第4話 春一番

 こんなに太陽が出ているのに、まるで星が見えるようだよ。


 私がいかに夜な夜な暗い空を見ていたかが分かる。


 もう夜じゃなくてもあの世界が見えてしまうほど、目には暗闇が焼きついていた。


 僅かな救いは此処が田舎であるということ。


 私の目の中に星が見えている段階はまだ心に余裕があるのかもしれない。


 でももう分かっているんだ。


 私の目に朝が来ることは、きっともう無い。


 「すぅーー、はぁーー。」


 大きく吸った空気には3月の初々しい太陽の匂いがした。


 もうすぐ春が来る。


 風は大分まろやかになった。


 頬を掠める風に痛さが無い。


 もしくは、私が感じないか。


 「そういえば、」


 何処かで聞いた淡い話を脳が思い出し、何の塞き止めもなく声に出た。


 この町の近くに心を無くした神が生まれたと。


 「心を無くした…」


 この話をどこで聞いたのか…


 思い出せないが今の私に何かが共鳴したように重なった1秒がきた。


 「何で見たんだろう。本かな?」


 今の1秒が大作を見たくらい心がドクンと動いた気がする。


 その一瞬で母の事や父の事が頭をよぎった。


 何か不思議な力が私の心に触れた気がする。


 心臓にそっと手をやると、大きくドクドクと脈打っている。


 「なに…これ…」


 ほぼ仮死状態の心に再び命を吹き込まれたような。

 

 生きろと背中を押されたような衝撃があった。


 そのせいで少しばかり目線が上がった。


 目の前の開けた野原に春一番が通り過ぎ、小花が幾つか揺れた。


 春の始まりを初めて見た、今春が来た。


 今まで感じた事がない明かりを目に入れた気がする。


 「なに…こわ。」


 初めての感覚に輝きが怖くなった。

 

 「やだやだ、変なの」


 あまりのときめきに驚きが隠しきれなかったが、現実に戻ろう。


 そう気持ちをリセットして近所のスーパーに向かった。

 

 

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