第52話 会心
「ニャル。ミレーユとダタイをお願い」
「にゃ!」
レティシアがレッドベリルを睨みつける。
「中々、面白い余興だったよ。本当にキミの能力は素晴らしい! まさに奇跡の顕現だよッ!」
興奮気味に語るレッドベリルに、レティシアは沈んだ声で話し掛ける。その声色は対照的だ。
「あんたが滅びる前に聞いておきたいんだけど」
「ん? なんだい?」
「
「いや、最初はダリルヴァイツ帝國の策略だったんだよ。手強いニーベルンを陥落させるために、帝國魔術士のドルガン・フォーサイトが立てた計画さ。ヤツは
「ダリルヴァイツ……。ドルガン・フォーサイト……」
「しかし、カルナック村の件でキミの話を聞いてね。キミに宿る変わった能力を知って、ボクは確信したんだよ。これは使える、とね。あの時からボクはキミに首ったけさ」
未だ、レッドベリルの興奮は静まる気配がない。
「それじゃあ、魔神たちをけしかけたのもお前なのか?」
ヨシュアが横から質問をぶつける。
「ああ、バークレイは、ドルガンの雇われさ。でも、ヤツらもキミのことをどこかで聞きつけたみたいでね。ボクとしては仕方なく、手を組んだと言う訳さ。もっとも、先走って勝手に滅びちゃったけどね」
「そう……。どっちにしろ、あたしのせいなのよね……。でも……それでもあんただけは許さない……滅びなさい」
静かな言葉の中に怒りを込めて、レティシアは詠唱を開始した。
【古来よりおわす
それをまとうレティシアは、相反する二つの力を必死に制御していた。
最初の
「また命術か。その程度ではボクは倒せないよ。ボクとしてはその膨大な命力をキミの特殊能力に注ぎ込んで欲しいところなんだけどな」
白と黒が混ざりあった強大なる力を見てもレッドベリルはつまらなさそうにしている。
【
古来より存在し、敵対していたとされる
解放された命術がレッドベリルの身を飲み込み、その肉体と精神を滅ぼさんと猛り狂う。
「グウウウウウガガガガッ!」
神魔の力が組み合わされた
流石にダメージを受けているようだが、油断はできない。ここでレティシアは『
「ウルグアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
レッドベリルの呻き声が絶叫へと変わる。
「なん……だとッ!?
その絶叫と共に抑えきれなくなった力が暴走し、レッドベリルは体の中から爆散した。
凄まじいまでの轟音。
荒れ狂う力の余波をその身に受けながらレティシアは呟く。
その息は荒い。
「はぁッはぁッ……これが新興神の力? 有り得ないわ……」
そして嵐のようなその力がようやく治まる。
「そこまでのもんなのか?
ヨシュアから絶望の声が漏れる。
「はぁッはぁッ……しぶといわね……」
レティシアは究極と言って良い程の
「くははははッ! まさか、ダイナクラウンの力まで使うとはなッ!」
「まさかこれ程の術を使えるとは想定外だ。仕込んでいた術式が壊れてしまった。今回は退こう。例えこれで『創造』の能力に目覚めても支配下に置くこともできん」
「はぁッはぁッ……『創造』ですって? なーに、一人で勝手に納得してんのよ。ふーッ。こっちは全然理解できないわよ」
「ふん。勝負は次回だ。それまでせいぜいボクを倒すために特殊能力を磨いておくことだ」
そう言い捨てて逃げようとしたレッドベリルの目が驚きに見開かれる。
「何故だッ! 転移できないだとッ!?」
今まで一貫して余裕を浮かべていたレッドベリルが初めて取り乱した様子を見せたのだ。
「何が起こっているッ!? お、の……れッ……誰だ……俺の邪魔をするのはッ!」
「何か知らないけど、チャンス到来ってとこかしら……? ヨシュアッ!」
「おうッ!」
怒れる亜神の口調は、最初の余裕に満ち溢れたものから、荒々しいものへと変化している。余程、混乱しているのだろう。
「くそがぁッ! ここで女を覚醒させるしかないのか……。術式を張り直さねば……」
ぶつぶつ呟くレッドベリルに向けて、ヨシュアが大剣を向けた。
ヨシュアが飛びかかろうとしたその瞬間、レッドベリルの口から信じられない言葉が飛び出る。レティシアにとっても。ヨシュアにとっても。
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