第4話
「にゃーん」
「まだ眠いですー」
「にゃーん」
「わん!」
姉さんの猫パンチと並行して、大福が俺から布団を奪いさる。パンイチで寝ていたのもあるが寒い、森の中ということもあってか日本では東北に住んでいたのにそれ以上に体感寒く感じる。家の構造の違いもあるのかもしれない。
「今日から学校もないんですからないんですから後5分だけでも……」
「にゃーん」
「働かないといけないのはわかってるんですけど、まだ初日でお金も少しはあるし」
「にゃーん」
本気の猫パンチを喰らいたいのかと手を振りかぶる仕草を見せてくる。冗談ですよー、やだなぁ姉さんは。
洗面所はないのでキッチン兼洗面所で顔を洗う。一番安かったタオルと歯ブラシに歯磨き粉、下着にシャツに食器に洗剤各種などなど、生活に必要な物を購入したら5000円しか残ってはいないが、6枚入りの食パンを購入しているの1日くらいゴロゴロしても問題ないんではないかとも思っていたけど、1日種を植えるのが遅くなればそれだけ収穫も遅くなると姉さんに尻もとい、顔を叩かれないように行動を開始する。
6枚入り、300円の食パンを1枚貪っている横で姉さんはパウチとカリカリを混ぜたご飯を美味しそうに食べている。
明らかに姉さんの方が現状で高いご飯を食べているが大きな不満があるわけではない、ここ数年はカリカリなんてふやかさないと食べれなかったし、パウチも半分以上残すのが当たり前だった。それがここまで元気になってくれたのは素直に嬉しい。
「わん!」
大福が元気に吠えた後に、器用に扉を開けて外に出ていく。姉さんに聞いた話だとこれまで大福は自分で狩りをして肉を確保していたらしい。久しぶりにカリカリを食べたいと言いわれたが、神様が用意してくれるラインナップについては犬猫用品に妥協がない。簡単に言えば高いのだ。
安いご飯など買わせる気配はない。これは神様が守銭奴でな−−守銭奴ではあるけどこの姉さんや大福の健康を考えて厳選した商品しか置いてないのだ。現に俺のご飯や衣類については高い物から安い物まで揃っている。
大福は大型犬な訳で、一回の食事の量も多く現状では手が出ない。甲斐性なしで申し訳ないが、狩りができるなならご飯の確保は引き続き自分でお願いしている現状だ。
「にゃーん」
「はい、はい頑張りますよ」
Tシャツを着て、ツナギ、麦わら帽子、最後に長靴を履く。これぞ農作業って格好だ。ラインナップの中にカッコイイ作業着シリーズなんてのもあったけど、姉さんに節約だと却下された。結果は激安の一着1000円のツナギを2枚購入するに至った。
自宅の小屋の後ろの納屋から鍬を引っ張り出し、肩に乗せる。どうだこれぞ作業人って感じだろ! まぁ農作業なんて幼稚園の時の芋掘りくらいしかしたことないけどね!
