第36話 女王の気がかり
「……イライアス」
数十メートル先の路地を歩く彼の足取りは重く、
そしてイライアスはクローディアに気付くこともなく、どこかへと歩き去って行く。
その明らかにおかしな様子が気になりクローディアはゆっくりと彼の後を追った。
「何か……あったのかしら」
クローディアはそう
人は何もなければあんなふうに雨の中をずぶ
彼に何かがあったのだ。
自分でも気付かぬうちに、クローディアの足取りは早くなっていた。
☆☆☆☆☆☆
イライアスは力のない足取りで路地を歩いていた。
雨の
雨の中を急いで行き
その足が向かう先は決まっている。
イライアスは街中の墓地に
「俺がここに来る時は、いつも決まって暗い顔をしているだろうな。もっと晴れやかな顔でおまえを
死者への声掛けに返事はない。
かつて優しい笑顔でイライアスの話に
「ミア……俺はおまえを死に追いやった女と結婚しなければならないかもしれない」
イライアスはそう言葉にしてみて、吐き気がするほどの嫌悪感を覚えた。
マージョリーの顔を見る
いつもそれを飲み込み笑顔で彼女に接するのは、全ては未来のためだった。
「俺はこの国を変える。そのためだったら毒の果実だって食らってやるさ。その結果としてこの身とこの心がどうなろうとも構わない」
ミアが死んでからイライアスはこう考えるようになった。
この先、自分の身に起きる辛い出来事はすべて
それはミアを守れなかった自分への
憎んでいる女との
だが……イライアスはそれを受け入れるつもりはあっても、納得するつもりはなかった。
「ミア……」
その名を呼ぶとイライアスは墓石の前に
まるで
「こんなこと……おまえは望んでいないかもしれない。だが、俺はもう俺自身の幸せを追い求める気にはなれないんだ。この命は大義のために
この共和国は選挙によって大統領を選出する民主化された国ではあるが、実際には立候補して当選できるのは貴族ばかりだった。
平民には立候補する資格もない。
ゆえに平民の中で財力を持つ者は
金の無い者は当然そんなことは不可能だった。
そして国の
依然として貴族と平民の間には大きな
イライアスはその
平民の中にも、金の無い者たちの中にも、国のためにその才覚を振るえる者がいるはずだ。
そうした考えからだ。
だが、イライアスは自覚していた。
自分が動く本当の原動力は、愛しい女を失ったことによって生まれた腹の奥底の憎悪なのだと。
自分が胸に抱くのは国を良くしたいという大志なのだと自身に言い聞かせてみても、心の声まではかき消せない。
「これは
イライアスがそう言ったその時、ふいに彼の頭上から降る雨が
誰かが後ろに立ち、広げた
「……そんなずぶ
その声に
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