第11話 黒い顔

「バフロ、俺はこんなところで終わるつもりは超絶ねえよ」


 これは自分の記憶の断片。

 薄汚いスラムの街角で、幼き日の友は鋭い眼差しをこちらに向け、そう宣言してきた。今まで一緒にふざけ合ってきた友人の初めて見る顔だった。

 俺の運命を変える、昼下がりのゴミ溜まり場。


 あの日、俺のハートに焔が灯った。



「待てや、ごらぁ!」

「クソガキども! おい、とっちめるぞ!」

 俺とフェンリルはチンピラ二人の財布を握り締め、顔を真っ赤にして追ってくる彼らを振り払うべく、荒んだ住宅街をクネクネと何度も曲がりながら逃亡する。


「いつもの手でいくぞ!」

「オーケー!」

 フェンリルの合図を受け、彼と一旦行動を別にする。

 俺は街を歩く屈強な男のすそを引っ張る。そして、振り向いた男に対して上目遣いでこう言うのだ。


「おじさん助けて! 追われてるの!」

 それを聞いた男は、俺が逃げてきた方向を見据え、走ってくる二人の追手を眼力で威圧する。

「おい、そいつを渡せ!」

「ガキどもに財布を盗まれたんだ! もう一人いたはずなんだが」

 チンピラ二人は自分たちよりも頭一つ大きな大男に、俺の身柄を寄こすように言った。


「大の大人が寄ってたかって情けねえ。第一、彼女は財布なんか持ってねえじゃねえか」

「「なに!?」」

 男にそう言われたチンピラたちは、俺の方を見つめる。

 両手を上げ、何も持っていないことをアピールする。


「盗まれたと言っていたが、お前たちのポケットに入っているのはなんだ?」

「ポケット?」

 慌てて二人は自分の履いているズボンのポケットを確認する。

 そこには、二人が所有していた財布が元通り収まっていた。


「あれ? 何でだ?」

「さっきまで無かったはずだが……」

「全く、気を付けろよ」

 困惑するチンピラたちに、男はあきれて肩をすくめる。

 俺は、彼らがそんなやり取りをしている隙にその場から離れる。そーっと、自然に。


 フェンリルと別れた際に、既に俺が奪った分の財布も手渡していたのだ。

 彼がお金だけ抜いて、屈強な男とチンピラたちが話している間に、気付かれないよう後ろから財布だけポケットに戻したのだ。

 これが、俺たちのいつものやり口。


「けっ、全然持ってねえじゃねえか!」

「なあフェンリル、もっとお金持ちから奪おうぜ。これじゃあ毎日を生きていくだけでやっとだ」

「ダメだ、バフロ。あいつらは俺たちみたいな汚ねえのが近づいて来ただけで怪しむ」

「えーっ! じゃあ一生ルビー買えないじゃん!」

 俺は、一度だけ見たことのある宝石店のルビーの価格を思い返し、駄々をこねる。


 俺たちはゴミ溜めの中に空洞を作り、そこを秘密の住処として街の人達にも気づかれることなく暮らしていた。

 親はいない。腹を空かせてくたびれていたところに、フェンリルがパンをくれたのが最初の出会いだ。


「いつかは買えるさ。超絶たくさんな」

「どうやって?」

「今にわかる」

 フェンリルは自信ありげにそう言ってのける。


 この時の俺には、彼のその自信の根拠がどこにあるのか分からなかった。

 そしてそれは、今も解明されない謎のままだ。


「なあ」

「ん?」

 唐突に呼びかけてきたフェンリルの表情は、おふざけ一切なしの真剣なものだった。

 子供ながらに、彼のその顔に、その鋭い瞳に恐怖心を抱いたことを覚えている。


「バフロ、俺はこんなところで終わるつもりは超絶ねえよ」


 その言葉が、俺の心と体を熱くさせた。


