⑧改革その2

リクルーターからの提案を承諾した獅子尾がまず最初におこなったのは目の前で繰り広げられているリンチの仲裁であった。


「おい、そこのボンクラ4人組。ちょっとやりすぎなんじゃないの?」


粗雑なリングに近づきながら憲兵4人の気を引き、殴る蹴るの暴行を止める。


「あ?お前も鍛えてやろうか?」


4人の中で一番弱そうな憲兵が突っかかってくる。弱い奴ほどよく吠えるのはどこの世界も同じなのか。


「いいねぇ、最近刺激が無かったし体も鈍ってきたから稽古つけて欲しかったんだよなぁ。お前みたいな弱そうな奴でも少しは楽しめそうだし。」


獅子尾が挑発すると小馬鹿にされた憲兵は激昂し、汚い言葉を吐きながら突進してきた。獅子尾は憲兵の右袖を瞬時に掴み空中へ放り投げると、突っ込んできた勢いもあってか盛大に地面へ叩きつけられた。


「がっ………………!」


受け身も取れないまま背中から落ちた憲兵は落下の衝撃で肺の空気が一気に抜けてしまい苦しそうにもがいている。


「なんだ、全然楽しめないじゃん。」

残念そうな獅子尾の姿をキョトンとみていた憲兵たちであったが、獅子尾が只者ではないことに気が付くとリングに立てかけてあった木剣を慌てて握りしめ3人がかりで斬りつけてきた。


多人数を相手にする際、最も重要になってくるのがポジションである。3対1の状況であっても前後左右に動きながら1対1の状況を作り続け1人ずつ制圧していく。


獅子尾は右にいた憲兵に狙いを定め、素早いフットワークで距離を詰めた。憲兵は慌てて木剣を振り上げるも、ガラ空きになった顎に獅子尾の左フックが飛んできた。直撃したフックの衝撃は顎から脳へと伝わり、憲兵はその場にグラリと倒れ込んだ。


倒れた憲兵から木剣を奪い、警棒技術の構えをとる。左の掌を前に突き出し、右肩に木剣を乗せる。この構えをとることにより相手からは武器の長さが不明確になる。


木剣を構えてジリジリと距離を詰める憲兵は息を合わせるように2人同時に斬りかかってきた。

獅子尾は左から来た憲兵の懐に潜るように姿勢を落とし、憲兵の脇腹目掛けて木剣を叩きつけた。


「どぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!!!」


剣道の試合であれば会場が沸くほど見事な胴が決まり、憲兵はその場に崩れ落ち脇腹を押さえて悶絶していた。憲兵の鎧も防弾チョッキと同じように脇腹辺りが薄いだろうと思って殴ったがどうやら読みは当たったようだ。

それなりに手加減をしてぶん殴ったつもりだったがそれでも木剣は粉々に割れてしまった。


ラスト1人は素手で相手をするしかなさそうだ。

「どうする?まだやるか?」

全員タコ殴りにする必要もないので念のため投降する意志があるかを確認する。


「てめぇ、憲兵に手ぇ出してお咎め無しで帰れると思ってんのか?」


生き残った最後の1人が恫喝紛いの捨て台詞を吐いた瞬間に獅子尾は走り出した。


憲兵は獅子尾の顔面目掛けて突きを繰り出したがあっさりと躱わされ背後を取られてしまった。


憲兵の背後に回った獅子尾は

「リングといえばこの技でしょ!!!!」

と叫びながら憲兵の腰を両腕でがっちりと抱きしめて、勢いをつけて海老反りの姿勢をとる。

中学生の頃に憧れたプロレスラーの必殺技、ジャーマンスープレックス。


ゴンッという鈍い音と共に憲兵の動きが止まる。


(ワン、ツー、スリー)

心の中で3カウントをキメると手を離しヒョイと立ち上がる。


「試合終了だな。いい稽古になったわ。」


パンパンと手を払い周囲を見渡すと、憲兵も徴兵された者達も呆気に取られていた。凄まじい戦いっぷりを目の当たりにしたらそうなるのも仕方ない。


「と、いうわけでこれからお前らの訓練を担当する獅子尾だ。よろしくな。」


呆気に取られていた彼らの口はさらに広がった。



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