第25話 新たな面倒事の予感
ダタイから《
ゆっくりとした足取りで、周囲に目を向けながら。
忙しそうに街を行き交う人々。外を元気に駆け回る子供たち。家の修理をしている職人が何か怒鳴っている。この喧騒に溢れ、元気そうな人々が行き交う街の中で、今、原因不明の
そうこう考えている内に、レティシアは街の中央にある、噴水広場に辿り着いていた。広場の西側には人だかりができていて、そこから大きな声が聞こえてくる。レティシアは一体何事かと興味を惹かれ、その人だかりに向かって歩き出した。
そこでは法衣をまとった男が、群衆に向けて何やら訴えかけているようであった。
壇上から大声で檄を飛ばしているのは、以前見た司教の男性であった。レティシアは、あの日のことを思い出す。名前はスキッドロアと言ったはずだ。
背後から射す西日のせいもあってか、レティシアは彼が、まるで後光が射した聖人のような印象を抱いてしまう。もし狙ってやっているのだとしたら大したものである。レティシアが来るのが遅かったのか、説法は終わってしまったようだ。集まっていた人々は解散して、思い思いの方向へと去って行く。
「ま、いっか。帰ってコーヒーでも飲もっと」
レティシアは特に宗教に興味がある訳でもない。せいぜい、術式研究の一環で神話に触れる程度だ。さっさと帰ろうとするレティシアの背中に聞き覚えのある声が掛けられる。
「この前のお嬢さんではありませんか?」
「あら、あたしのことを覚えていらっしゃるなんて……」
「ふふふ……
振り返って余裕の表情を見せたレティシアであったが、思ってもみない言葉を掛けられてビクリと肩を震わせた。
「ッ!?」
「気を付けた方がいい。お嬢さんは今、注目の的です」
「へぇ……。あたしは一体、どんなお方から熱烈な歓迎を受けるのかしら?」
「古代神の手下共からですよ」
レティシアの脳裏に
ドライグ王国の近隣諸国に存在する亜神と言えば、ダリルヴァイツ帝國のレッドベリル、アンフォニー王国のコーラル、ジルニーク王国のアパタイトなどが挙げられる。しかし、レティシアは、神なんぞから自身が注目される理由など思いつかなかった。そこへある予感が心の中に小さい染みのようにじんわりと広がった。〝もしかして〟、〝いやまさか〟、二つの言葉が頭の中で揺れる。その不安は水面に広がる波紋のように大きくなっていった。
黙り込んだレティシアにスキッドロアが神妙な顔付きを向ける。
「注意してください。亜神の古代神に対する忠誠は絶対……いや狂信的と言ってもいい」
「……心に留めておくわ」
レティシアの中で嫌な予感が加速する。スキッドロアが信じるに足る人物なのかは不明だが、直感が当たっているならば、今後面倒事に巻き込まれることは間違いないように思えた。
苦い思いが心に広がる中、レティシアがスキッドロアに背を向けて立ち去ろうとすると再び声を掛けられる。誘いの言葉だ。
「ところで、神従の儀を受ける気にはなりませんか?」
「……それは結構です」
「そうですか……。それは残念」
スキッドロアはそう言うと俯いた。その声には以前と違い、落胆の色が混じっていた。
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