「俺も! 俺もお前の行きたいところに行くぜ!」

 フェンリルがここで終わらないのなら、俺も終われない。


    ◇


「なに!? 第3部隊が全滅しただと!?」

 森での小型ミカエリとの戦闘を終え、湖に戻ろうとしていたところで、俺は避難エリアにある作戦本部から連絡を受けた。


 保護していた一般人を迎えに来た自分の部下達が、新種のミカエリの襲撃にい、パイロットを含め全滅したと。

 そして戦闘機に取り残された一般人四人は、三角錐湖にダイブを決めたらしい。何時間も連絡が途絶えているそうだ。


「捜索しているのか? まさかそのまま放置していたりしないよな?」

 俺は直接の部下達の死という事実に動揺したが、半ば強引に頭を切り替え、優先すべきことについて質問する。

『捜索部隊を編成して向かったのですが、その新種ミカエリの妨害を受けていまして、現在も交戦中です』


「クソッ!!」

 俺は湖への足取りを速める。

「バフロ、どうするつもりだ?」

 後ろをつけている焔牛人が、俺に疑問を投げかける。


「決まってるだろ! 助けに行くんだよ!」

「この広い湖に沈んでいる戦闘機を、生身で泳いで探し当てるのか? 見つけたとしてどうやって救出するんだ? 君の考えはあまり現実的ではないな」

 焔牛人の非感情的な返しを受け、その物言いにカッとなる。


「じゃあなんだ!? 放っておけとでも言うのか? あいつらは罪のない、ただ襲撃に遭っただけの一般人だぞ!」

 焔牛人の発言にはきっと悪意なんてない。それどころか、俺なんかよりもずっと合理的で、冷静に状況を見ているのは分かっている。

 ただ、湖に沈んだ彼らの心配とそこから来る焦りが、俺から冷静さを奪っていた。


「私たちも捜索部隊の戦闘に参戦しよう。そして、彼らのファストに乗せてもらうんだ。ファストは水空両用の戦闘機。湖の中を探すのであれば、ファストに乗ってきているだろう」

 焔牛人の知性溢れる発言に、一瞬彼が珍獣であるということを忘れかける。それと同時に、主である自分の未熟さを痛感してしまう。

「わかった。すぐに戦場へ向かおう」



「バフロ隊長、加勢に来ていただいたこと本当に感謝します。隊長の任務の邪魔をしてしまい、申し訳ありません」

「気にするな。俺たちも手詰まりだったんだ。お前たちが来てくれて助かったよ」


 戦況は酷いものだった。

 俺が来た時には、あちらこちらで戦士が硬直したまま動かなくなっていた。外傷は見られなかったが、おそらくあれは死んでいた。

 捜索部隊の攻撃のほとんどが当たっておらず、一方的な即死の触手攻撃をしのいでいるといった状態だった。


「いえ、もしバフロ隊長が来ていなかったら、我々は今頃全滅していたでしょう。本当に恩に着ます」

「よせよ。お互い様だろ?」

 別部隊所属の彼の手は震えていた。よほど地獄を見たと取れる。

 小型のミカエリを全て討伐し終わり、始め十数人いた戦士で残ったのは、パイロットを含めて今この戦闘機に乗っているたったの五人だけらしい。


「これから湖に沈んだ戦闘機、それに乗る一般人を救出しに行くんだよな?」

「はい。しかし、かなり時間を食ってしまったので、無事かどうか……。それに、捜索している途中でまた彼らに襲われる可能性も……」

 随分と心を折られてしまったらしい。弱気な発言が目立つ。


「それでも行くんだよ! 俺たちは戦士だろ? 大丈夫、俺がついている。俺が守ろうとしているのは何も民間人だけじゃない。ここに来ている戦士達全員を救うには、俺はまだ無力だけど、それでも無駄に死なせるつもりはない」


