いつまで

上雲楽

救済


実際、知らないことだったので私は黙秘権を行使していたが、三枚の爪をはがされたのでとりあえず黛あおいの日記はその母親から受け取っていることを話した。三人の審問官たちは何かを小声で囁きあうと、二人は裁判所の外に出ていった。裁判所は石造りの長い廊下を歩かされた先にあって、私は模造大理石の椅子に座らされている。

「それでは、時期も教えていただきたい。迅速に対応しなければ君の人生にも関わることです」

審問官が柔和な声色を作ったが、表情は私をここに拉致したときと変わらなかった。

「日記を受け取った時期ってことですか。それなら数日前ですけど」

「嘘を吐くな」

「クーデターなんて珍しいから日記をつけようと思います。なんかごっちゃになっていて大変ですね」

審問官が爪のない指を握ろうとしたので、私はとっさに日記の冒頭を諳んじた。審問官は、できるじゃないか、と言って、振り返り、腕を後ろに組んだ。

「いつまで?」

と審問官が尋ねたが意味が分からないので黙っていると、審問官はタブレット端末を持って、何か操作を行った。私の手に取りつけられた拘束帯が外れると、誓約書の表示されたタブレット端末を見せられ、サインするように言われた。秘密保持がどうとかそういう内容のように見えるが、熟読もサインの拒否も不可能なのはわかっているので、すぐに指で自分の名前を書いた。利き手の爪がはがされていなくてよかった。

「これで同志ですね。怖いことが起きるのは本当によくない」

と審問官が言うので相槌を打っていると、一人の男、先ほど出ていった審問官の片方が戻ってきた。それはまた小声で何かを呟くと、一冊のノートを置いた。それは自室にあった黛あおいの日記だった。

「家に入ったんですか。不入権の侵害です。正式に抗議します。……先生が黙ってないですよ……。連絡させて下さい。越権行為です」

「事態は一刻を争う。責任は私が取る」

と残っていた方の審問官が言うと、ノートをぱらぱらと開いた。日記にはこう書いてある。

 母親は早く避難しろってうるさいけどせっかく面白そうなのにそんなことできない。早速刑法に手が入ったので、ウグイスを売買することにしましたが、かわいくてペットにしました。三羽いる。

 審問官が無理矢理ノートを読ませてくる。私は目を逸らそうと思ったが、これ以上の暴力は嫌なので意図に従うことにした。

 同じ自治体に橘がいるとは思わなかった。ならきっとこの日記をそのうち見せることになると思うからその前提で書くことにしたけどそれじゃ手紙になってしまうからやっぱり読ませない前提で書いた上で読ませることになる方がよさそうみたい。これは千里眼じゃないですって、審問官に説明するといいと思います。いや、私のせいで橘が裁判に巻き込まれるって決まったわけじゃないけど念のため。

 同じ自治体に黛がいるのは私も知っていた。日記には日付が書かれていない。自治体の不輸権はこの情勢でも貧乏人の私には魅力的だった。先生への信仰はポーズで構わない。

「それで、密売を始めたことは認めると?」

「あなたたちが決めたルールに従っただけでは?それに結局ペットだって」

「それはそうだ」

審問官二人がくすくす笑った。

審問官の立ち入りが気に食わないからここにとどまっているのもあるけど、間近で見たかったクーデターの行先はあまり面白いカオスを生まなかったとクリニックの医師に話したら秩序が精神の健康には重要だと諭された。そりゃそうだ。

クリニックには私も黛の足取りを追うために訪れたことがある。もちろん守秘義務ということで門前払いされた。そのときにも誰かが監視していたように思うからとっくに裁判所にマークされていたのかもしれない。

「千里眼じゃないらしいです」

「黙れ」

 私が見ているとすぐに誰かが怒鳴りつけるのはよくあることだった。クーデター以前の学校の教師もやっぱり高圧的で、私が本当のことと嘘のことを言うと怒っていたから黙っているようにしていたのに目を見るだけで黙れと言うようになった。それが幻聴かもしれないと疑えるようになったのはもっと大きくなってから、具体的には橘と再会する前からだけど、それが事実だったか思い出せないし、体罰があったら痣とかできていて写真を撮ったりしたかもしれないけど、昔から自撮りは嫌いだった。

先生は温厚で信者が多いのも頷ける。私はてっきり黛も信者で、そのためにここにいると思い込んでいる節があった。

 裁判所に提出する証文はすべて先生に焼かれたが、それを批難する体力は首都にはなかった。だから、アウトローが自治体には集まりやすく、暴力が日常だった。軍事力でもって立法権と行政権を掌握したのに、軍事力は各基地に分割され、勝手にその地域の統治を行うようになっていた。各自治体も最初はその庇護下にあったが、平気で横流しされる武器弾薬に市民がなじみ、実力を持つのに時間はかからなかった。

