第3話 祭りが開かれなかった年

 「つみきー!どこ行くの?」


 「真由おばさん!おはよう!」


 「おはようってどうしたの。いつも休みの日は昼前まで寝てるのに」


 「ん?いいの!すぐ戻るから」


 「そう?朝ごはんはどうする?もう出来てるけど」


 「ごめーん、帰って来てからでもいい?」


 「はいはい、分かったわ。気をつけて行ってくるのよ?」


 「うん!ごめんね!」


 「あんまり遅くならないようにね!」


 「はーい!」


 軽快な足取りで真由おばさんの家を出た。


 家を出て3歩、足は重くなった。


 私もそろそろ家を出なきゃ。


 本当は二十歳に出る予定だったけど、妹が一人になるのは心配で、結局大学卒業までここにいさせてもらった。


 でも心のざわつきが凄い。


 私を何かが呼んでいる。


 そんな気がしてならなかった。


 この町には古い風習で、一年に大きな地震と大雨が降った時に祭りが開かれる。


 だがそんな災害が重なるのはは半世紀に一度あるかないか。


 しかし、私はもう既に記憶にある限りでは二回出会ってしまった。


 一度は私が七歳の時。


 二度目は去年だ。


 生まれた年の事も入れれば実質三回。


 これは異常だと町の人は慌てたらしい。


 だが幸いな事に去年は町から死者が一人も出なかった。


 この町も風習に呪われた訳ではない。


 きちんと対策は施していた。


 それにしても幸いとはいえ、珍しい事象に私は違和感を抱いている。


 町の人は安心し、去年は祭りを開かなかった。


 そもそも祭り自体、死者が安全にあの世に行けるよう見送るもの。


 死者がいなければ開催の意をもたらさないのは私でも分かる。


 だけど、祭りの本質ってそこにあるのかと何かと不安を抱いている。


 町の人は死者が出ていないのに祭りを開くなど、かえって不吉だと物申した。


 でも、それでも私は違和感を捨てきれない。


 いっそのこと開いて欲しい。


 でないとあの時の災害の余韻が今でも続いている気がしてならない。


 どこかで地震の残響が地面を漂っているのではないか、大雨を降らす雲が向かっているのではないかと毎日気を張らせている気がする。


 ここは落ち着かない。


 逃げたい。


 お母さん、お父さん、なぎを置いて逃げていいかな。


 はぁ、だめでしょ。


 この繰り返しを何度した事か。


 私はなぎが好きだ。


 唯一の家族を不安な土地で置いていくなんて鬼だな。


 でも、私はそろそろ生きていく自信がないというか、なぎに悪影響を及ぼすほど心が弱りきってきたというか。


 だから、なぎを傷つけないためにもひっそりと隠れたい、というよりもう…


 死にたい。


 

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