 戦士といえども、彼らも人間だ。激しい戦いで消耗しょうもうするのは体力だけじゃない。

 心もまた同様にけずれていく。


 俺はそんな苦しい時にこそ、彼らの心の支えとなる戦士でいたい。

 炎の消えた戦士の心に、再び火を灯すのだ。

 自分がいるだけで戦士たちに火を分け与えられるような、消えない蝋燭ろうそくになりたいのだ。


「バフロ隊長……。すいません、自分、弱気になっていました! 八併軍の戦士がこれでは、民間人に安心してもらえませんよね!」

「そうだ! その意気だ!」

 もう誰一人として民間人は死なせない。戦士も死なせない。

 そして、俺もここで死ぬ気なんてさらさらない。


 十奇人になる。あいつと同じところに行き、同じ景色を見る。そして―――。

 それが、俺のただ一つの夢だ。



「入ります!」

 ファストのパイロットが入水することを搭乗者全員に伝える。


 水空両用戦闘機は入水する直前、その機体の周りに結界を張る。

 この結界は、ファストに付いているセンサーが水を感知した時に展開するもので、外部から液体の侵入を防ぐようプログラムされている。


 バッシャーーーーーーーーーン!!

 激しい水しぶきの音が聞こえたが、水中に入ったために途中で途切れた。

 ゴポポポポポポ。

 どこまでも深い青が広がっており、底は見えない。


 三角錐湖が深く広く、そして特異な形をしているのは有名だが、辺境に位置するため、実際に現地に来てその深さと広さを体感する人間は少ない。

 事実、今回三角錐湖を初めて見た俺は、その予想外の規模に驚いた。


「全員集中しろ! 絶対に見逃すなよ!」

「「「了解!」」」

 かつを入れる俺の言葉に、心に炎の灯った戦士たちの声が返ってきた。


 ほどなくして、俺たちは信じられないものを目の当たりにする。

「「「…………」」」

 全員がその衝撃の光景に絶句した。


「あれは……、顔?」


 パイロットは視線の先にある巨大な謎の物体を、輪郭りんかくから人間の顔と捉えた。

 湖の底にある真っ黒で巨大な人間の顔は、眼球の部分を閉じて眠っているようだった。


「ぶ、不気味です」

 再び戦士たちの顔がくもり始める。


 このドラミデ町の事件は今までとは何かが違う。

 これまで、ミカエリ襲撃事件で観測されたミカエリの総数は20機が最高だった。今回は、それを大幅に更新しての500機以上だ。

 それだけでなく、奴らの新たな戦略的手段として結界が使われ、新種まで現れる始末。


 それら全ての謎を、湖の底に沈んでいるこの黒い顔が解決してくれる。そんな気がした。


「焔牛人、お前の推測は正しかった。ドラミデ町脱出のカギは、ここにあったんだ」

「うむ。見つかって何よりだ」

 俺の隣に座る焔牛人は、腕を組んだままコクリコクリと頷く。


「あれを見てください!」

 戦士の一人が大声を上げて指をさす。

 その指し示す方向には、一機のファストが沈んでいた。黒い顔に視線を奪われ過ぎて、全く気が付かなかった。


「ファストの結界は展開されています!」

「よし! すぐに救助に向かえ!」

 パイロットにそう指示すると、俺はファストの扉を開く。結界の効果で、機内に水は入ってこない。


「四人とも……、無事でいてくれよ」


    ◇


「ソラト君はまだ目覚めないわね……」

 雨森ソラトの担任教師・広子は、ファストの座席で横になっているソラトを横目に、心配したような表情を浮かべる。

 ファストが停止した後、コックピットで気絶している彼を、彼女がここまで運んできたのだ。


「別に良い、こんなダメな奴」

 片膝を立てて座るクロハのその言葉に、広子は悲哀ひあいの眼差しを彼女に向ける。

「だめよ、仲良くしなきゃ」

「…………」

 クロハは、広子に返答することなく、立ち上がって窓から巨大な黒い顔を眺める。


「せんせ、あれのこと知ってた?」

「いいえ、全く知らなかったわ」


 彼女らが湖の底に落ちて数時間、不気味な顔に変化は無い。

 初めこそ動揺した二人ではあったが、今ではその異様さにも慣れ始めていた。

 落下の衝撃で通信機が壊れてしまったために、救助を待つことしかできない彼女たちに訪れたのは、何もない静寂な時間だった。アシュもエネルギーを使い切り、スヤスヤと母親の横で寝息を立てている。