おばあちゃんが強盗を射殺したのを先生が称揚していたけど、人殺しはよくない。おばあちゃんは私の夢枕にたったのは、おばあちゃんが復讐で殺される前か後かだった。誰ですかと聞くと、

「幽霊です。おんぶしてください。歩けないんです」

というので、

「奇遇にも私も幽霊なんです。どこまで?いつまで?」

「朝までに首都まで」

「でも、あなた足がありますよね。じゃあ、私が朝までに首都に行くことにするので、あなたが私をおんぶするのはどうですか」

「重いのは嫌です。怖い」

と言うので私は飛び起きておばあちゃんにしがみついてぶらさがりました。

「重い重い重い」

と言いながらもおばあちゃんは微動だにしなかった。体幹がしっかりしているらしい。おばあちゃんは移動を始めた。首都の方角でした。

「それで、死体が発見された」

審問官が老婆の遺体の写真を見せた。その遺体は自治体の境界にあたる川に浮かんでいた。ぱっと見、外傷は見つからない。

「クーデター前から行方不明だった女だ。誰も探していなかった」

「かわいそうに」

露骨に同情を込めて私は呟く。

「そう、哀れな女」

と審問官が言ったので、私の反応は間違っていなかったらしい。川に関して黛はこうも書いている。

川沿いに用があるのはランニングをする老人だけだと思っていたけど、私が川に行くのは切り立った崖の下で足場が悪くて日が当たらない場所を探していたときだった。よどんだ水に鳥がとまっていた。浅瀬になっているらしい。嘴が赤くて、白かった。鳥の側に女性もののハンドバッグが落ちていた。汚いから捨てたんだろうと思ったけど捨てられたから汚くなったのかもしれない。鳥はおそらくハクブンチョウで汚れも目立たないからどこかで飼われていたのが逃げ出したらしい。その鳥も飼いたくなってじゃぶじゃぶと川に歩いていったら溺れました。深い川でした。このあたりでハクブンチョウを飼っているのは先生だからきっと罰があたったんだと思います。

「非合理的だ」

「確かに、あの川で溺れるなんて普通ありえないですけど……」

あの川はどこまでいっても浅瀬で、ましてや淀むほど流れが遅いところならありえないことのように感じた。

「ならあの老婆の死体はどう説明する」

「黛の話ですよね?」

「ハンドバッグは見つかっていない」

「ですから、そうやって不法に侵入したことを公言する。私、嫌いです」

「審問官は嫌われるのが仕事だし、首都の意志でもある」

私は、またクーデターを起こすんですか、と皮肉りそうになってこらえた。これ以上爪をはがされたくなかった。

「お前のいる自治体から黛が脱出することは不可能だった」

「川を渡ればいいじゃないですか」

「老婆は死んだ」

自治体にあるハイウェイも地下鉄も、ぐるぐると回り続けるだけで首都にはたどりつけないから、審問官の指摘は正しくもあった。私が川を見に行ったとき、近所の学校の子供たちが同じユニフォームを着てランニングしていた。そろって掛け声を出していたが、何と言っているのか聞き取れなかった。その声は「いつまで」と言っているように聞こえた。

「老婆の幽霊は我々が出現させる」

と審問官が言うと、もう一人が余計なことを言うな、と威圧した。

 ハイウェイに乗っていたころにはクリニックは見えなくなっていました。通院をやめてもクリニックからの監視が継続されることを承知の上で、後部座席に置いたスズメがうるさいけどかわいい。運転すると身体の感覚が車まで伸びている感じがして気持ち悪いです。レースゲームをしていたときは身体が傾いちゃっていましたけど、運転中は視界がフロントガラスになって静止した私のまま風景だけが遠ざかっていくけどそれはアクセルを踏んでいるときに強く感じるのでハイウェイならなおさらでした。首都に向かうルートをカーナビがもう案内することはないので自力で脱出しないといけない。いつまで通院を続けるのかクリニックの先生に聞くと、下手したらずっとかもしれないと言われた。クーデターが起きてもクリニックが残ったんだからきっとこの自治体が崩壊して私がいなくなってもクリニックは継続すると思えたから逃げた。あとひき逃げもした。人だとかわいそうだから死んでもいい生き物だと思うことにしたけど、そんなものいないから、死んでいた人間をひいたと考えることにした。案外、ワンコインの洗車マシーンで血痕は落ちた。

「死体は?」

と私が聞くと、

「見つかっていない」

と審問官は言った。

「これも事実だと考えているんですか」

「どちらでもいい」

 真実があるのは先生の定例会で、参加するのは義務だった。先生の思索に誰もが付き合わされた。

自治体の心と身体を先生と一致させるのに必要な知的試みだったが、首都には理解されなかった。

「人間の支配は情動に突き動かされます。だから法を復活させねばならない」

と先生はよく言った。

「この自治体は獣です。私たちは他の人に助けられて生きているのです。ある老婆は私たちを怖がらせるものを勇気と知恵で排除してくれました。しかし、その老婆も死にました」

