第7話 キースのこと、ジェシカのこと
僕は寮住まいを希望していたんだけど今まで入寮できずにいて、一ヶ月近く待たされてからようやく許可が出た。
空き室がなくて急遽二人部屋を改造して三人部屋にすることになり、手間取っていたんだって。
『準備ができた』って連絡をもらったので、さっそく寮に向かったんだけど……。
僕が入ることになる部屋にはキース・カールトン君とリバー・グリフィン君がいた。うん、なんとなくわかってたよ。
後から来た僕のベッドは、二人に挟まれることになった……。
後から入ったし元々二人部屋だったんだし、しかたがないけどね。だけど、真ん中って……落ち着かない。
「この部屋は狭いので三人が最大だが、他の部屋はもっと広くて四人部屋だ」
と、キース・カールトン君が教えてくれた。
けっ、とリバー・グリフィン君が悪態をつく。
「もっと広い、どころじゃねーけどな。この部屋の三倍はあるだろーが。無理やり俺らを狭い部屋に押し込めただけだぜ」
……なんでリバー・グリフィン君がやさぐれて閉鎖的になっているのが分かってきた。あまりにも待遇が違うから、今いるメンバーでしかつるみたくないんだろうな。
僕は思わずため息をつく。……別に、待遇が悪いのはいいけどさ。望んでないし。ただ、他の生徒と待遇が違うっていうのはつまり目をつけられているってことで。ここまで想像と違ってるなんて思ってもみなかったからちょっと不安だな。
――と、思考に沈んでいたら、ポン、と肩を叩かれて驚いた。
ギクリと体を揺らすと、またもや至近距離にキース・カールトン君がいる。……ホント君たち99小隊の人たちって距離感が近すぎるよね。
「慣れないうちは、寮のことなら俺に聞いてくれ。リバーでもいいが、リバーは説明が下手なので、俺の方がいいだろう」
説明が下手っていうか、純粋に話し掛けづらいのでキース・カールトン君に聞きます。
僕はコクコクとうなずいた。
その日からキース・カールトン君は僕についてくれるようになった。
そして、それで分かった。僕、彼のことをイケメンだと思っていたけど、ホントにイケメンだったってことが。
見た目は間違いなくイケメンだ。細面の顔に切れ長の緑の瞳、赤茶色の髪は前髪を少し長くしている。
そして、さりげなく親切。僕のこともさりげなく助けてくれるけど、他の人のこともさりげなく助けている。
さりげなさすぎて気付かない人もいるくらいにスマートで、彼にだけ限って言えば、女子生徒からは嫌われていない。むしろ、大人気だ。
そんな彼の横にいる僕は肩身が狭い……ことはなく、空気だった。
そして、同じく優しい枠のジェシカ・エメラルドさん。笑顔で話しかけてくれる。
だけど誰にでもそうなんだよね……。僕だけじゃなくて、他の男子生徒にもにこやかに応対している。にこやかに応対していないのはキース・カールトン君と、特にリバー・グリフィン君に対して。
なので、彼女は仲良くなるとぞんざいになるのかもしれないと最初は思った。
けど、隊長ことクロウ・レッドフラワーさんにはとてもにこやかだったので、そういうわけでもないのかとわかった。
にこやかっていうか……とっても懐いているという感じだ。
今、小隊室でジェシカ・エメラルドさんが隊長の髪をいじって遊んでいる。
「できたー! うわー、クロウ、かわいい!」
「…………ウン、タシカニカワイイネ」
僕は棒読みで相づちをうってしまったよ。でもツインテールの三つ編みって……若すぎる見た目の隊長の、見た目年齢をギリギリまで下げてる気がするんだけど。
隊長は無表情にされるがまま。そして、そんな隊長にかわいいかわいいと言いながら抱きついているジェシカ・エメラルドさん……なんか、とても妖しげですから気をつけて下さい。
僕は、黙殺している男子二人に聞いてしまった。
「え、えっと、あの、アレ、大丈夫なんですか?」
なにが? と聞かれると困るけど。
「気にしたら負けだ」
キース・カールトン君がバッサリと言った。
「いーんだよ。好きにやらせとけ。その方が害が少ねぇ」
リバー・グリフィン君がすごいことを言ってのけた気がする。
あのジェシカ・エメラルドさんを見ると、僕を含めた男性陣への対応は社交なんだなぁと思う。たぶんじゃなくてぜったいに、ジェシカ・エメラルドさんは隊長のことが大好きだ。見るからにね。
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