第14話 女王の悪阻
「うぅぅ……」
洗面器の前で背中を丸めてブリジットは
ボルドはそんな彼女の背中を優しく
妊娠が判明して間もなく、ブリジットは連日の
戦場ではその剛腕で武器を振るって百の敵を
ブリジットが妊娠を決意してから、妊娠と妊婦についてまったくの無知だったボルドは、そうした知識を助産師からみっちりと教えられていた。
ブリジットを
だが、
「ボルド。おまえは外にいてくれ。シルビアを……呼んでくれ」
「は、はい……」
ブリジットは
ここ最近、ボルドはそうして遠ざけられることが増えている。
いつも彼女の
(ブリジット……私に心配をかけまいとしているんだろうか)
こういう時にボルドに出来るのは、次に彼女に呼ばれた際にいつもと変わらず笑顔で接するべく、気持ちを切り替えることだけだ。
それ以外には出来ることが何も無い。
そんな状況にボルドは
すると一階の玄関口から1人の来客が姿を見せた。
「あ、ボルドさん」
そう言ったのはボルドもよく見知った友だ。
「アデラさん」
ダニアの女にしては
荒くれ
彼女は
「すみません。アデラさん。ブリジットは今、お取り込み中でして……」
ボルドがそう説明するとアデラは心配そうにボルドに視線を向けた。
「大丈夫ですか?」
「かなり苦しそうでしたが、誰もが通る道だとブリジットは気丈に
「いえ……ブリジットのことだけではなく、ボルドさんも元気が無いようなので」
そう言うアデラにボルドは内心の曇りが顔にありありと表れてしまっていたことを知り、少し
「すみません。あまりブリジットのためにして差し上げられることがなくて……」
そう言うとボルドはアデラに事情を説明した。
それを聞き、アデラはふむと
「ボルドさん。それは女心ですよ」
そう言うとアデラは彼女らしい優しげな笑みを見せた。
「ブリジットはきっと、ボルドさんには自分が
「ですが……お加減の悪い時こそ私はお
「そのお気持ちは分かりますよ。でも私も女なので、ブリジットのお気持ちのほうが理解できるのです。好きな人に……見てほしくはないですね。そういうのって理屈じゃないんです」
そう言うとアデラは指で自分の
それを見てボルドはようやく気付いたのだ。
ブリジットはボルドと口づけをするその
それを察することが出来ずに内心で
そんなボルドにアデラは優しく言った。
「少し見守りましょうよ。ブリジットがボルドさんを何よりも大切に想っていらっしゃるのは間違いないのですから。今は静かに見守る時だと思います」
「アデラさん……すみません。私が至らぬばかりに。ご親切にありがとうございます」
そう言うボルドにアデラは
彼女のおかげでボルドは少しだけ心の重しが軽くなったような気がする。
そして何だか以前よりもアデラが大人びて見えるような気がしたボルドは、ふと胸に浮かんだ疑問を口にした。
「アデラさん。恋人がいらっしゃるのですか?」
「へっ? い、いやその……は、はい。実は……」
最近、新都に出入りしている共和国一行の武官と良い仲になっているのだと、彼女は照れた様子で話してくれたのだった。
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