「私、そのおばあちゃん見ました」

と私が言っても誰も振り返らなかった。定例会が行われるホールは大きく、ずっと先生の声が反響していた。

「おばあちゃんは怖くないです。おばあちゃんは怖がっていました。首都に向かって川を見たとき、私は怖がらないでって言いました。そうしたらおばあちゃんは『その一言で私の霊魂は救われるよ。平和で悲しくなくて怖くないよ』って言いました。私がいるから怖くないよってことだったと思うんです。つまり、私がおばあちゃんの側にいたみたいに先生がおばあちゃんが殺しちゃった強盗の側にいたら強盗も怖くなかったと思うんです。でも、先生の身体が一つしかないのはわかっています。だから先生の気持ちをわけて下さい。わけてくれたからおばあちゃんは怖くないよって言ったと思うんでもっと怖くない人を減らしたいんです。そうしたら、この自治体も怖くないよって思って先生も怖くなくなって、みんなが幸せになれると思うんです」

「黙れ」

私の側にいた男が私をにらみつけた。その目は吊り上がっていて細めていて、眉間にも皺があって、きっとその人も怖かったんだと思います。

「クーデターがあってから法が壊れた日に、私は法が私たちの意志に語り掛けるパワーが落ちたと思いました。しかし、私は、私たちが何か行動するとき理性はなすべきことについて一種の三段論法を作り出し、その結論を行動に移すと思うのです。この三段論法の大前提にあたるのは理性の命令です。私たちに善くあれと語り掛ける理性です。共通の善を持つことの妨げはこの自治体にはないはずなのに、そうなってしまうのは獣だからです。獣は敵と餌を求めるのです。首都がそうです。だからあなたたちはとても怖い。怖いですか?いつまで怖がっていればいいですか?」

そう先生が言いました。

「先生、何で無視するんですか。私、おばあちゃんを見ました。おばあちゃんは怖くないよって言っていました」

黛はきっと老婆の言葉が聞かれた瞬間を離れて老婆の言葉が届けられた事実を証明できないことを理解できない。特に審問官のような人にはわからないことが。その定例会には私も参加していて、近くに涙を流していた女性がいたことは覚えているが、この言葉は聞こえなかった。

「稚拙だな」

審問官が言った。

「私がおばあちゃんの声を聞いたことを信じない誘惑があるのはわかるんです。説明が下手でしたよね。私、もっとちゃんと言います。寝ていたら、誰だってなって、幽霊だよって言いました」

「お前、さっきからうるさいんだよ」

とさっきの男が立ち上がって叫びました。周囲の視線が一気に男に集まったことに男は気が付いて、一瞬萎縮したが、また強い目で私を見た。

「ごちゃごちゃ言って、どうでもいいんだよ。こんなところに俺らが好き好んでいると思うか?逃げ場なんかないんだよ。それをぺらぺらと妄想で恐怖心をごまかして、耳障りなんだよ。俺を敵にするな」

「敵はクリニックです。クリニックの人たちは秩序を与えてくれると思ってました。私、ごっちゃになりたくないんです。だけどクリニックで得られたのは嘲笑だけでした。それって怖いからすることですよね。私、善い考えと悪い考えが同時に頭に浮かんできて、それがどっちがどっちかわからなくて決定するために必要なルールが必要だと思ったんです。首都とは違うルールでね。首都の論理は内側から破綻しています。力を御旗にしたがゆえに力に滅ばされようとしている。助けて下さい」

「お前が死ね」

と男は言うと元の席に戻った。思えばクリニックから逃げたのも怖かったからなのかもしれない。橘、助けて下さい。

定例会のあと、私はいつも外食をすることにしていた。凡庸な説法を聞かされていつも胸がむかついていた。料理をする気になれない。ハンバーガーセットを買って流し込むように胃に入れていたころ、横にいた学生が泣きながら電話をしていた。

「私、この自治体から出たいの……わかってる、レジスタンスも首都とグルなんでしょ……助けて……死なないからいいって、違うよ、おばあちゃんも死んじゃった……盗聴されてるって、それもわかってるって……どうせ、自治体も首都も見ているだけで何もできないよ……幽霊?老婆の?何それ、首都で流行っている噂だって?知らないけど……」

