第2話・旅立ち

 雲一つない青空から注がれる太陽の光を一身に浴び、カエルは大きく伸びをした。どこまでも続く青空がカエルの気持ちを明るいものにしてくれている。

 アンデッドと対峙した次の日、カエルは戦士の村から旅立とうとしていた。


「ふぅ。そろそろ行くか」 


 英雄の父が羽織っていたマントを羽織り、薄暗い林に向かって歩き出そうと一歩踏み出した。その時、


「カエルー!」

 

 と、後方から自分の名を呼ぶ聞き慣れた女性の声が聞こえた。振り返ると、茶色の髪を短く整えた女性が手を振り、こちらに向かって走って来ている。

 女性はカエルの前に到着すると、膝に手をついて「ゼーハー」と肩で息を始めた。

 

「はぁ。はぁ。はぁ、疲れた……最近、鍛錬サボってたからかな」

「そりゃそうだ」

「はぁ、はぁ。まあ、文句は言えないわね」

「で。どうしてここに来たんだルーカ」

「はぁ、はぁ、はぁ、ちょ、ちょっと待ってね。ホントに今、苦しくてさ」

 

 カエルの質問を手で制し、乱れた息を必死に整えるルーカ。カエルは村入り口の門に寄りかかってルーカが落ち着くのを待った。


「ふぅ」 


 ようやく落ち着いたのだろう。そう思ったカエルは背筋を伸ばしてこちらを見つめるルーカに再び尋ねた。


「で。どうしてここに来たんだ」

「どうしてって。あなたが今日、旅立つからでしょ。名誉ある魔族討伐の命令をダラ村長から命じられたあなたを見送りに来たのよ。まさか、幼馴染に何も言わずに行く気だったの。こんな早朝に」

「面倒くさい奴に捕まりたくなかっただけだ」

「面倒くさい奴って……村の人達のこと?」


 ルーカの言葉にカエルは後頭部を掻いて視線を逸らした。


「俺は英雄ダンの一人息子だ。魔王軍幹部を打ち倒した戦士。俺も父さんを誇らしく思った。けど……年月が経つにつれ、俺にとって英雄ダンは呪いでしかなくなったんだよ……」

「カエル」

「それにな。皆、俺に父さんの幻影を見てるんだよ」

「違う。それは違うわよカエル」


 自虐的に言ったカエルの言葉をルーカは否定した。


「違うでしょ。あなたはおじさんみたいにならなくちゃって。努力し続けてたでしょ。その努力が実って、戦士の村でも上位の実力を持つ程になったの。皆、あなたの実力を知ってる。あなたが優れた戦士であることも知ってる。今回の魔族討伐の命だって、あなたが今、この村で一番強いから選ばれたのよ。村の一部の人達はただ、あなたを僻んでるだけなの」

 

 カエルは何も喋らず、涙声で話すルーカの頭を優しく撫でた。

 

「そ、そうかな。そうだといいけど…………ありがとな。そんな風に思ってくれてて……じゃあ、そろそろ行くわ。面倒くさい奴らが来る前に村から出たいから」

「ええ。ぐすっ。その前に、これを受け取って」

 

 そう言ってルーカは緑色の綺麗な石がついたブレスレットを渡してきた。それを受け取ったカエルは首を傾げて彼女の顔を見る。


「これは?」

「無事に帰って来てほしいから。ぐすっ。その、お守り……ご利益は……ないけどね」

「綺麗なブレスレットだ。ありがとな。まあ、ご利益がないのは何とも言えないけど」


 苦笑いを浮かべ、カエルはブレスレットを右手首につけた。


「緑色の石を付けたアクセサリーをブモ―にも渡してたの」

「そうか……ブモ―にも………………でも大丈夫だ。俺はあいつの仇をとって、きっと帰って来る。だから、そんな顔するな」

「無事に帰って来てね」

「もちろんだ」


 涙目になったルーカに見送られ、カエルは戦士の村を後にした。

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