第16話 チーム対戦 後編

「……あーもう! 埒があかないっ!」

 そう叫んだのは、僕に「チームを交代しろ」って迫ってきた子だった。

 ちなみに、彼女の武器は鞭だった。見た目と同じく派手だなぁ。

 彼女はジェシカ・エメラルドさんたちを睨んだと思ったら、こちらに突進してくる。僕と隊長を先に始末しようと考えたのだろう。

 僕は隊長が指示する前に素早く隊長を抱えてその場を離脱し、別の瓦礫に身を隠した。

 間一髪、瓦礫が鞭で爆破された。かなりの破壊力なんだな……。


 今、僕が手にしているのは片手剣なんだけど、これじゃダメだと悟った。あれほどの威力がある鞭なら、片手剣程度じゃ切れないし。攻撃を受けたら巻き取られる可能性がある。

 となると……。

 僕は、腕よりもやや短く、垂直に持ち手がついている取っ手付棍棒トンファーに交換し手に持って、脇に隊長を抱えた。荷物を抱えるようになっちゃったけど、怒らないかな?

「隊長! 振り回すかもしれません!」

「気にするな。いざとなったら下ろせ。今のままでは私はまさしくお荷物だ」

 隊長! クール!

 僕は瓦礫を飛びだし、飛んでくる鞭先を避けつつ棍棒で払う。ちょっとでも狂えば鞭に絡みつかれるので、かなり神経を遣っている。

 ……彼女の鞭さばきはそうとうだ。あんなおかしな言動をする子だからたいしたことないのかと思ってたのに、鞭さばきだけを見たらこのチームに入ってもおかしくはない。


 …………だからこそ、この子に負けたら僕はこのチームにいることが出来ない。


 鞭を躱し弾きながらじりじりと距離を詰める。

 彼女が焦ってきた。

「なんで当たらないのよ! 大したやつじゃないくせに!」

 そう見えるのならむしろ褒め言葉だ。

 これでも努力しているからね。


「……クロウ!」

 ジェシカ・エメラルドさんの悲愴とも言えそうな呼びかけを聞いて一瞬気を散らした彼女に、僕は一気に距離を詰める。

 僕に気づいた彼女が慌てつつも、

「甘いわよ!」

 と叫んで鞭をふるった。

「落とせ」

 隊長の静かな声に合わせて、僕は隊長を持つ腕から力を抜く。

 隊長を置いたまま僕は鞭を両手に持つ棍棒でさばき、僕の間合いに入り込んだ。

「僕の、勝ちだ」

 彼女の首に武器を打ち込んだ。


『小隊名【ローズウィップ】の生存者がゼロになったため、小隊名【ナンバー99】の勝利となります』

 僕は思いきり息を吐いた。

 ジェシカ・エメラルドさんは隊長に抱きつき、

「わぁあ〜ん! もう、心配した~! 無事で良かったぁ~!」

 と言いながら、彼女の顔に自分の頰をスリスリとすりつけている。

 もう少し時間をかければ、敵を倒した他のメンバーが彼女を倒しただろう。それでもよかったけど、これは授業で『時間切れ』というのも存在するため、ちょっと無理をしてしまった。

「うん、いい感じじゃないかな? 及第点だと思うよ」

 と、アッシュ・ウェスタンス教官は満足そうにうなずいた。

 ジェシカ・エメラルドさんからようやく解放された隊長も、うなずく。

「今回はなかなか良かった。次回はさらに期待する」

 褒められたはずなのに、リバー・グリフィン君とキース・カールトン君は疲れたようにため息をついた。


 ――僕は、次の学年に上がるまでの区切りで成果を出す必要がある。

 そして、卒業までいることは許してもらえないだろう。

 でも焦ってもしょうがない。まだ時間はあるんだ。

 今はこのチームに少しでも馴染むようにならなくちゃ。

 そう思って、気合いを入れて、

「つ、次もがんばりますので、これからもよろしくお願いしまーす!」

 と、元気よく挨拶をした。

 ジェシカ・エメラルドさんとリバー・グリフィン君とキース・カールトン君は急に僕が大声を出したのに驚いたのか僕を凝視していたけど、アッシュ・ウェスタンス教官は微笑みながら、

「うん。これからの活躍に期待しているよ」

 って言ってくれて、隊長も、重々しくうなずきながら、

「うむ。私も君に負けないよう、いろいろと策謀を巡らし、さらなる高みを目指して精進していこう」

 って、僕を見据えながら言った。

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