「老婆の幽霊の出現は同時期だった。自治体にいるお前たちが知るはずないにも関わらず。幽霊の話は先生が少しあとでするべきことだった。黛はなんで知っていた?」

と審問官が言った。

 クーデターが起こった日、私はまだその意味を把握できていなかった。テレビから放送された、破壊される裁判所にも特に感慨はなかった。少しあとで黛が失踪したあと、その意味がわかってきた。誰も黛の行方を把握できなかった。失踪したことを知らせるために警察に行った。三日かけて複数の部署を案内され、結果捜索してくれる部署は存在しないことがわかった。監視カメラはいたるところにある。通信端末はすべて盗聴、検閲されている。しかしそのデータを見る権限が誰にもなかった。データをこちらから盗み見たこともある。しかしほとんどのデータは削除されているか、ノイズだらけで意味をなさなかった。黛を探すために次にしたことは黛の部屋を捜索することだった。何度か入ったことがあるから場所は知っていた。部屋の壁紙ははがれかけているし、木の腐った臭いがするアパートだった。鍵はかかっていなかった。失踪してしばらく経つのに郵便物は何もなかった。部屋を開けると木に混じって腐った糞尿の臭いも増した。指紋がつかないように手袋をして箪笥を開けたが、衣類すら入っていなかった。机やベッドといった家具は残されていたが、あと目に入るのは空の三つの鳥かごだった。少なくとも自殺の形跡はなかった。

「怪鳥の噂は失踪した時期と一致する」

審問官が怪鳥の図を見せた。胴は蛇で顔は人間だった。その顔がいつか夢に出てきた女に似ている気がして笑いをこらえた。

「我々がこの怪鳥を流布し、先生たちが討伐する予定だった。だが、この怪鳥が表れた時期が早すぎる。黛の陰謀としか考えられない」

審問官が真剣な顔をするのでつい声を出して笑うとみぞおちを殴られた。

「やっぱり首都と先生は仲間だったんですね」

「利益的共存だよ。我々が奴らの支配を黙認する。奴らは怪異を鎮めることで首都にこれ以上の災いが起きないことを喧伝する」

「災い?」

「お前は知らなくていい」

 私はこれ以上怖いことが起こらないようにって思って過ごしていました。でも駄目だった。私の着ていた服がひとりでに歩き出した。

「行かないで」

と裸で叫んだときにはすべての服は部屋の外に出てしまっていた。私はそのまま追いかけた。

「外に出ては駄目だよ、部屋の掃除をしないと」

という声を無視して玄関を飛び出す。部屋にはまだネグリジェを着たおばあちゃんがいた。服は駅の方向に向かって行進していた。鍵をかけ忘れたがどうでもいいことだった。交番に助けを求めた。

「服がないんです」

「そういう夢、よく見るよ」

警官はそう言って、行進を見送った。駅は人でごった返していましたので、仮に服を捕まえられても担ぐことができないと思った。駅の螺旋階段を駆け上がると電車が到着するアナウンスが聞こえたが、エコーがひどくて何を言っているのかわからなかったです。その声は先生に似ていて、きっとすべての移動も先生が見守ってくれていると知った。駅は動かず来る電車を待っていてくれる。先生は言った。

「動くものが存在です。幽霊は自分で動けませんから存在しません。つまり、幽霊は私が作り出したものではないということです。いろんな動きにすごく原因があるのに限定するのは悪いことです。全部に原因があって、それが私です。ごめんなさい。私たちが体験する腐臭、異音にごまかされてはならず、もっと観察し、記録をつけるだけにとどまってはいけません。こういうもの、とか言えちゃう限られた存在じゃなく、認識とか感覚の外側にも存在が存在していることを知って下さい。そこのところ、私はいますし、首都もあります。私がいます。私がいるから、いろいろ始まります。全部関係してるんで、何か起きたな、って思ったときは私を知っていることを思い出して下さい。それ、私です。私が何をするとか、私が何かされるとかそういうことじゃなく、全部関係なんです。私と関係ないな、ってことは虚無です。お化けです。そういうの、頑張って倒すので応援してください」

今ならわかります。私は行進する服をすべて燃やさないといけないことを知った。だってお化けなんだもん。だけど人混みをすり抜けていく服と違って、私は螺旋階段を駆け上がることしかできない。

その結果、自治体での殺戮が起きたと考えるのは私の早計だろうか。確かに失踪してからしばらくして、駅での放火事件が起きた。自分もその現場に居合わせた。警察はこの事件に関しても原因や犯人に言及することはなく、自治体からくじ引きで選ばれた何人かの人がその罪で死刑を言い渡された。