「クロハ、昔あなたが言っていた夢は、今も変わらないのかしら?」

「……、どうかな……」

 現在の状況にそぐわない広子の急な質問に、クロハは目を合わせず、歯切れ悪く答える。


「何で急にそんなこと聞くんだよ?」

 クロハはうつむいたまま、目線だけを広子へと向けた。

 広子は少し考えると、バツの悪そうな顔をしている自分の教え子に対して微笑みかける。


「私は先生だから、ちゃんと皆の事、見送らないといけないのよ」

「意味わかんな。答えになってねーし」

 クロハは首を傾げ、その様子を広子はただ笑って見つめた。


 ゴポポポポポポ、キュイーーーン!

 ここで四人の静寂の時間は終わる。

 捜索部隊のファストが、四人の乗る機体に並列するようにして止まった。互いのファストの結界が重なるようにして停止したため、湖水の干渉を受けずに相互の行き来が可能となった。


「おい! 生きてるか!?」

 始めに声を上げて墜落した機内に入ってきたのはバフロだった。

 鬼気迫る顔で突入してきた彼女は、座席で横になっているソラトと広子の側で眠っているアシュを見て息を飲んだ。


「ま、まさか……」

 バフロは、急いで四人のいる機体前方に駆け寄っていく。

「大丈夫、彼は気絶しているだけですよ。息はあります。うちの子も疲れて寝ちゃっただけですし」

 広子は慌てるバフロを落ち着かせるべく、全員の無事を伝える。


「そうですか……、はぁ……」

 広子の言葉に安堵し、バフロは気が抜けたように近くの座席にへたり込んだ。

「良かった……。悪い想像ばかりしてしまったぜ」

「本当にご苦労をおかけします……」

 額を押さえるバフロに、広子は立ち上がってお辞儀をする。


「いや、これは我々の落ち度です。あなたが頭を下げることなんて無いですよ」

 このやり取りの間にも、続々と戦士たちが墜落ついらくしたファストに上がり込んでくる。

「さあ、帰りましょう! 今度こそ、確実にあなた方を送り届けます!」

 先ほどまで弱気だった戦士は、その様子を広子やクロハに微塵みじんも感じさせない。


 クロハは自らの足で、ソラトは戦士に肩で抱えられ、広子はアシュを背中に背負いながら、それぞれ捜索部隊が乗ってきたファストに移動する。


 ギョロ。


 その時、これまで微動だにしなかった巨大な黒い人の顔が動いた。

 閉じていた瞳を見開き、バフロたちのいる二機のファストの方向に、その青き視線の焦点を当てる。


 その変化にバフロと焔牛人だけが気付く。戦士と珍獣は、僅かな悪寒を感じた方を振り返った。

 目が合う。


「一体なんなんだよ」

 バフロは身構える。彼女の勘が、あの謎の顔が自分たちと敵対するものであると言っていた。


「何が起こるのか見当もつかないが、まずいな……。バフロ、ここでは戦いにならんぞ」

「ああ分かってる。とっとと離れるぜ!」

 バフロと焔牛人は捜索部隊のファストには戻らず、ソラトの操縦した機体の動作確認を始める。


「よし、動く!」

 機体が壊れていないことを確認すると、バフロは扉を閉め、ファストを稼働させる。


「バフロさん? 乗らないんですか?」

「お互いの任務を全うしようぜ! じゃな!」

 向こうのパイロットにその言葉だけ残し、彼女はファストの速度を上げ、水中を飛び回り始める。


 それ以外を乗せた捜索部隊のファストは、水面を目指して一直線に浮上していく。

「バフロさんって、ファストの操縦できたっけ?」

「さあ?」



 ギョロ。

