第11話 重火器のこととアッシュ教官のこと

 ふと疑問に思ったことがあったので、小隊訓練のときアッシュ・ウェスタンス教官に質問した。

「そ、そういえば、銃や重火器は使わないんですね。その訓練もないみたいだし。やはり希少品だからですか?」

 意外に思っていた。確かに高価すぎるけど、アンノウンにはかなり有効だと思う。

 アッシュ・ウェスタンス教官は僕を見つめた後、ニコッと笑いかけた。

「着眼点がいいね。今までその質問をしてくる子はいなかったよ」

 あ、リバー・グリフィン君は意外に思うことを意外だと思っている顔してる。

「あれ? リバー・グリフィン君は理由を知っているの?」

 僕が尋ねたら、急に慌てている。

「や、知ってるワケじゃねーけどよ。……アレって高ぇだろ?」

 って返された。

 うーん、確かに高価だね。アンノウンって加工しだいでいろんな材料になるけど爆発物にはならないから、そういった材料を使う物は希少品になるんだよな。エリアは事情が違うんだけど。


「……そういった理由なんですか」

 僕が独り言のようにつぶやいたら、アッシュ・ウェスタンス教官が答えてくれた。

「それも理由にあるね。第一の理由としては、セントラルはエリアのようにアンノウンが街や人を襲ってくるわけじゃない。安全は保証されているが、物資に限って言えばここに無い物はエリアに行って手に入れなければならない。セントラルは一見豊かに見えるが、弱いアンノウンを狩りそれを加工した物がほとんどだ」

 アッシュ・ウェスタンス教官の言葉に僕はうなずく。

 確かに、この学園に関して言えば本当に豊かで最先端で綺麗だ。そして、アンノウンの加工技術――特に生活の利便性や彩りなんかの方向で非情に発展しているって思う。


「だけど、資源は有限だ。防衛のためではなく、資源調達のためにアンノウンを狩りにエリアに出かけるほどにね。……そんな実情だから、稀少材料を使った武器で倒さず手に入りやすい武器でお手軽に倒せるアンノウンを狩る訓練を行うんだ」

 アッシュ・ウェスタンス教官がなんとも世知辛い理由を話してくれた。エリアのアンノウン討伐部隊も大変だけど、セントラルのアンノウン討伐部隊も、それなりに大変だなぁ……。


「他には、やはり武器の精度だね。さっきと同じ理由で、銃や重火器は作っても試射が限られる。お試しするには高すぎる材料を使う武器は数多く揃えられないし改良もなかなかできないよね。なら、爆破魔術を使った方がよほどコストがかからないって考えにいく。……ちなみに、セントラルの銃や重火器は、爆破魔術で爆発するシロモノだから」

「えっ?」

 僕は知らなくて驚いた。

「エリアなら爆発物を手に入れられる場所があるからそこまで高くないし、アッチは生死がかかわってくるから、改良型の重火器なんかは使われていたかな。でも、大型アンノウンの討伐用の重火器となれば、そりゃあもう高価なシロモノだったよ。報償金やアンノウン素材代金の半分くらいはかかるかな。銃は、効果のあるアンノウンとまったく効果のないアンノウンに分かれるので、武器のバリエーションの一つとして考えられていたかな」

 いろいろ説明してくれた。さすが、エリアにいただけあって向こうの実情にも詳しいんだな。


 僕はちょっと考えてからまた質問した。

「じゃあ、銃や重火器はセントラルでは使われない、って考えていいですか? 勉強もしないって」

「いや、使うヤツはいないけど、使われないワケじゃないかな」

 えええ? 何を言ってるんだろう?

「防衛特科の生徒たちは『重火器は爆破魔術で爆破できる。銃は非常に高価で費用がバカにならない』って覚えている。だから使わないだけだ。武器として選ぶことはできるよ。使い方がわからなかったら教えもする。ただし、討伐隊では支給されないので、使うとしたら自費になる」

 アッシュ・ウェスタンス教官がわかりやすく教えてくれた。

 ……なるほどね。だからみんな、僕が疑問に思うことが不思議なんだ。僕もVR以外では銃を使わないかな。お金持ちじゃないからね。


 ――と、意外とまともに教えてくれたアッシュ・ウェスタンス教官なんだけど、正直いろいろ手加減しているな、というのがありありとわかる。

 恐らく、授業や小隊訓練で手を抜いて教えているのには理由があるのだろう。決して「だるい」とか「めんどくさい」とかいう理由からじゃないと信じている。重火器の時みたいに、質問すればちゃんと教えてくれるし。ふだん何も教えてくれないのには、きっと深い事情があるに違いない。


 彼の昔を知っている人の噂では『勉学と運動は多少出来るがそれを鼻にかけた厄介者』なんだけど……。どうも出来たのは『多少』ではない気がする。

 少なくとも、十年間エリアにいて、そこから戻ってきて一気に自分を陥れた兄たちを粛清して当主に座った手腕があるのだから、そう侮るのはどうなのかって思うんだけど。

 十年間どうしていたのかの足取りは誰も掴めていない。

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