと笑った。
「でも良かったのか? おじの家だってバレてるんだろ」
「大丈夫やで。おじをやっても奴らに何の得もあらへん」
「俺の心配してるのはそういうことじゃないンだがな」
ハッチは頭をかいてため息をつく。
「おじの家に来た奴らは全員返り討ちにしたるで!」
おじの強気な言葉とともに、車は夜の大阪を爆走していった。
***
それからしばらく車を走らせた後、二人は街の外れにある、おじの実家に到着した。
「寄ってきや、ハッチ。新型のPS5もあるで」
「お前それ商品だろ」
「ちょっと遊んで戻す分にはバレへんバレへん」
「わかったよ。今日は泊まらせてもらうぜ」
「そうしいや」
おじは自分の実家の玄関を開け、ハッチを中へと案内した。
玄関で靴を脱ぐと、二人は廊下を進み――おじの部屋へ向かった。
「今日はおじのお母さん居ないのか?」
「出かけとるで」
「そっか、挨拶したかったんだけどなァ」
「ハッチは律儀やな」
二人はおじの部屋へ入ると、おじは何かに気づいたように、
「あ」
と間抜けな声を出した。
「どうしたんだ、おじ」
「おじな、PS5のソフト持ってへんかったわ」
「おいおい。仕事熱心なのはいいが、たまにゃァ遊びも必要だぜ」
「遊んでる暇なんてあらへん。おじには金を貯めてやりたい夢があんねん」
「お前に夢があったなんて初耳だな」
ハッチはタバコをくわえるとジッポを指先で軽やかに回して火を付けた。
「今はその夢を叶えるための準備期間や。そのためにも金が必要なんやで」
「ちなみにその夢の内容は俺には教えてくれないのか?」
白い煙がおじの部屋に充満し、おじはその中で静かに夢を語り始めた。
「おじの夢はな、おばぶと温泉旅行に行くことや」
ハッチは思ったよりスケール小さい夢に驚き、額を抑え小声でやれやれと言った。
その時、おじのスマホからビデオ通話の呼び出し音が鳴る。
「誰からだ?」
「オマ・エラヤンの奴からや。出るで」
おじが通話に出ると、画面上には一人の女性が椅子の上に拘束された状態で映し出されていた。
「なんや、誰やねん」
おじは女性が誰かは気づいていないようだ。
画面の横から先程おじが交渉していた
「しらばっくれても無駄だぞ。お前がこの女と親密な関係にあることは確認済みだ」
と言った。その言葉を聞いて、おじの脳裏に嫌な想像がよぎる。その想像は、女性が発した声をもって確信へと至った。
「おじ! 私のことはいいからこんな奴らの言いなりにならないで!」
「この声……おばぶかっ」
ハッチも捕まったのが誰だったかに気づいた。
「お前らの目的はなんや」
おじは声は怒りのあまりに震えていた。
「さっき言っただろ? ローションだよ、ローション。来週のハロウィンまでに持ってこいよ。いいな?」
おじは小さく舌打ちすると、意を決したように、
「わかったで。その代わりおばぶにちょっとでも出したらな、お前ら
おじは画面上の男を殺すような目つきでそう言った。
「おー怖っ。受け取り場所と時間はこの後シークレットチャットで送るから確認しとけよ」
男はそれだけ言い残し、通話を切った。
「オマ・エラヤンの奴ら、やり方が
「どうすンだ、おじ。俺も手伝うぞ」
ハッチはタバコを慣れた手付きで携帯灰皿の中に差し込み、それをポケットにしまった。
「何はともあれ急いでローション作らなアカン。ハッチも手伝ってくれ」
「やれやれ。今週のおじの家はローション工場になりそうだ」
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