◇四話◇皇帝大総術士とトーリア国
ようやく見えてきた。まさに国と言わんばかりの大きさ、中の探索が楽しみすぎる。
「ご主人さま、あれが目的地の国?」
「あぁ」
行きがけに聞いたが《トーリア》という国は、
せめてこの国で奴隷紋の解除方法は知っておきたいところだ。
「ねぇ君達!その子は奴隷かな?」
その声は近かった。真横にいるかのようで――。
「んなっ!?」
驚いた。音も気配もなく、いつの間にか真横に突っ立っていたのだ。
服装は明らかに異世界の冒険者。なのになんでこんなにも威圧感があるんだ?
右手にはレイピア、左手になんと言うか、守れるのか?って思えるぐらい小さな盾を持っている。一見はただの冒険者なのに……。
「ねぇ、君達。その子は君達の
「……行きがけに奴隷商人の馬車がモンスターに襲われてたらしくてな、その馬車の中で生き残っていたのがこの子だけ。他の奴らは死んじまってたよ」
ミュウリは静かに俺の手を握ると、微かに手が震えているのが分かった。こんなに威圧感があるやつに会ったらそりゃそうなるわな。
手が柔らかいとか、そういう事を考えている場合じゃない。どうすべきなんだここは、戦闘とかになったら確実に負けるぞ。
「……はい。見つけた時には痩せ細っていて、あまり食事を取れておらず、重度の栄養不足に陥っているようでした」
「こちらで食事を与えた為、少しは栄養補給になったと思います」
ノアもすかさず言ってくれた。
「とすると、その
困るって言うと、この国では奴隷制度を廃止でもしているのか?だとすれば、ミュウリの奴隷紋をどうにか消さなきゃいけないんだが。どうにか入りたい。
「入れないのか?」
「……いいや、そうじゃない。奴隷紋があると、呼ばれた場合に契約者の元へ向かってしまうんだよ」
「もし今のタイミングで呼び出されれば、まともに歩いて行くか、奴隷紋に引きずられて行くかの2択になる。この子の歳は大体12か13という所だろうね。どの国の貴族に買われたのかは分からないけど、今は願うしかないよ」
おいおい、って事はもし呼ばれたらこの国じゃない国に向かう可能性もあるのかよ。
しかも徒歩で行くんだろ……?まさか飯も食えないままなのか!?どれだけ鬼畜仕様なんだよ奴隷紋。
「……まぁ、君達が一時的に保護してくれる他ないかもしれないね」
「奴隷紋の上書きは出来ないのか?」
「奴隷紋の上書きは出来る、でもそれは契約者の購入した額によるんだ」
「奴隷紋の解消は?」
「そこまではあまり分からない、でも奴隷紋を作ったのは、魔国の魔術師だとは聞いたことがあるよ。だから、上書きして契約者を一時的に君に変えて、そこから魔国へ向かう。そして魔術師に解消をしてもらう事が1番良いだろうね」
奴隷の上書きに金……か、いくらいるのやら。
いや、そもそもこの世界の通貨の単位が分からないしな。そこら辺りも勉強していかないと……。
「君達……男の方はまだ良いとして、女の子2人には服とか必要だね」
男さん、なんか金貨取りだしました。すっげぇ綺麗。
「2ダリアあげるよ、これで2人分の服と1ヶ月分の宿は買えるさ」
「なぁお前って一体……ってかなんでいつの間に居たんだよ」
「おっと、自己紹介がまだだったね!これは失礼」
「僕はクオリネ・ノーツ。
なんですか
ってそうじゃない。2つ名があるって事は相当名高い冒険者って事だよな。皇帝大総術士とか言ってるし。
「
おっとノアさん何か知ってますね。まぁこの世界に住んでるから当たり前ですわな。
「ノア、皇帝大総術士って一体なんだ?」
「皇帝大総術士はこの世界で、最高ランクの総術士と言われてるの」
「魔術師、そして総術士という2種の職業があって、どちらもなる事は出来るの。でもランク自体を上げることはかなり難しいって言われてる」
「そこのお嬢さん大正解だね」
最高ランク、俺もいつかそこに到達するんだろうな。
転生チートがない、でも契約竜はいる。つまりは俺が確実に最高ランク到達の予感だろ!
「皇帝大総術士は、第1級総術士の中から選ばれる格上の存在、その存在はこの世の民を凌駕しているとも言われている」
「……ほら、そろそろこの国に入りなよ、女の子2人がそんな状態でここにいたら、風邪ひいちゃうよ」
それもそうだった。
――入ろう、この国へ。
トーリア、入国。
「行ってらっしゃい、そして、いらっしゃい」
◇
広い!綺麗!凄い!略して
――ノアさんコーデも天才的ですか。
ちなみに値段は1ダリア、ポッキリのため残ったのは1ダリアだ。まさか一気に半分になるとは思わなかったが。
「ご主人さま、どうですか……?」
「似合ってるよねー?ミ・ナ・ト・君」
ノアの圧が強い、でも圧をかけられなくともミュウリの姿は凄く可愛い。ケモ耳っ娘はこうでなくては……。
「言われなくとも!ミュウリ、めちゃくちゃ似合ってるぞ」
「ありがと……う、ございます」
照れてる姿がこれまた可愛い。いやもう天使ですよ、うん。
ところで撫でてほしそうに上目遣いで見てますけど、これ撫でていいんですか?良いですよね?
