世界が終わる瞬間で
ベニテングダケ
第1話 糞みたいな人生は
「12月25日、地球は滅亡します」
テレビの中で金に汚い総理が言った。
「…朝飯」
Fラン大学生の俺は、地球滅亡の知らせなど気にせず朝飯を食べることにした。
朝飯、風呂、着替え全て終わらせ一人暮らしの部屋を出る。
家を出ると、糞豚共の煩い声。やかましいな。
今日は12月23日。今日を入れてあと三日で俺の生きてきた全ては無くなる。いや思い返してみれば生きてきた全てなんていうくらいに大きな物なんて紡いでこなかった。彼女はいないし、資格も全く持ってない大学の学費も親に貰ってた。
「そうだ」
残り3日間、せっかくなら思いっきり楽しんでみよう。糞豚共は、どうせ泣いて悲しんでいるんだ。なら俺だけでも最後の3日間、楽しんでやろうじゃあないか。
1日目
俺は、渋谷を歩いた。
夜の渋谷は綺麗で、まだ18時だってのに糞豚は一人もいなかった。
何故かいつも曇ってた天が、今日は曇らず綺麗だった。
満面の星。
そうだ俺は子供の頃、星が好きだったんだ。
俺は星が照らす街を楽しく、愉しく踊っていた。
2日目
朝のニュースでは、糞豚が何人も自殺したと言っていた。その多くは男だと言う。恋人と崖から落ちようとしたそうだが、女が途中で止まり、男は崖からまっさかさま。女は、恋人を死なせてしまった罪悪感で、警察に連絡したんだと。恋ってのは薄っぺらい。
今日は強盗してやった。まぁ糞豚はいないから簡単に鏡割って物を盗んだだけだが。
外を見ると糞豚が何人か倒れていた。
夜、ニュースは終わりだとアナウンサーが言った。誠実なもんで、最後の最後まで敬語のままだった。
「皆様。最後の1日を楽しんでください」
そのテレビの中にいた人間は泣いていた。
俺だって泣いていた。
3日目
人はいなかった。
死ぬのが怖くなかった訳じゃない。無論天国や地獄なんて信じてないし、これから俺がどうなろうが今の俺は知らない。
死ってのは思えば軽いもんだ。もちろん皆そう思ってるなんて言えば多分違う。
違わなきゃ墓なんて普通作らねぇし。
まぁこんなこと言ってるけど最後に一つこの世界に置いておきたい言葉がある。
俺は熱い熱い今にも激突しそうな星を、見ながら。
俺の熱い熱い今にも溢れ出しそうな人間の生き恥を拭いながら。
この世界にこの言葉を残す。
「最後に人間に戻れたよ」
糞だと思ってた人生は、豚だと思っていた俺の生き様は、案外価値があったのかもしれない。
最後になったけど。バッドエンドじゃ嫌になったから。労ってやるよ。
「ありがとう」
笑ってやった。
世界が終わる瞬間で ベニテングダケ @oojamiuo
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