「死刑になった人たちは先生が供養したよ」

審問官はそう言って何枚もの死体の写真を見せた。腐った肉に鳥が群がってついばんでいる。

「これが怪鳥の正体ですか」

私は皮肉を言っているのを気取られないように尋ねた。

「ある意味ではそうだ。怪鳥のコントロールがもはや我々にはできなくなっているのが実情です。自治体と首都の共犯の円環が……」

と言いかけたところでもう一人の審問官が頬を叩いた。

「首都の意志を疑うつもりか?それにこいつに教える意味はない」

「事実を言ったまでだ。事実を知る権利は、こいつに限らず誰にでもある」

「権利ね、そんな言葉クーデターが起きたときに忘れたよ」

と殴った方の審問官が鼻で笑って、殴られた方は今になってむっとした表情をした。

私もその権利を信じている。黛の行方を知る権利だ。黛が通っていた学校に行ったことがある。私もその学校の卒業生だと言えば簡単に入ることができた。

「というわけで同窓会をしたくても黛の消息がつかめなくて。何か知りませんか」

と老眼鏡をかけた教師に聞くが、腕を組んで唸るだけだった。

「……行きそうな場所とか知りません?どんな生徒でしたか、教師から見て」

「普通の生徒でしたよ。悪いこともしないし。行きそうな場所って言われても、この自治体内のどこかでしょ?それ以外探しようがないと思うな」

私は現に今、審問官に拉致されて首都にいるので、自治体から首都への移動手段があることを知っているが、当時はやはり自治体内にいることを信じていた。レジスタンスと接触したこともあった。首都への脱出経路を知っているという噂が嘘で実体は首都の秘密警察なのは誰もが知っていたが、黛につながるヒントがあるかもしれないと考えていた。

「逃げられた奴?いないね、あのババアも失敗したしさ」

とレジスタンスの女が語った。

「そりゃ、助けてやりたいって思うよ。この自治体って頭おかしい奴らに牛耳られてるから、全部ぶっ壊したいし逃げたいって思うから手伝ってるわけなんだけどさ、全部見られているから無理なんだよね。思想も行動も素っ裸」

「どれくらいの人が逃げようと?」

「思っているのは全員じゃない?最近行動に移したのはあのババアだけだね。あの人殺しの」

「正当防衛だと聞いていますが」

「でも殺しちゃったら一緒だよね」

「それは、残酷な言い方だと思います」

「割り切らないとレジスタンスなんてやってられないよ。私も悪いことするよ。必要なら人も殺す。それがこの自治体からみんなを解放して幸せにする方法だと信じているから」

「その幸福にその老婆はいないんですか」

「あのババアは幸福から逃げたんだよ。だからクリニックにも行かず座り続けていた」

「理由があった」

「みんなあるよ。幸福は苦しんででもつかみ取らないといけない。逃げ場なんてないんだから」

「逃げ場?」

「ここも最初は首都からの逃げ場だった。その次は基地のね。今は先生のかな」

「逃げることが罪ですか」

「当たり前でしょ」

「なら、黛あおいを知っていますか」

「知らない」

そう聞いた瞬間に後ろから何かで殴られ、気絶し、気がついた頃にはそこに誰もいなくなっていた。

私は助けてあげないと、と思って怪鳥の存在をレジスタンスに教えてあげた。

「誰あんた」

と女の人が変な目で私を見ている。変というのは右と左で目の高さが違うからだった。すごく変だと思ったけど、そう思うのはとても失礼なことだ。

「名前は秘密でというのも逃げるために名前があると捕捉されるからなんですけど、そのうちでかい怪鳥が来ます。首都だともう来ていると思います」

「なにそれ」

「胴が蛇で顔が人で『いつまで』って鳴きます。だから『いつまで』って聞こえたら合図です。私、逃げる前にみんなに教えます。みんなへの教え方は先生と一緒ですけど、私が『いつまで』って聞こえたらみんな『いつまで』って聞こえると思います。逃げた方がいいですね。怖いから」

「あー、怖いのやだね」

女がへらへら笑った。

「わかってくれたらいいです。それではさようなら」

「それで、黛あおいはどこに消えたんだ」

審問官が私の髪を引っ張る。

「だから知らないって何度も言っているじゃないですか。日記はまだ続いてるんだからそこにヒントなりあるんじゃないですか」

「いや、お前が確実に知っているはずだ」

この妄想の為に三枚の爪をはがされたのだろうか。最初は別のことを聞かれていた気がするが、痛みで忘れてしまった。

「私が罰を与えるのは、許す為なんです」

と先生は死刑の前に語った。

「存在するものはとても善いことですが、存在させなくするのは悪いことです。駅で悪いことがたくさん起きました。電車は同じ時刻に同じ場所にいなければならないのに、遅れて、いるべきときにいられなかったです。私は全部できます。できないことはありません。できないこと、というのはないもので、それを悪いものって言います。それは私の悪いことなので、あなたたちの悪いことです。だから善いことをして帳消しにします。死を与えてバランスを取ります。駅でいなくなってしまった人と同じだけの人をいなくすることをして善いことが起きたことにします。ですから、私はこの死をもって私の発言を訂正します。駅では善いことがたくさん起きました。善いことを増やすのは善いことです。だから善いことのために進んで善をなしてくれる人を選びました。ありがとう。さようなら」

「どうやって罪のない人を殺したかわかるか。柱に犠牲者を張り付けて、鳥の餌をまぶしてずっと放置するんだ。犠牲者は飢え、乾き、肉をついばまれゆっくり腐敗していくんだ。どうして許せるんだ、お前たちは」

