第3話・敵
戦士の村を旅立ったカエルは何日もかけ、先の人類と魔族との戦いで半壊し、今や野盗、魔物の住処となっている要塞を目指していた。
戦士の村を出る前、村長から魔王軍幹部ネクロがそこに居座っている事を教えられてたからだ。
「ふぅ。この森を抜けた先に要塞があるのか」
カエルの眼前には草木が生い茂る薄暗い森が広がっていた。生きて帰った者がいないと言われる絶死の森。
「ふぅ。行くしかない………………行くしかない」
カエルは自分を奮い立たせるように呟き、ゆっくりと絶死の森に足を踏み入れた。
「真っ直ぐ進んで行けば問題ないか」
森の近くの村に立ち寄った際に手渡された地図を頼りにカエルは森の中を進んでいく。地図にはルートも細かく書かれていた為、迷う事はなさそうだった。
襲い掛かってくる下級魔物を倒しつつ、森の中を地図通りに進んで行くと、太陽の光が差し込む広い空間に出た。
「人……いや、魔族か」
カエルは腰に携えていた斧を手に取った。
カエルの視線の先では、大きな切り株に腰を下ろした魔族が小鳥と戯れていた。
「魔族だな。ここで何をしている」
「ここで何をしている……か。うーん……そうだな。俺を殺しに来る人間を返り討ちにしている、と言えば信じるか?」
額から羊の角を生やした魔族は口角を上げた。そして、ゆっくりとカエルを観察し始めた。
「お前は……強そうには見えないな……。まあ、いいか。人間よ選べ。灰も残らずに死ぬか。死んで俺の傀儡となるか」
そう言って魔族は立ち上がった。それに合わせ、小鳥たちが一斉に空に向かって飛び立っていく。
「死なないという選択肢はあるのか」
「ないな……見たところお前は弱い。いや、半年前に殺した人間よりは強いかもしれないな」
「半年前」
半年前と言えば、カエルの親友であるブモ―が魔族討伐の旅に出た時期……そして、魔王軍幹部に殺された時期だ。
「ん?ああ、半年前だ。少し遊んでやったらすぐに倒れてな。故郷に帰りたいと言っていたから、傀儡として蘇らせて故郷に帰してやった。ああ、俺は何て慈悲深い魔族なんだろうな…………君、人の話は最後まで聞くのが礼儀じゃないのか」
カエルは魔族に斬りかかった。最短で距離を詰め、目にも止まらぬ速さで手斧を振るったはずだった。しかし、その攻撃を魔族は簡単に受け止められた。
「くそっ」
カエルは手斧を離し、魔族から距離を取った。
「相手にとって不足はないか。お前が魔王軍幹部なんだろ?」
「ああ、そういえば名乗ってなかったな。私の名前はネクロ。大陸西部侵攻部隊の隊長を務めている。ああ、俺の名前は覚えなくていいし、君も名乗らなくて構わない。どうせ君はここで死ぬのだから」
「いいや、俺はお前を覚えてるだろう。村を出たばかりの俺が倒せた魔王軍最弱な魔族としてな」
「面白いよお前。そんな挑発して無様に負けたら最高に無様で面白い」
カエルとネクロは同時に駆け出した。
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