06 午睡するベンチ

 昼下がりの公園はあたたかい。

 子どもたちが遊ぶ声を聞きながら、ぼうっと景色を眺めている。段々と瞼が重くなってきたような気もする。

 この公園はミドラ区の唯一の公園だ。とはいってもミドラ区自体がそんなに広くはない。一番大きな建物は宿屋である風の灯り亭で、それなりに賑わっている。家族経営の宿ながらミドラ区でも永く続いている。時々他の職に就く子もいるが、皆宿にはよく帰っている。

 それにミドラ区には竜燈がある。ミニドラゴンの擁するランプを竜燈と呼ぶ。それは魔煌石ではなくただの魔石なのだが、ミニドラゴンたちの力で魔煌石よりも明るく輝く。

 ミニドラゴンとはいうが、ドラゴンの子どもではない。ミニドラゴンという種族だ。ミドラ区と言う名前はそもそもミニドラゴンがいる区という意味だ。昔、はぐれたミニドラゴンを保護した折からずっとこの区に居ついてくれている。詳しい経緯は一応伝え聞いているが、真実かは不明だ。

 宿屋とガラス工房の竜燈は彼らが管理している。この公園に関しては区会長である私がしている。水竜様を管理するというのはおこがましいが、公園の世話をする責任者として同士のように思っている。共にミドラ区を守っていくお仲間だ。

 水竜様には区会長を引き継いだときに挨拶をしたが、昔から知っているので一瞥をくれただけだった。そんなに激しい方ではないが、子どもが好きなので仲良くやっていけるだろうと思っていた。


 ……などと色々考えていたら、いつの間にか眠っていたらしい。

 公園に少しずつ夕陽の色が入り込んでいる。手に何かが当たっている。視線をやると水竜様が私の手を叩いていた。小さな手でペチペチと。

「水竜様? 竜燈から降りるなんて珍しいですね」

 クアァと鳴いて、手に体を擦り付けてくる。

「眠ってたのを気にしてるんですか? 老骨ですがそんな簡単に死にゃしませんよ。病気してたのは治ったって言ったでしょう?」

 普段は竜燈の上に大体寝そべったり、遠くを見ていたり、気が向けば住人に手助けをしてくれたりしている。

「私はもう子どもじゃないですよ」

 水竜様の頬に手を寄せて、軽く撫でる。

 クアッ、と小さく叫ばれた。

「水竜様にとっては皆子どもですか? そりゃ小さい頃から知られてますからね。隠し事もできないなあ」

 気がすんだのか、水竜様は翼をゆるゆると動かして竜燈の上へ戻る。

 この区で生まれ育ったのだ。誰もがミニドラゴンたちの子どもであり、庇護対象。そこに自分が含まれていると改めて思うと、こそばゆい気持ちになる。

 ベンチから立ち上がると影が長く伸びていく。私はゆっくり家路に着いた。

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