第5話 契約
レティシアは、初めて目にするものがあれば、必ず入手するようにしていた。
既に、必要な素材が判明している薬も増えてきたが、まだまだ『
レティシアが出品されている品々を品定めしていると、背後から不気味な声が掛けられた。
「これはこれは……ドラゴンテイルのレティシアさんじゃあーりませんか?」
「げッ!?」
思わず、はしたない声を上げてしまうレティシア。
その声には聞き覚えがあった。
製薬ギルドに所属するメンバーの一人だ。
その男性はレティシアの様子などお構いなしに言葉を続けた。
「聞きましたよぉ……喫茶店を作ったそうですねぇ。錬金術でお安く薬を作って安値で売りさばく。錬金術士の方々は悠々自適なスローライフを送ることができてさぞ快適でしょうなぁ」
「あら……。そんなスローライフだなんてとんでもない! 製薬ギルドさんの方こそ、随分と羽振りがよさそうなことで……そのあくどい……もとい、素晴らしい手際をあたしも是非見習いたいものですわ」
レティシアが満面な笑みでそう返すものだからその薬師の男性はバツが悪そうにそそくさとその場を立ち去っていった。
男性が見えなくなるのを待ってニャルがこぼす。
「ニャル、あの人きらいー!」
「あら、奇遇ねニャル。あたしもよ」
流石、ニャル。かわいい。
その後、何種類かの新素材を購入し、苗木屋さんへとやってきた。
今日は普段、購入しない素材を購入したため、かなりの出費となってしまった。
そこへ予定外の岩石の購入を決めたものだから、ただでさえカツカツな資金が底をついてしまった。
苗木屋さんでハーブの苗を品定めする。
「いい香り……」
ハーブティーでも入れてみようかなとレティシアは考える。それを喫茶店で出してみるのも良いかも知れない。あとは、アロマキャンドルを作ってみるのも良いだろう。そんなことを考えつきながらも、レティシアはアロマキャンドルとは何ぞや?と混乱する。こんな感じで言葉は浮かぶのだが、その意味が理解できないと言うことがたまにあるのだ。
レティシアが一人で混乱していると、不意にいい匂いが漂ってくる。
何かの肉を焼いている匂いだ。それにつられてレティシアとニャルは、屋台が並んでいる区画へと足を向けた。
「疲れたし、何か食べる?」
「食べるー!」
そこでは、串焼きやパン、飲み物などが売られているようだ。
レティシアは、ホットドッグとフェンシーのジュースを買って、近くに設けられている飲食スペースに移動すると、席に着いて食べ始める。
ニャルも疲れていたようで、パンにかぶりついている。
「ゆっくり食べなさい。喉に詰まっちゃうよ」
「むぐむぐ」
「ほら、ついてるぞ。ホント子供なんだから……」
レティシアはそんなニャルを微笑ましく見守りながらパンをジュースで流し込んだ。
そうやってゆっくりと食事をとっていると、鐘の音が聞えてくる。
鐘が十回鳴らされた。これが十の刻だ。
レティシアは近くにあったゴミ箱にゴミを捨てると、ニャルに声をかける。
「ほらッ行くよ、ニャル」
「うん。行くー!!」
ニャルはそう言って立ち上がると、リュックを背負ってレティシアの後ろからついて来る。そして、フェルムート商会の出店ブースまで来ると、店番をしていた男性に話しかける。
「こんにちは。フェルムートさんは?」
「ああ、レティシアさんだね? ちょっと待っていて頂けますか? すぐに呼んできますので……」
その男はブースの奥に引っ込むと、フェルムートと公証人を連れてきた。
「おう。レティちゃん。契約書に内容を落とし込んでおいたから確認してくれるかい?」
そう言って差し出された契約書をレティシアは読み始める。
じっくり読んで、内容に間違いのないことを確認したので、これで契約する事にする。
レティシアはペンを借りて自分の名前を書きこんだ。
そして公証人が契約書を受け取ると、呪文のように言葉を紡ぎ始める。
【この契約書を持って、契約と成す。
すると、契約書が空中に浮かび上がって一瞬でボッと燃え尽きたかと思うと、用意してあった数枚の紙に内容が自動的に転写されていく。
こうして契約者のレティシア用と、商会用、公証人用の契約書が作成されるのである。
更にドライグ王国の国民が必ずもっている、認証用タグにも記録され、契約内容を守らないとペナルティが課せられるのである。契約内容がちゃんと履行されれば、信用度格付けのランクは下がらない。ちなみに、最高はS+ランクで最低はE-である。信用度が下がれば、様々なサービスが受けられなくなったり、大口の契約が出来なくなったりと不便な目にあう事となる。
契約が終わったので、レティシアは
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