「ん……」
やはり髪はゴワゴワというか、傷んでる。風呂もろくに入れてなかったんだな。
宿の風呂にシャンプーとかあればミュウリの髪をどうにか出来そうではあるが、そもそも一緒に入るのはまずい、ここはノアに任せよう。
「ノアも似合ってる、2人とも可愛いぞ」
ノアにも言わなくてはな。お姉さんとて俺から見れば女の子だもの。
それに、似合っているのは真実だしな!
「私まで褒めなくてもいい……のに……」
照れてます。完全に照れてます。
「だって2人とも本当に可愛いから、ミュウリだけを褒めてもだろ?」
ミュウリはうんうんと静かに頷いた。
残りの1ダリアを持ち、国内を歩いていた矢先だった。
横目で2人の姿を見ていた時。いや変態じゃないからな。
「――はぁ……はぁ……」
バタッ。
「ミュウリ!?」
ミュウリが倒れた。
額に手を当てると、とんでもなく熱い。
恐らくだが、耐えてきたストレスやら何やらが全て身体に現れてきたんだろうな。ここは俺がお姫様抱っこをっと。
「ほいっ」
近場の宿に入り、クオリネから言われた1ヶ月分の宿代が払えるかどうか1ダリアを渡した。すると50アルダという銀貨をお釣りとして渡された。
ダリアはそんなに高価値なのか。それをホイッと2個渡してくれたクオリネって……。いや皇帝大総術士だから金はたんまりあるんだろうけど。
ってそんな場合じゃない。
「よっこらせ、っと……」
「ミュウリちゃん、一気に環境というか色々変わっちゃったから、身体がついていけなかったのかもね」
「だろうな……。なぁ、ノア」
ひとつの案が頭に浮かんだ。それは……。
「ミュウリをしばらくの間、父親の元へ返すまで俺らで保護しないか?」
俺としては奴隷を手に入れたから、元の契約者をぶっ倒して俺が契約者になってウハウハしようかと、そんな下衆な考えをしていた。
が、この子の過去を知った瞬間に、この子は父親の元は返すべきだと思った。
最初そう考えた俺を思いきり殴り飛ばしたいぜ……。
「私は良いよ、ミナト君がそうしたいのならね。そもそも私は契約竜なわけだし、主人を肯定するのが私の役目みたいなものだよ」
「……でも、君はそのクエストをクリア出来る?」
「奴隷紋を解消すると言っても、向かう先は何週間、何ヶ月と月日が経つような距離だよ。それにモンスターだって沢山いるかもしれない、君の実力じゃ直ぐに死んでしまうのが目に見えてるよ」
ノアの言う通りだ。異世界にきてはチートスキルみたいなのに恵まれると思っていたが、そんな甘い世界じゃない。
言ってしまえばこの世界で俺は『俺TUEEEEEEEE!!!』が出来ない。この世界じゃ村人かそれ以下の雑魚だ。
だとしても俺はこの子を親元に返さないとって思える。7年も父親に会ってないから尚更だ。
「そん時は、押し付けがましいけどノアに彼女を父親の元へ返してあげてほしい」
「……それに、この子は……」
「良いよ、ミナト君がそう願うのなら。君は優しいね」
「優しくねぇよ、俺は最初下衆い考えしてたし」
「でも、心変わりする程ミュウリちゃんに同情したんでしょ?」
「君が思ったその考え?が続くよりも変わった事に意味があると、お姉ちゃんは思うな」
「んん!?」
『お姉ちゃん』って、いまノアさんお姉ちゃん言いました!?俺何も言ってませんけどお姉ちゃん言いましたよね!?
……つかそうじゃないな。
「ふふっ、ミナト君は私が一人称でお姉ちゃんって言った方が嬉しいんでしょ?」
公認だしバレるのも当たり前、若干茶を濁そうとしたんだろうか。唐突すぎて俺も変な声出たよ。
「そうです、そうですよ俺はノアがお姉さんみたいだなって思ったんで近所のお姉さん感だして欲しかったんですよ」
「……近所のお姉さん?」
「あっ、いやなんでもない」
危ない、ノアはこの世界の住人だしな。そんな《近所のお姉さん》って単語が存在するはずない、存在してたら面白いけども。
「そう?なら良いんだけど……」
「じゃ、俺は今日の夕飯を買いに行ってくるよ」
「あ、私お魚食べたい」
「分かった。ミュウリの事見てあげててくれ」
「うん」
魚好きなのか?今どきの竜ってのは。大抵、竜ってのは肉を食べたりだとかしてるだろうけど、そういう個体もいるんだな。
早速夕飯用に市場を見に来たのだが、ここで今気づいた。
俺、ノアに金の単位聞いてねぇぇぇぇぇぇ!!!
――まぁ……勘でどうにかなるだろ。
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