審問官が乱暴に髪を引っ張り、振り回すので、もう一人の審問官がその手を止めた。私の髪が引き抜かれて、審問官の指に絡みついている。

罪を背負うことが許すってことなら私は何も許せないと母親は言っていた。母親はクーデターで追放された為政者の一人だった、らしい。父親はクーデターを起こした人たちの手で死刑になった。当時はまだ刑法が変わっていなかったから、素朴に内乱罪で裁かれた。変わったのは裁く人だけだった。私は誰も裁いたりしないことを誓ってこの日記を書き始めたから、橘は私のこと理解してくれるって信じている。橘と初めて会ったとき、憎いと言っていたのを覚えています。何が憎いのか聞いたら、

「それを聞くお前」

と言ったので、私たちは親友になると確信して事実その通りになりましたね。橘の残飯を残さずたいらげました。存在することが善いことなら食事はそれを消し去る悪だと思ってしまいましたが、質量保存の法則とか聞いて、すべてはずっとあるから宇宙とかとても善すぎるって思って、それを伝えようとして、橘の靴を片方破壊した。橘は言いましたね。

「死ね」

橘が死ぬならいいかなって思ったので、殺そうとしたら逃げましたね。それから長い時間が必要でした。橘をレジスタンスの中で見つけたとき、この自治体を破壊しようって思いました。

「だから私は橘じゃない」

私は審問官に最初からずっと叫んでいたのに爪ははがされた。そのうち自分が橘である気がしてきて、黛あおいを追っていたんじゃなくて行方を知ってそこから逃げるようにしていたんだと気が付いた。

「母親がお前に日記を送ったんだ。橘なんだろ?」

「そうです。私は橘です」

しばらく経ってからそう審問官に伝えると安堵の表情を浮かべたので自分が正しいことを悟った。

間違っているのは自治体だと考えた私は首都のルールをみんなに教えてあげた。「いつまで」って聞こえたらそれが合図。怪鳥がみんなを屠りにくるから逃げないといけないね、って橘に最初に教えたら

「いつまでに逃げればいい?」

と言った。これで、橘は昔の橘じゃない。首都の秘密警察の論理にすっかり染まって自治体を見守る素敵で善いことをする人だってわかってしまって、じゃあ親友じゃないかもしれないって思った。他のレジスタンスの人は怪鳥がメタファーかなんかだと思っているから、怪鳥が首都の人間をむさぼる動画を見せてあげた。フェイクって言われて悲しいけど、仮にフェイクだとしても感覚器官が、存在するものって認識するなら善いものだよって言ったら次の日からレジスタンスの集会所は変わっていた。自治体は狭いから次の場所はすぐにわかった。

「レジスタンスの集会場所は?」

と審問官が尋ねるが、一度会ったきりで本当に知らなかった。

「首都の秘密警察なんでしょ、そっちの方が詳しいじゃないですか……」

「初めはそうだったが今は違う。すっかり先生に飲み込まれて、言いなりの監視組織だよ。見張っているのは自治体にとって悪いもの、すなわち虚無だ」

「虚無?」

「存在しないもの、老婆、怪鳥、黛、お前」

「私は悪じゃない……」

と言うとまたみぞおちを殴られて今度は嘔吐した。吐瀉物が審問官の腕に落ち、私の膝にしたたり落ちた。

おばあちゃんの水死体は河童にあげました。川にはずっと河童がランニングしていて叫び声をあげるから嫌だった。在ることは悪いことじゃない。でも尻子玉を抜くのは質量保存の法則に反していてすごく悪い。おばあちゃんの死因は尻子玉を抜いたせいじゃないかって問い詰めたら、

「ここに来た瞬間から幽霊だったが、尻子玉を抜いたのは間違いないと述べている者がいる。裁判を行う。証人として召喚に応じてもらえないだろうか」

と言われたのでのこのこ浅瀬を歩いていたら急に川が深くなって全身水に浸った。


 主文

被告人を相撲禁止に処する。この裁判が確定した日から生涯その刑の執行を猶予する。 被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。訴訟費用は全部被告人の負担とする。

 理由

(罪となるべき事実)

被告人は、夜の川において、女性Aの尻子玉を窃取し、逃走しようとした際、尻子玉の窃取を確認して追跡してきた前記Aにおいて突き飛ばし水中に引きずりこみ、前記暴行により、同人に魂魄化させる傷害を負わせたものである。

(証拠の標目)〔省略〕

(事実認定の補足説明)

第1 本件の争点

検察官は、被告人に「事後強盗致傷罪」が成立すると主張し、弁護人は,後記のとおり被告人の認識の内容を争い、「窃盗罪」あるいは「窃盗罪及び傷害罪」が成立するにとどまると主張している。

第2 前提となる事実

本件における公判前整理手続の結果、双方に争いがなく、かつ、証拠上明らかに認められる事実は以下のとおりである。

1 被告人が判示の窃盗を行い逃走しようとした。

2 被害者は体を反転する形で転倒し、溺死する傷害を負った。

3 被告人はそのまま走り去った。

第3 被告人の認識の範囲

(被告人の暴行の有無)