 黒い顔はバフロと焔牛人の乗る機体を目で追う。

 獲物を狙うタイミングを窺うような様子で、不気味な時間が流れる。


「なあ焔牛人、今フィーリングで操作してるんだけど、攻撃ってどうやってやるか分かるか? あとスピードの上げ方とか」

 バフロの発言に、焔牛人は眉をひそめる。


「当たり前のようにコックピットに座るものだから、てっきり操縦できるものだと思っていたよ。全く君という奴は……」

 頭を押さえ何度も首を振る焔牛人を他所よそに、バフロはコックピットにあるボタンを手当たり次第に押していく。


「待て、待つんだ! もういい、私がやろう」

 バフロは焔牛人に席を譲り、珍獣がファストを操作する様を眺める。

「お前、できるのか?」

「少しかじった程度だ。あまり期待はしないでもらおう」


 焔牛人が操縦準備を終えたところで、黒い顔に再び変化が現れる。

 ゴゴゴゴゴゴ。

 閉じていた口が開き出したのだ。目に見える明確な異変に、二人は完全に臨戦態勢に入る。


 しばらくして、黒い顔の口の中で何かの影が動いた。


「おい! あれ見ろ!」

「ああ、見えているとも」

 口の中から何かが飛び出してくる。


 ウイーン、ウイーン、ウイーン。

 ウィ、ウィ、ウィ。

 ミカエリ、そして小型のミカエリの群れが、その口から大量に放出された。


「くっ!」

 焔牛人は、黒い顔に向かって反射的にファストに搭載とうさいされていた魚雷を放つ。

 ドゴーン!!

 魚雷は黒い顔に命中した。


「……ダメか」

 しかし、黒い顔には傷一つつかず、絶えずミカエリを放出し続けていた。

 今彼らが持つ水中での攻撃手段として最強の魚雷がまるで効果なし。この事実は、操縦者である焔牛人に撤退てったいを選ばせるには余りある内容だった。


「待て、焔牛人!」

 逃亡するためにハンドルを切った焔牛人を、バフロは制止させた。

「ここは水中だ。魚雷が効かなかった以上、私たちに勝ち目はないぞ」

「いや、確かファストには空気を発生させるための装備があったよな?」

 バフロは、かつて自分が経験した水中での戦闘を思い出す。


「バブルバレットのことか?」

 焔牛人の言う「バブルバレット」とは、ファストがその専用射出口から大気の塊を放出し、水中で大きな泡を作り出す機能である。


「それがあれば、俺もお前も水中で戦える。そうだろ?」

「やってみる価値はあるが、それは同時に逃げ場を失うということだぞ。バブルバレットの使用には、ファストのエネルギーを多く使うことになる。今のエネルギー残量から考えると、使用後、この機体は動かなくなる」

 焔牛人の忠告を聞いたバフロだったが、彼女の目の奥に宿る灯火が消えることは無かった。


「今必要なのは俺たちの逃げ場じゃなくて、罪なき民と勇敢なる戦士たちの逃げ場だろ?」


 その言葉を聞いた焔牛人は、バブルバレット発動のボタンを押す。ファストの機体下部から射出口が現れ、前方に向けて大気の弾丸が発射される。

 発射された空気の塊は、射出されて数秒後一気にふくれ上がり、黒い顔、ミカエリの群れ、バフロと焔牛人の乗るファストを大気で包み込む。

 巨大な水中ドームが瞬時に出来上がった。


「行くぜ、レアンドロ」

 バフロは、かつて尋ねた焔牛人の名をここで初めて呼んだ。


「主よ、我が運命、其方そなたと共に」

 レアンドロは片膝をつき、バフロの右手を取ると、その甲に口づけをした。

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