第3話

 クールビューティーさんが説明してくれた概要はこうだ。

 大福を助けようと、金髪さんのパパにお願いしたが、そもそもが金髪さんの管理がしっかりしていないから大福が怪我を負うことになったようで、自業自得と言われたのと可哀想だけど神様が直接手を下すのは禁止と言われたらしく。

 異世界人の召喚なら問題ないだろうと俺を召喚したが、ここでも問題がいくつか浮上した。

 

 どうやらは大福は【神獣】と呼ばれる特殊な個体らしく、現地人に治療ができないのは当然として、対象となる異世界人にも相応の負担を強いる必要がある状況だった。ようは能力がなくなってしまうことだ。

 本来であればこのような重要事項がある場合については契約書と口頭での案内が推奨されているが、これをわざと飛ばしたらしい。

 ちなみにデメリットがない場合にはネットでもはい、いいえの回答のみで異世界に転生する仕様もあるらしい。そうですよね、今は業務効率化の時代ですからネットも活用しないとね。


「にゃーん」

「それは出来かねます。推奨されているだけで、契約書に明記されてますから」


 姉さんが意図的にはめたのであれば契約は無効ではないかと言ってくれたが、まぁ明記されているなら無理か。そうか。


「にゃーん」

「残念ながらおっしゃる通りではあります。サイゼ様はともかく貴女ほどの力があれば私と刺し違えることはできるかもしれませんのでやめてもらいたいですね」


 姉さんが更に言葉で噛み付く。クールビューティーさんが側にいたのであれば事前に止められたのではないかと。お前らはその娘の教育のために俺を利用した。お前らにとって人、一人の人生をなんだと思っていると、殺すぞと凄む。怖いっす姉さん。あと俺のために怒ってくれてありがとう。


「うぅぅ、モフモフも悠にも意図的に行ったことだし、悪いと思っておる。だから少しばかり謝罪の意味を込めて特典を用意するのじゃ」

「にゃーん」


 俺に変わって姉さんが話を進めてくれる。流石っす姉さん!


「お前もいい歳なのにモフモフにばかり頼って恥ずかしくないのかのぉ」

「にゃーん」


 矛先が再び俺に向けられた。話を逸らさないと。


「そ、それでどんな特典をいただけるんですか?」

「私が心を読めるの忘れているんではないのか、こいつ」

「サイゼ様に変わって、私から特典について案内をさせていただきます」


 クールビューティーさんが説明してくれた内容がこうだった。

1 今いる神の庭を自由に使用してよい

2 この世界で実現可能な無理のない範囲で生活用品などの買い物を可能にする


「小屋も使用していいってことですか?」

「勿論なのじゃ!」


 あの部屋が使えるならとりあえず安心か、でも能力的な特典はないのかな?


「の、能力関連は無理なのじゃ! 既に回復能力という特典を与えているからのう。あとはマニュアルを置いていくので見ておくように!」


 なるほど、簡単に言ってしまえば外に出ると危ないからこの森でスローライフを推奨するよといった話なのか。


「にゃーん」

「ぐぬぬ、それは無料という訳にはいかんのじゃ……」


 姉さんが聞いてくれたのは、光熱費や買い物についても無料で出来る認識でよいのかどうかという確認だった。言われてみればそうか。神様が置いていたマニュアルを開いてルール周りを確認してみる。

 神の庭で育てた農作物や作成した料理、工芸品などは【適正価格】で買取を行い、ショッピングについては価格設定については【適正価格】で販売すると記載がある。なんだこの【適正価格】って言い値ってことか?


「質問なんですが、この適正価格って神様が決めるってことですか?」

「と、当然なのじゃ!」


 こいつ開き直りやがった。


「あんたの言い値でこっちを働かせるつもりか! 名前に沿って企業努力してくれるんだろうな!」

「今、私の名前をバカにしたか!」

「にゃーん」


 割って入ってきた、姉さんに尻尾ビンタを神様含めてくらうこととなった。大福は遊んでいるのかと、俺達の周りをぐるぐる走り回っている。


「にゃーん」

「申し訳ございません。まさか性懲りもなく、転売ヤーのような所業をしようとしているとは」

「うぅぅ、だって仕入れは私が行かないとだから大変なんだもん!」


 どうやら俺が注文した後にこの神様が買い付けに行かないといけないらしい。確かにタダ働きは少し可哀想な気もする。

 

「お主、話がわかるのう!」

「にゃーん」


 姉さんは甘いと言っているが、労働には正当な対価は必要だろう。俺が今回の件で文句を言っているのと同じことだ。


「ではドーンと、50パーセント増しで!」

「アホか!」

「あああぁぁ! 神に向かってアホとか! 神罰が下るぞ!」

「にゃーん」


 姉さんのゲンコツによって、神様の頭が草の先、土までめり込む。


「にゃーん」

「かしこまりました」


 姉さんとクールビューティーの話し合いの結果、販売価格は5パーセント増しで買取については商品の専門家から査定をしてもらい、手数料として5パーセントを引かれることとなった。


「よいか、悠よ! できるだけ高い商品を買うんだぞ!」

「はいはい」


 神様は大福に顔を舐め回されてビショビショになっていた。まぁ本人は楽しそうだけど。

 基本的には善神なんだろう。別に隠さなくたって、こうやって条件のすり合わせさいできっれば最初から大福を助けるのはやぶさかではなかったのに。完全なサバイバルは無理だけどこんな、スローライフなら悪くない。

 大福になめ和されながらこっちをチラッと見てくる。そうか心読めるんだった。


「悪かった」


 俺に心を読むことはできないけど、なんとなく最初にした土下座とも違う、彼女の心からの謝罪だと思った。 


「はい、また大福に会いに来てやってください」


 神様と部下のクールビューティーさん達はそれぞれに大福をもふった後に初回のお金確保のために猫吸い3分1万で2万円の確保ができた。姉さんはとても不満そうだったけど、お金がないと最初の数日間困りますからね。


「にゃーん」

「お、俺からもお金取るんですか!」


 そのせいで我が家に新しいルールが加わってしまった。



★★★


 それは突然だった。大福には嫁が欲しいと愚痴ってはいたが、森から帰ってきたその背中には人が乗せられていた。


「わん!」

「にゃーん」

「嫁って、幼女じゃねぇか! 姉さんも犯罪者とか言うのやめてください!」


 背中に乗せらせた幼女に意識はなく、ボロボロのガリガリだった。大福が怪我をさせるはずはないし、これは元々なのか?

 かなり汚いが、元が褐色の肌なんだろう。それにとんがった耳、これがいわゆるダークエルフなのか。

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