第19話 交戦
気配を断って近づいた探究者たちが、盗賊の見張りの命を刈り取る。
既に空は闇に支配されている。それに乗じて探究者たちが静かに村内へと進入を開始した。斥候の話では村で一番大きな建物で盗賊たちが盛大な宴会を開いていると言う。そこに多くの女性たちが捕えられているらしい。
探究者たちは各々に与えられた指示の通りに動いて行く。レティシアは別に護衛の依頼を受けた訳でもないにもかかわらず、ホレスに付いて目的の建物へと突入した。
不意を突かれた盗賊たちは、泥酔していることもあって次々と討ち取られていく。ホレスは血走った目をキョロキョロと動かして、辺りを見回しながら進んでいく。探しているのはもちろん、妻と息子だろう。
そんな時、ホレスに一人の盗賊が襲い掛かった。辛うじてその一撃を受け止めたホレスであったが、剣をろくに扱ったこともない彼には斬り合いを演じるなど到底無理な話であった。すかさずレティシアがフォローに入る。力の杖で思い切り盗賊の後頭部を殴り付け、昏倒させると、更に斬りかかってきた一人の剣撃を受け止める。
「何ッ!?」
「この杖はちょっとやそっとじゃ斬れないわよ。しかもそんなナマクラじゃねッ!」
レティシアは体重をかけて圧し掛かってきた盗賊を、力を抜いて前につんのめらせると、力の杖を脳天へと振り下ろす。盗賊の男は何とか受け止めようと剣を突き出したが、力の杖にあっさりと圧し折られてしまった。驚愕の表情をする男にレティシア渾身の一撃が決まる。体を守っていたプレートをひしゃげさせ、男は盛大に吹っ飛ばされて料理の並ぶテーブルに頭から突っ込んだ。
レティシアが横目でホレスの様子を窺うと、ファルが彼を援護しているのが見えた。頼もしいファルに少し安堵していると、屋内に
「ハッハァッ! テメェらの隊長様は討ち取ったぜェェェェ!」
多くの視線が集まる先には、三メートルは有ろうかと言う
狼男は
「なんでェ、人間共がッ! テメェらはクソ雑魚ナメクジ以下かァ?」
レティシアは自分では太刀打ちできないことを理解して、ジリジリと後退していく。しかし、どうやらこの日の運勢は最悪だったようだ。狼男はレティシアを次の目標に定めると、凄まじい速度で間合いを詰める。そして上段から戦斧を振り下ろした。
――避けられないッ
ガギッ!と言う音を残してお互いの得物が衝突した。
「何だとッ!?」
杖如きに自慢の戦斧が受け止められたのが信じられなかったのだろう。狼男から驚愕に満ちた声が漏れる。レティシアは目の前の奇跡に感謝した。理術で更に力の杖の強度を高めていたお陰もあってどうにか杖が圧し折れずに済んだのだった。ひ弱な人間の女に自慢の攻撃を防がれてプライドが傷ついたのか、狼男はすぐに追撃を仕掛けてくる。
「マスターッ!」
ファルの悲鳴のような声が響く。戦斧が唸りを上げて迫り来るが、体が言うことを聞かない。レティシアは硬直が解けないまま、ギュッと目を瞑った。しかし、いつまで経っても痛みがやってこない。それに疑問を抱いたレティシアがそっと目を開くと、そこには巨大な戦斧を受け止めるヨシュアの背中があった。
「何だテメェはッ! 一騎討ちを邪魔するたァいい度胸じゃねェかッ!」
「こう言うのを一騎討ちとは言わねぇんだよ。この獣くせぇワン公がッ!」
ヨシュアが両手で持った大剣を一閃する。その鋭い斬撃に狼男は大きく飛び退ると、その分厚い胸板が薄く切れ鮮血が滴り落ちる。完全にかわしきることができなかったようだ。
「俺様に傷をつけるだとッ!? テメェは殺してやるッ!」
「御託はいいからかかって来いや、この犬野郎がッ!」
あくまで挑発を止めないヨシュアに戦斧が叩きつけられるように振り下ろされる。それを紙一重でかわし、次々と攻撃を放っていく。下段から振り上げ、斜めから袈裟斬り、中段突き、そして大上段からの一撃から隙のできた脇腹への薙ぎ払い。流れるような連携攻撃だ。
手数の多さで圧倒され、押されまくる狼男の表情が怒りに歪む。
「人間如きにッ! この俺がッ! 押されるだとォォォォ!」
「ベラベラとうるせぇんだよッ! そのくせぇ息止めろや!」
ますます、逆上して怒り狂う狼男は、ヨシュアに翻弄されていた。攻撃が雑になってできた隙を突いてヨシュアは確実に敵を追いつめていく。
その頃、建物内の盗賊は狼男を除いて皆、掃討されていた。
レティシアはヨシュアの勝ちは最早、揺るがないと判断して、囚われていた女性たちの方へ向かう。怪我を負っている者には、ホルスターに挿していた回復薬を与え、他に重篤な怪我人がいないか聞いて回った。ホレスは女性の中に妻の姿を発見したようで、号泣しながら抱きしめ合っている。
「外にはまだ盗賊がいるみたい。ヴィスタインはそっちで戦ってるわ」
いつの間にか、ミレーユが隣に来ていた。
「こっちは、あの狼男だけね。もう決着はつくと思う」
レティシアはそうミレーユたちに伝えると、外に怪我人がいないか確認する。
「そうね。レティシアさんの回復薬があれば助か――」
「クソッタレェェェェエェェェ!」
ミレーユの言葉を遮ったのは追い詰められていた狼男であった。その絶叫に探究者たちの視線が集まる。そこには対峙する二人の姿があった。
「もう諦めろ。どうやらお仲間は全滅しちまったみたいだぜ?」
「グゲゲゲゲゲッ! アホかテメェは! 俺の真の力を見せてやんよ。
その言葉と共に、狼男の体から何かの力が溢れ出し、空間に満ちる。
それと同時に、傷ついていたその体が回復していく。
それは驚愕の一言であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます