◇二話◇旅の始まり
旅の始まり、それは異世界転生物でよくある《物語の始まり》を意味するものだ。
んで俺は今、その旅の始まりにいる。
さて、どうするべきか。近くに国はあるだろうけども、必ずしもそれが近いとは言えない。
歩いて何日か、酷けりゃ何週間かになるだろう。
歩くのは慣れているが、野宿中の飯やら風呂やら、ここら辺はどうにかする他ない。今すぐ魔法とか覚えた方がいいだろうなぁ。
「……うーむ」
こうして考えに考え込んで約1時間、ここまで考えたの初めてだぞ。
ちなみに何か決まったかと言えば決まってない。ノアはと言うと。
「ふーん……ふふーん」
鼻歌歌いながら花を摘んでますね!あら可愛い。
……何の歌を歌ってるかはさておいて。一体どうすりゃいいんだ?
「ところで君は、これから一体どうしたいのかな。旅に出る!みたいな顔してるけど……」
「いや、出たいのは山々なんだけれど、ここからどうしていけばいいのか分からなくてさ。ほら旅って言えば、野宿だったりとかで、かなり準備が大変だろ?」
「それにノアだって女性なわけだし、お風呂とか入りたいだろうしさ」
「うーん……私は別にお風呂に入らなくても、
「あ、でも温かいお風呂に入ったのは……最後に入ったのはいつだったかなぁ、20年前?かな……久しぶりに入りたい気持ちはあるかも」
「やっぱ風呂いるじゃん……って、今なんて?リフレ……ッシュ?」
「うん、私の固有スキルでね?自分に降りかかった災いとか呪い、あと汚れとか全部浄化できるんだよー!!」
固有スキルというものを嬉々として話すノア。
固有スキルというと、ゲームで例えるならそのキャラクターが持つ専用のスキルと言う所か?自身の災いというなら、デバフってところか。それを浄化って、それかなり強いんじゃないか?
「まぁ災いと言っても、戦争みたいな争いとかは、近年これといって見られないけどね」
「強いて言うなら風呂に入る必要性が無くなったから、全世界の女性には申し訳なく感じるなぁ……」
戦争とかはない。ならこの世界は勇者や魔王とかっていないってことだよな?それならこの世界でまったり暮らしてもいいんじゃないか?
「戦争がないなら、ゆったり出来るな。どこかの国でクエストとか受けたりして暮らしていくかぁ……とりあえずどこかの国でギルドを見つけてみるとしようかな」
異世界と言えば国、国と言えばギルドだ。ギルドに行けば身分証明書の役目を持つ専用のカードが発行されるはずだ。
「勇者や魔王もいない平和な世界って、ラノベでも見た事ないが……」ボソッとそう言う。
「ううん、いるよ?勇者や魔王」
「――うぇっ?」
思わず変な声が漏れてしまったよ。
いったいどういう事だ?勇者に魔王がいるって、それじゃあ典型的な異世界なんじゃないのか?
「んとね、この世界には王が6人、魔王が4人で合計10名、勇者が1名存在しててね」
まて、勇者が1人に魔王が4人?それってかなり危険な状況だろ。凄い平然としてるけど、これ俺が勇者になるパターンじゃないのか。
「勇者はこの世界の調律者なんだよ、この世界が崩れる可能性がある時にだけ出てきて、それ以外の時はあまり見た事はあんまりないかな……」
「そして魔王は人間の王と同じで、この世界にいる魔人や魔族達が住みやすいように、より良い国作りをしているんだよ」
「へぇ……」
異世界物の大半は魔王を倒すような内容だが、こんな世界があるんだな。それに勇者が調律者?どれだけ強いんだよ……。
少なくとも、俺にチートスキルやら何やらない時点で、その必要がないって事だよな。
「6人の王と4人の魔王……か」
「そして、その10人の王達の国にはそれぞれ守護竜がいるの」
「そ・し・て!私はその中の
ドヤりながらノアはそう言う。
「……えぇぇぇぇぇぇ!?」
竜なのは出会った瞬間に見たから分かるが、まさか一国の守護竜と契約したなんて信じられないだろ!
もしや、チートスキルとかそういうのじゃなくて、この契約こそが俺に与えられた特典のようなものなのか!?だとしたら神様最高すぎる!!
