うちの妹ときたら……

猫田 まこと

第1話

 田んぼと田んぼの間を少しばかり広い道路が走ってる。その道路の端っこを俺、服部茂は、友人と駄弁りながら、チャリで帰ってる最中だ。


話の内容は、いかにして、女子達にモテる方法から、はては、クラスの女子の可愛い娘ランキングなんていう、女子が聞いてたなら、非難轟々もの内容だ。


とまあ、思春期の男子らしい色んな欲にまみれた話をしつつ、家路を急ぐ。




「じゃあな。服部」


「おぅ。またな!」



 自宅近くの溜池前で、俺は、友人と別れ、チャリをこいで自宅へ向かう。今日で、中間テストも終わったし、明日から休みというのもあり、チャリを漕ぐ足取りも軽い。溜池の間を縫うように通るガタガタで、ややきついこの坂も、鼻歌交じりに登っていける程だ。


だが、この気分も妹によって吹き飛ばされる事となる。




「ただいま〜」


 ガラガラと、玄関の引き戸を開ける。

いつもなら、ばあちゃんのお迎えで、保育園から先に帰ってるハズの妹が、出迎えない。


 ここにいないてっ事は、多分また、何かされるんだろうな。

というのも、ここ数日。学校から帰るなり、妹のひなから、暴力を奮われてるんだ。

 まぁ3歳児だから、暴力といっても、たかが知れてるんだけど、受けたら受けたで、地味に痛い事にかわりはない。


 昨日は、プミキュアという女児の間で人気の魔法少女が使うステッキで、頭を殴られたし、一昨日は、そのプミキュアのぬいぐるみを、おでこにぶつけられた。


一体俺が、何をしたというのだろう?


理由を訊いても、「兄ちゃんのばか〜」と言うだけだし。ホント訳わからない。




「ただいま。ひな?おらんの?(いないのか?)」




自室を開け、ひなの行方を探すもいない。ひなが入りそうな押入れや、俺の机の下も覗くがいない。


あとは茶の間だろうな。


鞄を置くと、茶の間に向かった。




「ひな、どこにおるんね?(どこにいるんだ?) おるんなら、返事しんさい」




茶の間の入口から、そう声をかけるも、返事は無い。茶の間から庭に出たんだろうか?違う。何か音がする。なんだ?




「ふややあ〜兄ちゃ〜ん。出られーん!出しで〜」




 音の出所は、茶の間の隅の押入れからだ。ふややあ〜というひなの鳴き声と、バンバンと襖を叩く音が聞こえる。


 


「どして、閉じ込められとんな」




 足元を見たら、俺の漫画や母の雑誌が崩れて、丁度、つっかえ棒のようになり、襖が動かないようになってるんだ。


漫画や雑誌が何かのはずみで、崩れたんだな。


 俺は、それらを退かして、押入れを開けると、中の座布団と一緒に、ひなが文字通り転がり落ちてきた。


 


ちょんまげに結われてた髪は、クシャクシャ。顔も涙と鼻水でクシャクシャなひなを、抱き上げ、背中をトントンして落ち着かせた。




「ほら、泣かんの。どして、押入れ入っとったんね?」


「に"いぢゃん。おどかしょうって思ったん。らって、兄ちゃん。あしょぼって、言っでも、あしょんで、くれんのんじゃもん」




 再び、ふやや〜と泣くひなを落ち着かせる。舌足らずな上に涙声だが、理解出来た。俺にかまって欲しくて、押入れに隠れて、脅かそうとしたらしい。




 これで、最近やたら、暴力をふるう理由もわかった。


――中間テストの勉強が忙しいという理由で、ひなをずっとほったらかしにしてた。ひなは、ほっとかれて、寂しかったんだ。




 小学生時代、ずっとクラスで、一番の成績を俺は取り続けてきた。


だから、中学でも一番にならなきゃというプライドから、中間テスト前は、必死に勉強していた。得にここ一週間近くは、ひなの相手なんかしてれないと、勉強中は、ひなが入ってこれないように、自室に鍵をかけていたくらいだ。




――ホンマ、俺ってバカじゃ。父さんも母さんも、仕事が忙しいし、ばあちゃんもご飯の用意とか掃除とか、せんにゃいけん事(しなくていけない事)があるんじゃけぇ、四六時中ひなの相手しとかれんの分かっとるのに。




 


「ごめんな。ひな。寂しかったんよね。兄ちゃんが悪かった」




 ギューとひなを抱きしめてやると、ふややあというひなの鳴き声が、小さくなっていく。




「ひなも、ごえんなさい。兄ちゃん叩いて、ごえんなさい」




しばらく、グズグズ泣いていたが、バッと離れる。






「兄ちゃん、あしょんで!」


「うん、いいよ。何して遊ぼうか」


「んとねー、パンパカマンのえほんよんでー」




 やれやれ、さっき泣いてたのに、もう笑ってるよ。


ただ、ひなの相手に忙しくて、宿題をやるのをすっかり忘れてて、休み明けに青くなったのは、別の話だ。

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