◇五話◇奴隷

 夕飯の購入を済ませ、帰宅をしている最中だった。

 ちなみにちゃんと魚は買ってある。他の国からの輸入らしいが、既に調理されている為、直ぐに食べられる。

 大体焼き魚と焼肉、あとはサラダやら何やらを買って残りの残金は46アルダと50メダ。


「かなり買えたな、明日辺りにギルドも行ってしまわないと……」


 まだ温かい、さっさと持って帰らなきゃ。


 ――って、なんでクオリネがいるんだ?


「やぁ、さっきの……」


「ミナトだ」


 さっきの皇帝大総術士オーバーロードが目の前にいるって事は、ミュウリの事だな?そういえばさっきノア達の少し乱れた姿のままだったから、2ダリア貰って先に入ったんだよな。


「少し時間はあるかい?話したい事があるんだ」


「先に宿に飯を置かせてくれ、2人の夕飯なんだ」


「君は食べないのかい?」


「俺1人くらい、1日食わなくともいいさ」


 本当なら俺も食べようかと思ったが、ミュウリは食べ盛りなはずだ。実際そうなのかは知らないが。

 俺1人の飯分を1回抜いたぐらいで、何ら問題は無い。

 クオリネと話の方が大事だ。


「そうかい?なら良かった。じゃあそのご飯を宿に置いたら、あの店に来てくれるかな」


 クオリネが指を指した先にある店。どうみてもレストランっぽいですけど、しかもお高めとしか言えませんけど!


 とにかく、宿に飯を置きに戻ろう。




「――ノア」


「おかえり、ミナト君」


「もう1回出てくる、ご飯はここに置いてるからさ、2人で食べちゃってくれ」


「ミナト君は食べないの?」


「俺は帰り際に食べちゃったからさ!これはノアとミュウリのだよ」


「……分かった。いってらっしゃい」


 くぅー!ちょっと今のクールだったんじゃないか?


 ……なんか転生してからやけに変わったな俺。本当にさ。

 ――外に出まして、さっきクオリネの指していた店に向かった。店名は確か《ティーリア》だったか。


「あ、あった」


 やっぱ見れば見るほど高級感あるな。若干汚れた服のまんま行くのは少し気が引けるけど、仕方ない、入ろう。


「あ、こっちだよミナトくーん!」


 店内で周りに聞こえるレベルの声出して呼ぶんじゃねぇぇぇ!ほれみろ周りのヤツらがめっちゃ見てるよ。恥ずかしいっっ!


 てか何窓際で優雅にパスタ食べながら笑ってんだよ。


「大きな声で呼ばないでくれよ……」


「まぁまぁ、これでも食べてさ」


 あ、美味い、何の肉だこれ。


「さてと、話の内容だけれど、それは君の保護したについてだよ」


「……」


 まぁミュウリの事ですわな。にしてもこの世界の奴隷って一体どうなってんだ?


 ミュウリの種族は《獣人》つまりは《魔族》と同じってことだろ?でもこの世界は魔国が存在しているのに、なおかつ共存している。

 じゃあ奴隷の基準は?


「――まず、奴隷について知ってるかい?」


「奴隷って言えば、色々とこき使われて、最終的に死ぬまで働かされるみたいなやつだろ?人権やらも無いみたいな」


「裏ではね、表は違う」

「表は奴隷を死ぬまでこき使う、と言うのは全世界で死罪とされる。なぜなら人権があるからと言うのと、奴隷は契約制である事」


「契約制?」


「獣や竜との契約と同じ、人との契約もある」


 契約制って事は期間みたいなのもあるのか?でもそれってバイトみたいだよな。

 バイトしてた頃が懐かしいなぁ。コンビニで厄介な客の相手……クソ店長の八つ当たりに付き合わされて……あれ?ろくな思い出ないぞ?


「あの店員見てご覧よ」


 至って普通の店員さん、ケモ耳のある獣人や普通の人間もいるし、楽しく働いているように見えるけど。


「あれも奴隷だよ」


「ふぁっ!?」


 あれ、奴隷って臭い汚いK・Kのダブルコンボっぽい感じを想像してたんだが、そうでもないのか?


 どう見ても平和というか、生き生きと働いてる店員だぞ。


「店員さーん」


 急に呼びますね貴方。呼びに応じて、テッテッテッて、やって来ましたよ可愛い店員さんが。

 

「はーい!って、クオリネ様!?どうされたんですか?珍しいですね、このお店に来るなんて」


「今日は友人と来たんでね、この店のパスタが美味しいから誘ってみたんだよ」


「そうなんですね!クオリネ様のお気に召されているようで何よりです!」


 めっちゃ尻尾振ってる可愛い!これ触ったらセクハラになるかな。


「ところで店員さん、僕の友人が君について知りたいらしいんだよ!奴隷についてだけれども」


「あー!良いですよ?ちょっと待っててください」


 ちょっと待てよ?奴隷契約制って事はミュウリと同じで別国で解除しなきゃいけないんじゃないか?


 あ、戻ってきた。


「奴隷契約について、でしたよね?」


「はい」


「それじゃあ教えていきますね」

「奴隷には種類がありまして、永久契約制、時期契約制の2種類があるんです。その中で、永久契約制は世界中の国で無期刑の場合にのみ使用されます」

「そして時期契約制、これは私のようなお仕事をする方や懲役刑の方にのみ付与されます。見分けとしては永久契約制には黒い奴隷紋、時期契約制には周りから見えないよう、肌と同色になっているんです」


 なるほど、だから胸に目を向けても奴隷紋は見つからなかったのか。

 待てよ、って事はミュウリは永久契約制って事か!?


