第6話

「妹がいたらこんな感じかな?」

「にゃーん」

「娘の間違いじゃないかって、ちょっと大きくありませんか?」


 寝て起きて、ご飯を食べて、泣いて笑ってご飯を食べて、また寝てしまった。寝ている姿もまた可愛い、あとは起きたらシャワーだな。

 子供用の布団も必要だな。モモがどこから来たのか知らないが、体の傷から判断すれば少なくこともここにいた方がましだろう。

 こんな可愛い子に酷い仕打ちをするなんて、この世界は俺が思っている以上に厳しい世界らしい。


「にゃーん」

「そうですね。このままここにいるなら必要な物も増えるし頑張らないとですね」

「にゃーん」


 なんだか姉さんに優しい子だよお前とか言われると照れてしまう。明日も早いし早く寝ないとな。

 シャワーは明日でいいか。収穫が終わった部分はまた耕し直して、種を埋めないと。


★★★


 畳で寝たせいか少し体が痛い。モモは大福に抱きつきながらまだ寝ている。子供と犬の組み合わせって動画でしか見たことなかったけど、リアルで見ると破壊力がやばい。


「モモ、起きれるか?」


 揺さぶられると、パチリと目が見開く。昨日から思っていたが寝起きはやたらいいようだ。

 起きて直ぐに土下座をしようとするので、そのまま抱き上げる。


「シャワーの時間だ」

「しゃわですか?」


 なにこれ可愛い。


「にゃーん」

「水浴びですか?」

「そんなもんだ」


 モモのスウェットと下着を洗濯機にツッコミ、俺はパンイチのままシャワー質に一緒に入る。

 まだモモの身長だと、シャワーまで届かないのでシャワーの操作関連は俺が担当する。

 この家もアップグレードは可能なんだよなー、風呂に入りてぇ。

 モモが珍しそうにキョロキョロとシャワーやシャンプーなどを見ている。


「それではまず、体からいきますか」

「……はい」

「心配いらないからな、熱かったり、痛かったら言えよ」


 そうは言ってもモモは痛くても我慢しそうだ。シャワーから出てくるお湯にどきまぎしているモモに目を瞑っているように話お湯をかけていく。

 そしてスポンジでできるだけ優しく擦っていくと、あっという間にスポンジが黒くなっていく。2回ほど繰り返してみたが、あんまり擦る過ぎるのはよくないか。

 ある程度で切り上げて、髪を洗っていくが長い髪を洗うのって思った以上に大変だ。女子はこれを毎日やってるのかよ。

シャンプーのみ2回やって、とりあえずリンスを塗って、流して終わり。

洗って終わってみれば、くすんだ黒髪かと思ってたが美しい白い色の髪だった。


「モモ、終わったけどちょっと待ってな。まだ目を瞑ってるように」


 タオルでできるだけ水分を拭き取り、新しく用意しておいたワンピースを着せる。


「よし、いいぞ。あとはドライヤーだな」

「あの、私は死んでしまったんでしょうか?」


 ドライヤーで髪を乾かしていると真顔で何か変なことを言い出した。


「にゃーん」

「ここは天界ではないんですね。こんなに気持ちいいのが現実なんですか」

「そうだよ。モモは年齢の割に言葉遣いがしっかりしているね。何歳なの?」

「ちゃんとしないと、怒られるので。年齢……もう少しで成人だって言われました」

「せ、成人!」


 え? 見た目以上に年齢高いの? 一緒にお風呂入っちゃったけど問題あった?


「にゃーん」

「わん」

「にゃーん」

「成人ってこの世界では13なんですね。それでモモは10歳と。神獣ってそんなことまでわかるのかー」


 10歳ならセーフだろうか。きっとセーフだよな。

 痩せてるから見た目以上に幼く見えてしまうんだろうか。それにしては身長が低いな。

 ガリガリだったし、食べ物の問題だろうか。


「髪がサラサラです」


 真っ白な髪が差し込んでくる日差しに反射して輝く、とても綺麗な髪だ。


「喜んでもらえてよかったよ。それじゃあ、俺はシャワーを浴び直してくるから少し待っててもらえるか?」

「わん!」


 図々しくも、大福がブラシを咥えてこっちにやってきた。


「大福、ダメだぞ」

「わん!」

「私にやらせてください」


 モモが真剣な眼差しでこちらを見上げてくる。あれか黙って待ってる方が不安かもだし。


「わかった。お願いするよ」

「はい」

「わん!」


 シャワーを浴びながら考える。女の子って必要な物多いよな。シャンプーとかリンスだって俺とずっと兼用って訳にもいかんし。それよりもモモが帰りたいとか言うかもしれないし、モモが暮らす前提で考えないでまずは話し合いが先か?

 少なくとも帰るとは言わんと思うけど、彼女の意思を確認するのが先か。


「ここですか?」

「わん!

 

 大福が腹を見せながら、涎を垂らしてブラッシングされている。俺がやると、数分で逃げてしまうのに。

 モモが俺が出て来たのを見てどうするか目配せをしてくるので、そのままブラッシングを続けるように促す。

 Tシャツにツナギを着て髪を乾かし、昨日の残りを温め始める。


「ここが良いのですね」

「わん」

「にゃーん」

「え? モモって大福とも喋れてるんですか?」

「にゃーん」


 ほへー、いいなぁー、俺も話してみたい。これはモモの特殊技能なのだろうか、それても異世界人の標準機能なんだろうか。


「ほい、大福。ご飯の時間なので終了です。今日も悪いが自分の食いぶちの確保お願いしてもいいか?」

「わん!」


 元気よく大福は扉を器用に開けて今日も飛び出していく。また人間を拾って来ないといいけど。

 姉さんの食事の準備をした後に、昨日の残りを器に入れてモモの前に置く。俺はいつもの安い食パンを2枚用意する。


「それでは姉さん、モモいただきましょう」

「あの一緒に私も食べて良いのでしょうか?」

「もちろんだよ。こっちのご飯は大人用で、モモのが子供用で別のものだからね。それじゃあいただきます」

「いた? だきます」


 俺が食パンを口にしたのを見てモモも昨日のお粥をパクつき始める。それでも俺の様子を窺っているのは変わりない。 

 相手の反応を見ているのはモモの処世術なのか、俺の真似をしているのを見ても相手に合わせたり反応を確認しているのは、賢い子なんだと思う。


 姉さんは先にだべ終わり、モモは俺と同じタイミングで食べ終わる。食器を片付けようと立ち上がり、モモのも回収しようとすると、自分の食器を持ち立ち上がる。まだ食べたい……訳ではなく、ジッと俺を見ている。きっと片付けをしてくれようとしているんだろう。

 台所に自分の食器と姉さんの食器を持っていくと、後ろにモモもついてくる。


「ありがとう、モモ」

「はい」


 食器を俺に渡すと、洗い始めた俺の横で、シンクに身を乗り出して様子を窺っている。

 洗った後の食器を水切り籠に入れていく流れを興味深げに最後まで見ていた。


「モモ、少し座って話そうか」

「……はい」


 モモの緊張が伝わってくる。たぶんこれからの話になるとわかっているんだろう。

 俺と姉さんが対面に座ったのを確認すると、ちゃぶ台越しの対面にモモも座る。


「モモとのこれからのことを話たいんだけど」

「はい、ご主人様! ここで働かせてください!」

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