でも一国の守護竜なのにいいのかな。守らなくて。
「でもその、良いのか?国守らなくて」
「大丈夫、守護竜はそう言われているだけで、実際は国の王達が軍などを率いてるから守ることもない」
「だから守護竜達は守るという役目がないんだよ、今の竜達が何をしてるかは分からないけど、少なくとも自由に生きていると思う」
「そうなのか……だからノアは俺に契約獣として現れてくれたのか?」
「契約自体は運もよるかな、私が出てこない可能性の方がずっと高いと思うよ?でもまぁ、君みたいな、優しそうな子に出会えたのは、私としては嬉しいかなぁ」
「すいません今のその『私としては嬉しいかなぁ』の『私』を『お姉ちゃん』に変えてください」
要望してしまった。しかもすっげぇキモいなおい。
……いやそっちの一人称も聞いてみたかったんだよ、多分ノアは俺よりも年齢上だしさ。
「い、良いけど……」
「お姉ちゃんとしては嬉しいかなぁ……でいいのかな?」
「ご馳走様です」
これ以降、絶対こんな要望しない事にしよう。そうしよう。今ので好感度20は減っただろうし。
「……とりあえずミナト君、まずは近くの国があるからそこまで行こう。何をするにも、まず君のギルドカードが必要だし」
さすが竜、スルースキルも兼ね備えてる。
――近くの国と言うが、恐らくそれは竜の状態で向かった場合の話だろう。人間であれば時間がかかるはずだ。
「だいたい何週間ぐらいで着くんだ?」
「4日程度で着くよ?もしかして竜の速さと人間の速さで、難しく考えてたのかな?」
あら本当に近かった。
それに俺の考えている事は全てお見通しされてたらしい。
まさかノアの方は人間の足で向かった場合の計算をしてたとは思わなかったが、多分ノアも人間の状態で向かおうとしていたんだろう。すごくありがたい。それに比べて俺は何要望出してるんだ。
「じゃあ今すぐ向かった方がいいよな、行きがけに武器とか落ちてりゃ拾ってモンスターとか倒したいけども――」
「そんなにお金が欲しいの?確かに旅にお金は付き物だけど……」
「違う、ノアの服装がその上着1枚だけだと周りからの視線がノアに集中されるだろ?だから服くらいは買っておくべきだと思うんだよ」
「あ、私のせいで……」
はい、また間違えましたね言葉。
――としても、仕方ないんだよなこればかりは……。何を買うにしても、何を求めるにしても金は必要だし、ひとまずはノアの服購入を目標に頑張るしかなさそうだ。
上着、というかコートか。それ自体はノアのひざ下あたりまであるから少なくともはだけはしないだろう。
さて、とりあえず謝ろう。
「いやごめん!今のはノアを責めたみたいになって……決して責めたわけじゃないんだ!その……」
言えるはずがない『ノアのその無防備な姿が目に入ると、俺の理性が保たないんだよ!』なんて。
――なんか転生してから、俺の変態度が上がってる気がするなぁ。気のせいだといいんだが。
「知ってるよ?私の身体、ミナト君にとっては刺激が強いんだよねぇ?」
「……君も物好きだねぇ、竜種の体に興奮するなんて……まぁ獣人と婚約する人だっているし案外普通とも言えるのかな?」
「気づいてたのか!?って、あっ……」
「でも、欲に負けず私にコート着させてくれて、何だか嬉しくなっちゃったよ……!ありがとうねミナト君」
いや俺にだって自制心はありますよ!身体は未成年(まだ姿見てないけど)でも中身は大人だからな、どっかの名探偵みたいに。
まぁとにかく、そろそろ国へ向かうとしよう。俺の変態っぷりはどうやらノア公認になってしまったらしいしな。
「俺にだって自制心はあるんだ!ってかそろそろ向かわないと、このまま野宿コースになるのは嫌なんだが!」
「それもそうだね、話が脱線しすぎちゃったよ」
「じゃあ、さっそく向かっちゃおうか!私の為でも君の為にもねっ!」
少し前に出て振り返り、そしてウインク。アニメのヒロインだろこれもう!
ということで、俺とノアは早速向かい始めた。
時折、ノアに食べられる雑草やキノコを聞いては、ご飯用に採っているが、どれも毒キノコとしか言えない色味を帯びている。食えないに等しい色なのに本当に食えるのかよ。食えても大抵ゲロまずパターンだろ。
ちなみに雑草とかは前世で見たことあるものが何個かあった。人参に見えるものや玉ねぎに見えるもの、ジャガイモのようなものまであった。
さて、この材料には見覚えがある。そう、カレーの材料になるかもしれないのだ!……久々に食べたいな。
◇
旅に出始め2日が経った。新しい発見があるとすれば、ノアの作る料理がとんでもなく美味いということだけ。
あの毒キノコに見えるキノコの中には出汁の取れる物もあるらしく、ノアは
料理ができるお姉さんとか最高が過ぎる。
「ところであと二日ぐらいで着くんだよな、向かう国の名前は何なんだ?」
「あ、言ってなかったね。今向かっている国はト――」
ドォォォン。
突然鳴り響く爆発音と地響きに、俺は慌てて周りを見渡した。
モンスターの襲撃かよ!武器も防具もないのにどうするってんだよ。
「大丈夫だよ、今のは恐らく……あそこかな」
ノアの指を指す先、そこを見ると小さな黒煙が舞い上がっている。あれが爆発源だろう。盗賊やら何やらでもいるんだろうが、物資的には残ったものの中で使えるものを見つかるかもしれない。
行ってみるが吉だな。
「……行ってみるか」
「行くの?私はいいけど……」
「服とかがもしかしたら見つかるかもしれないだろ?行かないよか、行ってしまおうぜ」
「俺、裁縫は割と得意だからさ」
そう、俺は手を扱う細かい作業が得意だったのだ!と言っても正確には裁縫とかそう言うのしか出来ないが。
さぁ、向かうか。
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