第12話 合同授業

 アッシュ・ウェスタンス教官は僕のクラスの授業と、普通科と合同で行う『基礎体育』という授業を受け持っている。

 これはVRではなく、生身でするというので驚いてしまった。

 僕としては、むしろVRで基礎体育を行って、生身で基礎体術じゃないの? って考えるんだけど。

 基礎体育授業の説明をし終わった後で、僕の表情を読んだアッシュ・ウェスタンス教官が笑顔で教えてくれた。

「シェパード君の抱いた疑問はもっともだよ。卒業したらほぼアンノウン討伐関連の就職先に就く生徒たちがVR訓練ばかりしていて、現実で鍛えないのはどうか? ……って思うだろうが、上の学年にいけば現実での実習が多くなるし、課外授業もある。あと、VRのときにつけているあの器具はバカに出来ないもので、筋肉を適度に鍛える効果があるんだ。反射神経も、VRである程度つけられる。何より恐怖感が薄れるので鍛えやすい。――もうひとつ。アレは高価なのでそんなに数がないんだ。他の科に回す数がない。なんだかんだいって、アンノウン討伐は重要なので防衛特科はかなり優遇されているんだよ。……あんなんでもね」


 ……言われてみればそうなんだよね。

 他の防衛特科の生徒と比べたらずいぶんと差を付けられているけれど、僕が以前いたところの教育環境に比べたら最先端もいいところなんだよな。


 そうそう、カリキュラムに『合同授業』ってのがあるんだ。魔術特科や普通科と交じって行う授業なんだけど、魔術特科に関しては魔術が一定のライン以上に使えないと受けられない。

 魔術特科に落ちた僕は、魔術の素養なしということで授業をとってない。代わりに普通科と合同の授業をとっている。

 僕以外のチームメイトは全員魔術の授業をとっていた。隊長は魔術師と聞いたからわかるけど、他のメンバー……あのリバー・グリフィン君さえも魔術が使えるんだとなんとなく感動した。

 魔術は、個人の保有魔力がまず物を言うけど、自分の適性魔術を探し、詠唱を覚え、戦いのときはタイミングをはかって使わなくてはいけない。

 魔力が切れると体調を崩す、最悪気絶するので、己の保有魔力の把握も重要だ。

 ブレイン(マイクロマシン)に記憶させ、検索して唱える手もあるけど、咄嗟のときはそんなこと出来ないし。

 そういったことがいかにも不得手そうなリバー・グリフィン君が魔術を選択しているなんて、人は見かけによらないんだなぁ。


 閑話休題。つまり、魔術の授業のときはチームメイトと別れて普通科の授業を受けています。

 いや、リバー・グリフィン君と一緒に授業を受けたいとはまったく思ってないけど。

 でも彼って、案外面倒見が良いんだよね。僕が一人でいると、寄ってきて悪態……ではないのかもしれないけど何かしら話しかけてくるんだ。

 ただ……ややありがた迷惑なんだよなぁ……。

 僕、彼にからまれるよりボッチがいいかな。


 …………と、最初は思っていたけど前言撤回します。リバー・グリフィン君、そんな君でもいてくれたほうが良かった!

 僕、ある女の子にしつこく言いよられています。


「あなたのチームに入りたいの! 代わって!」


 って……。

 そのちょっと前にも普通科の女子生徒に囲まれて、

「アッシュ教官に渡して!」

 ってプレゼントを押しつけられたんだよね。

 アッシュ・ウェスタンス教官はとてもモテるらしい……。

 というか、ナンバー99のチームメイトはみんな人気がある。

 それなのになんで嫌がらせされているんだろう?

 ……と、胸ぐらをつかまれて揺さぶられながら現実逃避している現在です。

「あなたみたいなのがメンバーになれるのなら、あたしだってなれる、ううんあたしの方が相応しい! あなたもそう思うでしょ!?」

 うーん、どうなんだろうね。でも僕、あのチーム以外引き取り手がいないだろうから、交代は無理なんだよなぁ。

「ぼぼぼ、僕……。他のチームには入れてもらえないから、あのチームじゃないと困るんだ」

「だったら、あの女を追い出してよ!」

 え、どの女? うちのチーム、女子生徒は二名いますけど。

「あの、すーぐ男に色目を使う女よ!」

 ……たぶん、消去法で隊長は消える。隊長は常に冷静沈着で表情を変えないから。

 だとしても……ジェシカさんだと認めるのは癪だ。

 確かにいつもにこやかだけど、社交的なだけだ。仲間に対してはもっとがさつな対応をしているし、隊長にはとても親しげだ。

 僕に対してにこやかなのは、まださほど親しくないからだし。

「……そ、そんな人はいないよ!」

 僕が精いっぱい反抗したら、胸ぐらをつかんでいる女の子に睨まれた。ついでに絞めてきた。

「……何よ! 男はすぐあの女にたぶらかされて……」

「はい、それまで」

 僕と女の子は同時にストップをかけた相手を見た。

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