1 当事者の主張

上記争いのない客観的事実を踏まえ、検察官は、被告人が、上記の事実関係をいずれも認識していたと主張し、他方、弁護人は、上記被害者の行動のうち、被告人が溺死にまで至っていたことを被告人は認識していなかったと主張している。そこで、被告人が上記の事実を認識していたのか否か及びそれを踏まえて被告人に暴行の故意が認められるかどうかが問題となる。

2 当裁判所の判断

(1)被告人が上記の事実を認識していたのか否か

まず、前提として、被告人が,自分を追い掛けて来た人物が女性Aであったと認識していたかどうかという点について、被告人は、当公判廷において、はっきりとは分からず曖昧な認識であった旨供述する。 しかしながら「うわ、めっちゃ追いかけてきてんじゃん」と供述していたことから被告人は、被害者が、被告人を逮捕するために追い掛けて来たと認識していたことも明らかである。

(2)被告人の弁解の検討

これに対して、被告人は、当公判廷において突き飛ばして川に落ちたか見えていなかったと主張し、弁護人もこれを踏まえ、上記第の時点において、被告人は被害者が落ちたことに気付いていなかったと主張するが、一瞬にせよ水没音が聞こえるであろうと考えられるため信用できず、弁護人の主張は採用できない。

(3)被告人に暴行の故意が認められるかどうか

以上からすれば,被告人において、上記の事実を認識していたことが優に認められる。そして、かかる事実の認識に加え、前述のように被告人を被害者が捕まえるべく追って来ていたという事実にも照らすと、被告人において、被害者からの逮捕を免れようとして同人をふりほどくべく有形力を行使したものと考えるのが常識に照らして最も合理的であり、暴行の故意も優に認められる。

第4 暴行の程度

1 当事者の主張

検察官は、被告人が、上記事実を認識した上で被害者を溺死させた行為は、普通の河童であれば逮捕遂行の意思を制圧されるに足りる程度の暴行であると主張し、他方、弁護人は、 そもそも被告人の認識を前提にすると、被告人に暴行の故意は認められないが、仮に暴行の故意が認められたとしても、被告人の行為は、これが普通の河童であれば逮捕遂行の意思を制圧されるに足りる程度には至っていないと主張する。 そこで、上記で認定したところの被告人が認識していた事実関係を前提に、被告人が被害者を溺死させた行為は、普通の河童であれば逮捕遂行の意思を制圧されるに足りる程度のものといえるかどうかが問題となる。

2 当裁判所の判断

(1)本件においては、被害者が転倒し、追跡を断念しているのであって河童対生身の老女という圧倒的な力関係をも勘案すると、普通の河童であれば逮捕を遂行する意思を制圧されるに足りる程度の暴行であったものと十分評価することができる。

(2)これに対して、弁護人は、前記事実を被告人が認識 していなかったことを前提として、被告人の行為が強盗罪の「暴行」とはいえない旨主張するが、前述のように、本件においては、被告人において、前記の事実を認識していたと認められるのであるから,弁護人の主張はその前提を欠き、採用の限りでない。

第5 結論

以上のとおり、被告人に事後強盗致傷罪が成立する。

(法令の適用)

(中略)を適用してこの裁判が確定した日から生涯その刑の執行を猶予し被告人をその猶予の期間中保護観察に付し、訴訟費用については全部これを被告人に負担させることとする。

(量刑の理由)

1 本件は、尻子玉を窃取した被告人が逃走しようとした際、被害者に捕まりそうになったことから被告人を制止しようとした被害者からの逮捕を免れるべく、突き飛ばして被害者を転倒させ同人に溺死させる傷害を負わせたという事後強盗致傷の事案である。

2 まず被告人は、被告人は逮捕を免れたいという身勝手な動機に基づき被害者を振り切って逃走している。河童が人を突き飛ばす行為は、一歩間違えば人の生命・身体に対する重大な結果を生じさせかねない危険性の高い行為である。 現に、何ら落ち度のない被害者は被告人に振り切られて腰から転倒し溺死し、魂魄化する傷害を負わされている。被害者の感じた憤りや精神的・肉体的苦痛についても軽微ということはできない。

3 以上によれば、被告人の刑事責任には重いものがある。そこで、実刑に処するのが当然との検察官の意見は十分傾聴すべきとも思われた。 他方で、被告人は、逮捕当初は窃盗を否認していたが、その後これを自白するに至り、保釈が許可されるまで身柄を拘束されるなどして本件行為の重大性について理解している。そのような中で、被告人は外形的・客観的な事実関係自体は認め、被害者が実際に溺れているかどうか外形的・客観的な事実の認識の有無のみを争った経緯が認められる。そして、証拠上は被告人なりに本件犯行当時に認識しているところを率直に述べているにすぎず、ことさら嘘を述べて真摯な反省態度が窺われないとまでは認め難いとの結論に至った。この点に関連して、 被告人が被害者の存在を認識しながらあえて置き去りにした行為についても、前述のとおり危険性の高い行為ではあるものの逃げ出そうとする行為の結果として引き起こされたものであると認められた。これら一切の事情を総合考慮すると、被告人の本件犯行の犯情は悪質であるが、本件犯行後の反省の態度から、社会内で自力更生する最後の機会を付与することを相当と判断したものである。