「にゃーん」
「あ、はい。キメ顔しててすいません。作業します」
グランドくらいの面積はあるが畑として機能するのはその4分の1くらいで、その他の空き地については施設を別途建てれるようだが詳細はまだわからない。
まぁ、それでも一般の家庭菜園よりでかい。田舎の家庭菜園くらいの大きさくらいはあるだろうか。ばあちゃんも元気だった時は近所の人から余ってる畑を借りてじいちゃんと畑をやっていた。
俺は日曜日とか借り出されるのが嫌で終始逃げ回っていたら、そのうち声が掛からなくなった。今思えば手伝いをさせたかったんじゃなくてコミュケーションの一環で声をかけてくれてたんだろう。年齢を重ねてから、人が亡くなってからの後悔は多くなっている気がする。
「にゃーん」
「はい、ばあちゃん達の畑手伝ったり、もっと話せばよかったなって」
「にゃーん」
こぼした水を元に戻すことなんてできない。後悔もいいが今はするべきことをしろと言われた。
付け加えて、それに俺といてじいちゃん達は幸せそうだったと、姉さんはまだ手を付けらていない草原を眺める。
俺がじいちゃん達に引き取られたのは8歳くらいの時で、姉さんは子猫の時からじいちゃん達と一緒だった。なんだかしんみりしちゃったけど、姉さんの方がずっと悲しいのかもしれない。
「それじゃあ、やりますか!」
「にゃーん」
ザクザクと草原の畑エリアを耕し始める。思った以上に辛いんですけど。なんか普段使わない筋肉を酷使されていると実感できる。やりますか! なんて姉さんに啖呵を切ったが想像以上に辛い。
姉さんは優雅に小屋にある小さな縁側で目を細めながら日向ぼっこをしている。羨ましい。
俺がサボろうものならな、文字通り異世界にきて上がった能力で飛んでくるんだろう。どうやら姉さんは魔法なども使用できるようで俺よりも遥かに強い存在となっている。姉さんぱねぇっす。
幸いにして土が比較的柔らかいので1時間ほどで畑予定の範囲の半分を耕すことができた。
この空間、【神の庭】についてはあのファミレス様が当時、スローライフもののラノベと牧場系ゲームにハマったことがきっかけで、自分で遊ぼうと思ったのがきっかけだったらしい。
難易度についてもあまりに簡単すぎてはいけないと、耕すなどの作業部分については自分の力でやるように設定していたが鍬を振りかぶれなくて直ぐにやめてしまったというのはクールビューティーさんの言だ。
それでも現実の農家さんの苦労ほどではない。作物などが現実よりも早く育つらしい。じゃがいもなら3日で収穫が可能で収穫期に植えればいいと、非常に簡略化されたやったことがあるゲームと同一の仕様となっている。
今は暦として6月となっているので、じゃがいも、キャベツをメインに、あとはこれさえあればなんでも美味いニンニクと余ったスペースにきゅうり、ピーマンなど各種野菜を広く浅く植える予定だ。
「わん!」
「うぇ、大福」
口元が血で真っ赤になった大福が「なんで一人で遊んでるの?」と言わんばかりに全力疾走で駆け寄ってくる。
「待て! 大福待てだ!」
「わん!」
わかった! と言ったのだろうか。やっている意味がわかっていない大福が耕している続きから草原部分を前足で掘り始める。その勢いは止まる事を知らず、あっという間に畑部分を雑ではあるが掘り返してしまった。
これは続きをやる分には楽そうだけが、大福から黒糖饅頭へと変貌してしまった犬がそこにいた。
「大福……」
「わん!」
「あ、ありがとな。でも続きは俺がやるから」
「わん!」
褒めてと言わんばからの泥だらけの大福を撫でて、畑を改めて整治していく。間に歩く道を作り、土を掘り返し植えるための小山を作っていく。見よう見まねだけいい感じではないのかな。
「にゃーん」
「いい出来てしょ姉さん! え? 汚いって? ああ、大福ですか」
綺麗好きな姉さんは正に汚い物を見るめで大福を見ている。当の本人は「なに?」と可愛らしく首を傾げている。
仕方なしに犬用品のショッピングサイトを確認する。
「3000円だって!! おい、大福!」
「わん!」
犬用のシャンプーたけぇ! これで一番安いのとかどうかしてるよ!
大福がシャワー室に収まるわけもなく、小屋に新しく設置してもらった井戸も水が冷たいので仕方なしに、家のキッチンから引っ張って来れるように長いホースとアタッチメント購入する。キッチの蛇口も古いタイプでよかったよ。
★★★
不幸中の幸いか、お金は減ったものの、このホースは活躍した。家の前が畑のため、水やりが非常に楽だったのだ。
耕した翌日は筋肉痛でボロボロだったので非常に助かった。
そして念願の収穫となったじゃがいもをシンプルに茹でて塩を振っていただく。
「美味い!」
「にゃーん」
頑張ったねと姉さんが褒めてくれた。ご褒美にブラッシングもさせてくれるらしい! 今日はいっぱいもふるぞ!
「わん、わん!」
大福が吠えている? どうしたんだろう珍しい。
「にゃーん」
姉さんが緊迫した様子で早く来なさいと、急かされる。
そこにはボロボロのエルフちゃんがいた。
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