第2話
数時間前に出会ったはずの神様であろう人物が俺の前で尻を高く突き出しながら土下座をしている。
「ごめんない!」
俺はどんな反応をすればよいのか、怒ればいいのか?
彼女がこんな格好をしているのは少し時間を遡ることになる。
★★★
ここが異世界? グランドくらいの広さの草原と周りは背が高い木々が覆っていて、どのような場所なのかわからないが森の中ということだけはわかる。
「それよ姉さ−−」
「−−にゃーん」
姉さんが大きく手を振りがぶりながら飛び掛かってくる。ね、猫パンチ!
元気になったんだなぁ。よかったよ。あれ、俺、空を飛んでる? 視界がぐるぐると回ってる。
「ギャフン」
下が柔らかい草で助かったけど、ほっぺが痛い。空を飛んだと思ったら、姉さんから10メートルは離れている、
パンチの威力が異世界にきてえげつなくなってませんか。
「にゃーん」
「なんで殴られたか分かるかって? いや、わかんないですし、なんで俺は姉さんの言葉がわかるんですか?」
「にゃーん」
正座と言われたので、言われた通りに正座をして姉さんからお叱りを受ける。中途半端に規約を読み流しで契約をするなとか、何歳になっても姉離れができないのか、いつになったら番の一人でも連れてくるのかとか、少しづつ話が逸れていく。姉さんの尻尾が4本になっていて可愛い。これも異世界効果なのかな? 触りてえぇ。
「にゃーん」
「ぐふぅ!」
話聞いてるのかと、猫パンチ再び、いい肉球ですね。
「にゃーん」
命は有限だからこそ意味がある。でも今は私のためにしてくれたことについて礼は言わせてもらう、ありがとう。と姉さんらしいツンデレだ。もうモフっていいですか?
「にゃーん」
あの小屋に契約にあった助けるべき奴がいるぞ。と俺のワキワキしていた手を掻い潜り、俺の肩に飛び乗ると尻尾で方向を示してくれる。
ボロい小屋が草原の端に鎮座していた。ていうか、助けるべき人と契約ってなんか記載あったかな?
「にゃーん」
だから契約はしっかり見ておけと、少し爪を立てられなが頬をグリグリとされる。
小屋の中に入ると、外見のボロさとは違い中は小綺麗に片付いている。単身者用のワンルームって感じで畳の8畳間、狭い水回りに洗濯機、ちゃぶ台、さぶとん、小さな冷蔵庫、布団が敷きっぱなし。扉が2枚あり、開けてみるとシャワーのみ設置されていた。もう1つはトレイだった。ワンルームなのにトイレ別とは贅沢な机ではないだろうか。
どうやら生活に必要な物を最低限揃っていますって感じだ。
「助けるべき人が見当たりませんね」
「にゃーん」
俺の肩から飛び降りると布団の上に乗って、テシテシと前足で叩き始める。
それって白い布団……じゃない。真っ白な秋田犬っぽい見た目の犬が横たわっていた。
心臓近くを触ってみると、弱いが心音は聞こえるけど、揺さぶってみても半分目が開くくらいで反応が弱い。でも生きてはいる。
「姉さん、この子を俺が助ければいいんですね」
「にゃーん」
「え?」
姉さんが言うにはこの子を助ければ俺の癒しの能力は100年ほど使用できなくなるらしい。100年って実質能力の没収じゃないですか!
「にゃーん」
姉さんがお前がちゃんと契約を見てないのが悪いと言われた。これから先ほどの神様に文句を言う渡りをつけるかどうかと俺の代わりに色々と考え始めてくれる。
なんとなくだが、刻一刻とこの子は弱っていて時間がないような感じがする。こんなのことがわかるなんて、これが俺の異世界での力なのだろうか。
「姉さん、迷っている時間はなさそうなんで」
「にゃーん」
「これからの算段ですか? 何も考えてないわけではないですけど。俺が死ぬわけでないのなら助けられる命は助けたいんです」
姉さんが小さくため息を吐くと、犬の上から俺の横に移動して好きにしなさいと、動向を見守ってくれる。
異世界に来たためだろうか、やること、出来ることはなんとなく、体がわかっている気がする。モフモフに両手で触れて目を瞑る。
体からなんらかの力が抜けていくのがわかる。何時間経過しただろうか、弱っていた犬の心音も強くなっていき、目もぱっちりと開いた。
のっそりと立ち上がると、ブルブルと体を振るった後に一声、「わん」と俺に向かって吠えてくる。残念ながらお前の声は聞こえんぞ。
「にゃーん」
「ああ、お礼を言ってくれてるんですね。気にすんな、お礼なら神様に言ってくれ」
「わん!」
秋田犬さんがぺろぺろと手を舐めてきてくれたので、体をわしゃわしゃして抱きつく。神様風い言えばこれはよきモフモフなのじゃ!
実家にいた時には爺さん達が少し保護猫活動をしていたけど、犬と絡むことは少なかったし、現実的に考えて大型犬は一緒に暮らすとか無理だったからなぁ。ええもんじゃ。
「にゃーん」
「わん」
何やら、姉さんと秋田犬さんは話しているようで、上手くやれているみたいだ。話の中には神様と渡りをつけられるかも相談しているっぽい。
「秋田犬さんの名前ってなんて言うんですかね?」
「わん」
「にゃーん」
姉さんが通訳してくれる。名前は大福と言うらしい、ああ、ペットに食べ物名前つけるのはあるあるだよね。名は体を表すの逆で、体から名前を決めるパターンが多いよね。
ちなみに姉さんの名前の由来は杏を咥えていたからで、黒猫要素的な名前からではない。
−−外に1本の光の柱が現れた。早くも神様に渡りをつけれたのか?
外に出ると、身長の低いショートカットの金髪、ゆるふわ系女子とすらっとした褐色、黒髪ポニーテール、スーツ姿のお姉様が降り立つ。
何故か、金髪の少女はお尻を押さえながら、涙目でプルプルと震えている。
俺たちに気がつくと、金髪の少女が尻から手を離して、腰に手を当て直して踏ん反りる。
「我こそが主神、サイゼなのじゃ!」
「サイゼ様」
クールビューティーに冷たい目を向けられて、金髪さんが正座を……しようとして尻が痛いらしく、尻だけ宙に浮いている不恰好な姿勢になっている。
いいな、クールビューティーさんのあんな目で見られたらゾクゾクしちゃうな。
あれ、なんか2人の女性と姉さんから冷たい視線を感じるんですが。これ、俺も正座した方がいいかな。
何故か、俺も正座をして金髪さんと対面して座ることになってしまった。
そして冒頭へと戻ることになる。
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