08 夜警
夜になるとどうしても暗くなる。
それはどうしようもない世界の真理だ。
魔煌石はあるけれど、それで夜の闇がすべて照らされる訳ではない。暗がりは恐怖を呼ぶ。見えない何かが躍り出てくるのでは、と不安に思うこともある。だがここはミドラ区である。
闇の中を朱い光が飛ぶ。それはこの地区では割とよく見る現象だ。
夜の暗さは人を誘惑に誘う。
「お~、ごっそさーん。また来るね~」
店の前から去って行くお客。周囲の人も各々に仲間と話をしたり、気にせず一人で様子を伺っていたり、だ。ただその中には鋭い視線を周囲に向けている者も居る。
酔ってよろよろと歩いて行く人の後ろを付かず離れずついて行く男。前を行く者の足がもつれて、よろける。すかさず背後から着いてきていた男が支える。
「あぶねえぞ、あんた」
心配するように声を掛けると、よろけた者は苦笑を浮かべる。
「いやあ、飲み過ぎちゃったみたいだ。あんがとよ」
そう言って何とか立つと、今度は気をつけながら歩こうとする。
「気をつけろよ」
「ああ」
今度はついて行かず、見送った男は長く息を吐くと笑った。
「本当に気をつけないとダメだぜ」
その手には財布がある。それは男のものではない。先ほどのよろけた者からそっと抜き取った物だ。中身を検めようとニヤニヤした顔を止めようとはしない。だが――
「ゥグッ!」
――男は急に倒れた。腰に勢いよく激突した何かによって。
「いたぞー!」
そして街の警備隊がやってきて、男を捕まえる。腰を押さえたまま、男は何が何だかわからない顔だ。喜びの表情はすでに霧散して、ただただ呆然としている。
「お前、詰め所まで来てもらうぞ。誰か周囲の捜索して来い。財布か何か盗まれた人がいるはずだ」
「え!」
見つかってはいないはずなのに、見つかっている。そして気づかれてはいないはずなのに断定されている。
「お前さー、この街で犯罪はダメだよ。特にミドラ区でとか。炎竜様が怒ってんじゃん」
上を指さす警備隊。上空には朱色の光がぐるぐると旋回していた。
「まあ、初犯ならそんなに重くないけど。仕事がないなら紹介してやるよ。でも、とりあえず詰め所な」
旋回する朱色の物体はこの地区のミニドラゴンらしいと男はやっと理解した。この街に来て、名物と言うから見てはいたが、街灯の上から動かないのだと思っていた。
激突された腰は無事だろうか。
男はとても心配になった。
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