第51話 代償
死の宣告を受けたのは――ミレーユであった。
「ぐッ……」
小さく呻いて地面に倒れ込むミレーユ。ヴィスタインは慌てて彼女を抱き起す。
「ミレーユッ! ミレーユッ!」
しかし、ミレーユは呼びかけに応じない。
「こ、これは……」
ヴィスタインが目を見開くと、その表情は絶望に染まっていく。
「レティシアッ!
ショックを受けているレティシアに更なる衝撃が襲った。トーメル薬はもうない。そもそもミレーユは今朝、薬を服用したばかりなのだ。こんなに早く症状が進むはずがないのだ。
「ミレーユッ! ミレーユッ! クソッ! クソがぁぁッ!」
ヴィスタインの絶叫が響く。そして誰にも向けられない怒りと悲しみが彼を支配する。レティシアとヨシュアが二人の下へ駆け寄る。ミレーユの皮膚の
《ヴァンパイアの心臓》もない。
最早、希望は残されていなかった。
レティシアは呪った。
自分の無力さを。
『
レティシアは思い出していた。
スキッドロアの言葉を。
――無から有が生み出せたら。
レティシアが己の無力さに苛まれながらも、訳も分からず自身の
《ヴァンパイアの心臓》を、いや
ヴィスタインは抱きかかえていたミレーユをそっと地面に横たえ、彼女の頬をそっと撫でた。そしてミレーユの綺麗な顔を目に焼き付けるかのようにじっと見つめると、不意に立ち上がり言った。真っ白な天を仰ぎ見て。
「そうだ。そうなのだ。最初からこうすべきだったのだ」
レティシアが泣きはらした目でヴィスタインを見上げる。
「苦しいか? ミレーユ……。今、楽にしてやるからな……」
ヴィスタインは再びミレーユに目をやると、静かに語り掛けた。
その口調には優しさが籠っていた。未だかつて聞いたことのない慈愛に満ちた声色だ。
その淡い紅の瞳に強い決意をみなぎらせ、ヴィスタインは続ける。
「レティシア……迷惑をかける。後は頼んだ」
そして、上半身の軽装鎧を外し、中に着込んでいた衣服を剥ぎ取ると、おもむろに右手を胸に当てる。レティシアとヨシュアが困惑した様子でそれを見た。
「うおおおおおお!」
ヴィスタインから雄叫びが上がる。
彼は右手を胸にねじり込ませて、自らの心臓を抉り出した。
鮮血がレティシアに、そしてヨシュアに降り注ぐ。
ゆっくりと倒れ伏すヴィスタインの体をヨシュアが受け止める。
茫然とその光景を眺めるレティシアに、ニャルの声が飛んだ。
「姉ちゃん! 『未知なる記憶』にゃ!」
その声にレティシアは反射的に能力を発動した。
「『
すると、『
自動的にページがめくられ、眩く光り輝いた。
その開かれたページは――――《ヴァンパイアの心臓》
レティシアに衝撃が走る。
その様子を見て、『
動揺するレティシアにニャルとヨシュアの叱咤の声が掛けられる。
「レティ姉ちゃん!」
「しっかりしろッ! ヴィスタインの
その声にようやく我に返ったレティシアは、錬金を開始する。
胸の前でパンッと両手で柏手を打ち、集中を始めると、『
レティシアはそれを手に取ると、ゆっくりとミレーユに飲ませていく。すると、たちまち
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