第8話 お伽噺
「あら美味しい」
デイブのその一言を聞いてレティシアはホッと胸をなで下ろした。どうやら彼女の口に合ったようだ。デイブの隣に座るアンソニーも心なしか、安堵したような顔をしている。
「苦いって聞いていたから、少し不安だったけど甘くて飲みやすいわ。甘味の中にも少しの苦味も感じられて、ちょうど良いアクセントになっているのね」
「甘いのか。何てぇ飲み物なんだ?」
「カフェオレと言います」
「まーた知らねぇもんが出てきやがった。レティちゃんは博識だねぇ。一体どこでそんな知識を仕入れてくるんだね?」
「んーと、大体は本からですね。後は親から色々と……」
本当はそれに加えて、何故か突然、理解できる不思議な現象もあるのだが、レティシアはそのことに関しては黙っておいた。
「厳しい教育を受けたのかい? ご両親はどこにいるんだい?」
「古都エルトに住んでいるはずです。引っ越していなければ……ですけど」
正確には父親だけである。レティシアの母親は、彼女が小さい頃に既に他界している。
「エルトに住んでいたのね。あそこにはかつて
「神話ですか?」
「聞いたことがないかい?
もちろん、レティシアも知っている。小さな頃、両親に良く聞かされたものだ。彼女がそれを思い出して遠い目をしていたのをデイブは神話を知らないと理解したのか、怒涛の勢いで話し始めた。
――かつて、この世には実体がなかった。概念としてドロドロとした無の中を揺蕩っていた
デイブはまるで吟遊詩人のように神話を詠い上げると、満足したかのようにむふーッと大きく息を吐き出して、少しぬるくなったカフェオレを一気に飲み干した。
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