第8話 不正とは

 今日のVR訓練は基礎体術。

 ヘッドギアだけでなく、全身にギアを付けて訓練するんだ。

 なんか見た目がすごいことになってるなと思ってしげしげと自分を眺めていたら、アッシュ・ウェスタンス教官がそんな僕を見て苦笑していた。

「武骨だって思うだろ? 実際そうなんだよね。この小隊だけ旧式のだから」

 また差別!

 でもいいや。僕、そもそもこの装置を知らないもんね。

「VRの訓練室でトレーニングを行うと、連動して肉体に負荷がかかるようになる装置だ。……これも得点に加算されるから、がんばってくれ」

 いつもはジェシカ・エメラルドさんが説明してくれるんだけど、彼女は今クロウ・レッドフラワー隊長に夢中なのでキース・カールトン君が説明してくれた。


 ヘッドギアを被りVR訓練室に降り立つと、いろいろなトレーニングマシンが置いてあった。

「使い方をひととおり説明する。時々アナウンスでトレーニングが指定されるので、その場合はそれを使って訓練してくれ」

 わかったようなわからないような感じだけど、始まればわかるかな、と思ってうなずいた。

 キース・カールトン君にマシンの説明を受けていると、唐突にアナウンスが来た。

『パンチングマシンをシャム・シェパードが使用する』

 えっ。たった今説明を受けたマシンが指定されたよ。しかも、僕に使うようにって。というか、練習どころか他のマシンの説明すらまだなんですけど?

 キース・カールトン君を見ると、予測していたようだ。

「たぶん、そうくると思った。君が一番の指名なのは、まだマシンの説明を受け使える状態までにいかないようにするためだ。しかも一番癖のあるマシンを指定すると予測していた」


 あぁあ……。

 本当に君たちって嫌がらせされているんだね。予測出来るほどに毎度おなじみなんだものね。僕も巻き込まれているけど、転校生なら避けて通れないんだろうな。


 僕は息を吐き、キース・カールトン君を見た。

「ど、どのくらいの速さならいいんですか?」

 キース・カールトン君は早めの手拍子をする。

「出来るか?」

 と、そのあとに聞いてきた。

「……すみません、わかりません。使ったことがないですから。でも、くやしいのでがんばります」

 キース・カールトン君に返事をしたところで、容赦なくアナウンスが来た。

『カウントを開始します。……3、2、1、スタート』


 む、難しい!

 力加減とリズム感が問われる。方向も正しくないといけない。

 最初は上手くいかず、慣れるのに時間がかかってしまった。


 終わったあと、ぐったりしてしまった。

「す、すみません……」

 キース・カールトン君に謝ると、さわやかに返された。

「いや、初めてならそんなもんだ。初見ですべてを使いこなせるやつなんて、隊長くらいだ」

「へっ?」

 今、ツインテール三つ編みをして若作り極まっている隊長が? 空耳かな?

「隊長はVRの中で活かされる魔術だ。VRの中にあるものなら、使えないものはないだろう」

 そんな魔術なの!?

 そして、魔術使っていいの!?

「あ、あの……。それって、不正って言われません?」

 これだけ嫌がらせされているんだから、ぜったいに使わせないようにしてきそうだけど。

 僕の言葉を耳にした隊長以外の三人が揃って鼻で笑った。


「これだけ不正していて、こっちの不正は認めないとか? 笑える〜」

 って、ジェシカ・エメラルドさんが怖い顔で笑う。


「言ってきたやつを半殺しにしときゃ黙るだろ」

 リバー・グリフィン君はいつもの調子……より怖い顔だね。


「不正だとわからなければ不正ではない」

 まともだと思っていたキース・カールトン君まで怖い顔で言ってるし!


「不正ではないが、不正と言うならば証拠を挙げてもらう。ただし、その不正が常に行われている行為だと判明した場合、全員が処分対象になるだろう。もちろん過去にも遡及する。教官を含めて全員、処罰対象だ」

 隊長が僕に向かってというより、誰かに聞かせるように言う。


「え、えっと?」

 僕が戸惑っていると、リバー・グリフィン君が誰かに聞かせるように教えてくれた。

「つまり、盗聴されてんのも折り込み済みだってこった! そんなんで俺らを陥れようったって無駄なんだよバーカ!」

 うわぁ。嫌われているレベルの話じゃなくなってきた。


 次々と指名され、隊長はウエイトリフティングだった。余裕でこなしていた。

 幼女が軽々とあげるさまはとてもシュールだ。

 結果、やっぱり首位。

 僕が足を引っ張っている気がするけど、それでも首位なんだな。

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