「時期契約制は自動でその日になれば勝手に消えますが、永久契約制の解除は王族や限定されている方にのみ教えられるそうです」

「永久契約制の奴隷紋が付いている方は、懲役刑または……本当の奴隷として生きているという方のみですので、もしそんな奴隷を持っている方がいれば……」


「いれば?」


「あまり好ましく思われないかもしれませんね」


 店員さんの目が怖い。もしミュウリの事がバレてしまえば噂が直ぐにひろまって、そういう対象になり得るって事だよな。

 だから最初クオリネが聞いてきたのか。

 あれ、さっき平気で服屋で買い物してましたけど、バレてませんよね?


「ですので、ご友人様でもクオリネ様の目付けになっていなければ、今頃はこの国にかもしれませんね」


 バレてたそうです。


「大丈夫だよ店員さん。聞いた話だと、この人はその奴隷の子を保護していた。むしろ彼女にとってはに見えただろうさ」

「明日その子に会ったら、表情に注目してあげてくれ、達のような顔はしていないはずだよ」


「……いえ、クオリネ様が仰るのであれば。それにご友人様の目、濁りもない美しい瞳を持っておられますので、とてもそのような方だとは思えませんね」


「ありがとう店員さん、もうお仕事に戻ってもらっても構わないよ」


「いえ!それでは」


 『濁りもない美しい瞳を持っておられる』、そういえば俺、未だに自分の顔を見てないんだよな。宿に手鏡とかあるかな。

 せめて前世よりも、もっとイケメンな顔立ちをしてたらいいんだがなぁ。


「少なくとも、これでトーリア国を歩くには十分良い結果になっただろうさ!さて、これからどうするんだい?ミナト君」


「どうするって?」

 

「契約主を殺してでも彼女奪うか、はたまた穏便に済ませるために金を積むに積んで、彼女を買うか」

「はたまた


 1つ目と2つ目は分かる。3つ目で『どっちか』ってどういう事だ?金を渡して殺すって言うんだろうけど、それなら殺してしまった方が良いんじゃないか?


「ま、分からないだろう?どっちかってのは」


「あぁ、さっぱり」


「答えはね、彼女の契約主が法に触れているからさ」

「今の時点でも法で裁くことが出来るレベルだけれど、でも死刑に値するには証拠が足りないのでね。君にも手伝ってもらってもいいかな?」


「と言いますと」


「金の取引で永久契約を上書きした場合、互いに重罪となる。んーでっ、彼女の契約主はやっとこさ死刑に値する罪になるって訳だよ」

「契約主は永久契約の奴隷を購入、これでひとつ!と言いたいところだけど、恐らく裏ルートでまだ何十人か奴隷を購入しているっていう可能性もあるんだ」


 はい待てーー!!サラっと言ったなサラーっと!互いに重罪って俺も含まれるじゃねぇかよ。

 つー事は俺も犯罪者になって、牢獄で何十年と生きる事になるオチじゃねぇか!


「待ってくれ、それって俺も牢獄行きになるだろ」


「大丈夫だよ、僕が何とかするから」


 おいおいまさかの皇帝大総術士オーバーロードの立場を利用してのアリバイ工作みたいなのでもするのか?とんでもないな皇帝大総術士さんよ。


「あ、色々と察しがついたわ」


「それでだけど、君には1週間ほどこの国でクエストとか国散策をしてもらいたい」

「主に君と彼女だけでね?……いや奴隷ちゃんの方だよ。何ニヤニヤしてるのさ」


 すいませんノアとデートでもしろと言うのかと思いました。


「いや何でもない。まぁとにかくミュウリと一緒に回ってればいいんだろ?分かったよ」


「まぁその仕事が終われば、お好きにしてくれても構わないよ」

「無論、君とあのお嬢さんがイチャイチャキャッキャッうふふしてても構わない。その時は、僕が彼女を預かっておくからね」


 キャッキャッうふふって、そんな勇気ありませんが。だって童貞歴=年齢ですから。

 さて、話は終わったかなこれ。


「……ありがたい話っちゃ話だな」


「では、これにて話は終わりだよ」


 終わらせない。


「なぁ、最後にひとつ聞くが、お前なんで契約主?」


「僕が調べ上げたから、と言えば嘘になるなぁ。やっぱ答え言っちゃうよ」

「同ランク魔術師である、皇帝大魔術師オーバーウィザーに頼ったってだけだよ」


 まーた出てきましたよ、なんかかっこいい奴!皇帝大総術士と魔術師の2種のランクがあるのか?そこも後で聞きたい。


「聞きたいことはそれだけかな?」


「……あぁ、悪かった引き止めて」


「良いさ、今後ともよろしくしてくれるならね」


「俺としては凄く嬉しいんだが、良いのか?」


「そもそも皇帝大総術士の僕にタメ口で話してくる時点で、君変わってるよ?」


 そういえばそうでした。


「それもそうだったな……じゃあ、今後は友人として、お互いによろしくな」


「うん!」


 はい。どうやら俺の真っ当であり格上の友人はクオリネだそうです。

 いや格上というかほぼチートな友人が出来ちゃったよ!

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