第13話 嫌がらせの主犯

 声の主――アッシュ・ウェスタンス教官を二人で見た。

「それ以上のいわれなき非難は担当教官としては聞き逃せないな。どのみち、理由のないメンバー編成は許可されないし、生徒が勝手気ままに決められないことは、当然知っているはずだけど」

 アッシュ・ウェスタンス教官はにっこりと笑った。

「今まで受け付けたことはないし、これからもないよ」

 すると、僕の胸ぐらをつかんでいた女の子はパッと手を離し、指を交差して左右に揺れモジモジしながらアッシュ・ウェスタンス教官を上目づかいで見つめ始めたんだけど。

 女子生徒の態度の急変に僕、驚いて口を開けてパクパクしちゃったよ!

「だってぇ〜。アッシュ教官に担当になってほしいしぃ、キースと離れたくないんだもーん」

 え!? この子キース・カールトン君の恋人!?

 ギョッとして彼女を見た。

 ……それにしてはアッシュ・ウェスタンス教官に対しての話し方がおかしいけど、どういうこと?

 僕が混乱していると、アッシュ・ウェスタンス教官が僕を見て、肩をすくめた。

「交代は、生徒が勝手に出来ない。僕の言っていることが理解出来る?」

 アッシュ・ウェスタンス教官が優しい顔で言う。でも、サングラス越しの瞳が笑ってない。

「え〜。いいじゃん。ね、ルージュの頼みを聞いて」

 小首をかしげて片目を瞑り、両手を合わせてお願いのポーズをとる。

 アッシュ・ウェスタンス教官は再びにっこりと笑う。

「僕の言うことを理解できなくて、僕の言うことを聞かない生徒は、僕には要らない生徒なんだよ。次からはもう、僕の授業に出なくていいからね。君の担当教官に言っておくから」

 そう言うと、彼女をつまみ出した。


 ついていけてない僕がボーゼンとしていたら、アッシュ・ウェスタンス教官が僕を見て困った顔をする。

「ま、今回は僕がどうにかしたけど、次回からは自分でどうにか出来るようになってね。始終君についていられないから」

「えぇ〜……」

 思わず声をあげてしまった。

 ……半分くらいアッシュ・ウェスタンス教官のせいって気がするんだけど。

 ただ、ああいったことは日常茶飯事なんだろうな。

 アッシュ・ウェスタンス教官が苦笑しているから。


 いろいろ大変だった授業が終わって、精神的に疲れた僕がとぼとぼと廊下を歩いていると、

「あァん?」

 って、ガラの悪い声が聞こえてきて、顔をあげたら向かい側からチームのみんなが歩いてきていた。

 憔悴している僕を怪訝な顔で見ている。

「……り、リバー・グリフィン君!!」

 思わず駆けよった!

「なんだよ!?」

「ぼ、僕、君みたいな人でも必要なんだって、今日思い知ったよ!」

「どういう意味だテメェ!?」

 ジェシカ・エメラルドさんが噴き出し、キース・カールトン君はそっと顔を背けて笑いをこらえた。

 隊長が静かに指摘する。

「その様子だと、普通科の生徒たちに無理難題を言われて辟易したのだろう」

「そういうことかよ……」

 リバー・グリフィン君が呆れ顔になった。でも僕、被害者なんだってば。

「そ、それが、キース・カールトン君の恋人らしき子から、チームを代わってくれって言われて……」

 キース・カールトン君が怪訝な顔をする。

 ジェシカ・エメラルドさんは冷やかすような表情だ。

「どの子かしらね〜?」

「どの子もなにも、恋人なんていない」

 え、そうなの? そういえば、アッシュ・ウェスタンス教官にもなれなれしかったからそういう性格なのかな?

「あ……そうなんだ。ピンクのフワフワッとしたツインテールの……」

 とたんにリバー・グリフィン君とキース・カールトン君の表情が険しくなった。

 ジェシカ・エメラルドさんは肩をすくめる。

「……あの、クソ女か」

 え、え? 僕がキョロキョロと二人を見比べる。

「以前から、このチームに入れてくれと言ってきていた生徒が数人いる。そのうちの一人だ」

 隊長が答えてくれた。


 それにしても……入れてくれって頼むってことは、やっぱり人気あるんじゃないかな。なのに嫌がらせされているのはなんでだろう?

「あ、あの……。それって、このチームが人気あるってことですよね? なのになんで嫌がらせされるんですか?」

 隊長以外の全員がキョトンと僕を見た後、顔を見合わせた。

 隊長がまた答えてくれる。

「まず、嫌がらせの主犯は教官たちだ。彼らはアッシュ教官と私たちを毛嫌いしているので、自身がかわいがっている生徒たちをえこひいきし、私たちに不利な条件を押しつけてきているのだ」


 げ。

 教官が主犯!?


「生徒たちはそこまででもないが、首席で常勝の私たちに面白くない感情は持っているだろう。教官の嫌がらせに乗ってきている。だが、それでも勝てないのならばこのチームに入るのが一番の成績アップだとわかり、入りたがっているのだ」

 うん、とってもわかりやすいです。

 僕が肩を落としてため息を落とす。

「……なんとなくわかりました。恐らく僕が君たちのチームに入ったのも嫌がらせの一つなんですね?」

「そのとおりだ。新参者を入れて足を引っ張らせて成績を落とさせるという企みで君は入学を許可され、このチームに入れられた」

 ……納得した。どうりで欠員が出たくらいで募集がかかったわけだ。


「それにしても……。あ、アッシュ・ウェスタンス教官も嫌われているんですか?」

 噂通りならかなりの実力者じゃないかな。なにせ、たった一人でエリアを十年間も生き抜いてきたんだから。

 運良く誰かに助けられたとしても、お荷物がずっと何もしないで生きていけるほど甘くはない。少なくともセントラルにしかいたことのない教官よりは強いと思う。

「アッシュ教官は、強い上に家柄も良いそうだ。そんな人間が同僚になったら誇るものを持たない人間は妬むもの、らしい」

 絶句した。

 ……淡々と言ってのけた隊長、カッコいいけど厳しいですね。

 慌ててジェシカ・エメラルドさんが隊長の口をふさぐ。

「クロウに悪意はないんだけど、ないからこそけっこうキツいこと言ってのけるのよ」

 ジェシカ・エメラルドさんがフォローした。

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