よって主文のとおり判決する。


 判決文がノートに挟まっていた。その紙は耐水性の紙に赤いインクで書かれていて、どこか、ネイティブではないような肉筆だった。

「……これはなんですか」

「我々の生み出した虚無はすでに我々の手を離れて、社会が勝手に怪異を生み出している」

「というか、これ黛が老婆を突き飛ばして溺れさせたってことじゃないですか。なんで日記に書いているのかわからないけど、常識的に考えれば」

「最初は我々も老婆の死はそうだと思った、しかしどこを探しても証拠が見つからない」

「実際に河童が殺人を行ったと?馬鹿げている」

 裁判は真面目に執り行われて退屈だった。加害者河童はお詫びの品として軟膏を私に渡してきたけど、臭いから捨てた。おばあちゃんはもったいないって言って拾いに行った。おばあちゃんの恐怖心は薄れてしまって、毎日自治体を散歩している。でもおばあちゃんの死を招いたとして強盗の友達とか家族とかピックアップされて、自治体のみんなからひどい目にあわされていてかわいそうだと思って、おばあちゃんもかわいそうだって言うからやめさせないとな、って正義感は先生の言う善いこととは違う気がして何もしなかった。壁に糞便が塗られている家が強盗の家族の家で、

「家の子は強盗なんてやっていません」

って言いていたから、みんなキモイって思った。

黛の部屋の汚臭は塗りたくられた糞便が原因で、典型的な精神疾患の症状だった。黛のクリニックに通院し始めた時期は特定できなかったが、やめた時期はわかる。日記に怪異が出現した時期、失踪した時期、通院を止めた時期、おそらくすべて一致する。

「黛が殺人者だって疑っているんですか」

「どちらでもいい」

 はっきりしないといけないからおばあちゃんになんで死んだのって聞いた。そしたら、

「幽霊だから何も覚えてないの。幽霊だから恨み以外何も覚えてないの。憎いことがたくさんあって、それは善いことへの憎しみなの。私すごく悪いことしたから地獄に落ちると思うんだけど、地獄が在ると考えることも憎いの。重いものは存在しているから憎いの。あなたも憎いから憎みます」

「あなた、本当は橘ですか」

「だいたいそうです」

やっぱりそうだった。橘は私の側にいてくれるって信じていた。橘はずっと星の動きも止めたいし重力に逆らいたいし、エントロピーも減少させたいって言ってた。でも偶像と人間以外傷つけられないのは、幽霊に限らず橘もだった。もっと善いことへの憎しみが増して、ないがあるくらいの悪いことじゃ足りなくなってきた。自然を虚無に返さないといけないのに歯がゆくておばあちゃんは憎んでいた。私への憎しみが向いているのは私がここにいて最高に善いからだから私はここにいるのだった。私が悪いことしたとすればひき逃げだけどひき逃げしたことはない。私がひき逃げの現場に車を走らせると、三人の男が並んでいた。

「どうかしたんですか」

って聞いたら

「ここで友人が死んだんです」

って言われた。

「自爆するつもりだったんです」

「私たちは」

「教えられた通りにね」

「私は教えるなっていったんですよ」

「先生がタバコを吸いますか?って聞くために火が必要かもしれないって言ったんです」

「でもライターを落としてしまったんです」

「落とし物をしたら報告するように教えられていました」

「間に合わないかもって」

「でもライターが爆弾の近くに落ちていたら自爆じゃなくて単に爆発するかもしれない」

「私はタバコ吸わないんですけどね」

「だから待つことにした」

「そうしたら駅が焼けた」

「タバコの失火じゃないから私たちの仕業じゃないけれど、それをやりうるのは私たちだったから罪があると思った」

「火は怖い」

「だから花を届けに行きました。クリニックに」

「クリニック大好き。禁煙だから」

「クリニックの医師は花はありがたいがいらないと言ってだけどそれでも花が火のないところにあるのは善いことだと教えたらそれを教えたのは先生かって言うから私たちに教えられたと答えたら診療を進められて、逃げようと思ったけど応対していたのは医師じゃなくて無資格の人なんだと思ったら許せなくて焼きました」

「失くしたと思ったけどポケットにライターが入っていたんです」

「だから花を置くのは焼けたクリニックにふさわしくないと思って、ここに置きにきました」

「ここで誰も死んでないですよね?」

私は口を出してしまった。

「これから死にます」

「あなたが殺します」

「あなたが私をひきました」

「あはははははははははははは」

おばあちゃんが笑った。

「私は罪なんか犯していません」

私は言いました。

「あなたが罪です」

 私は罪もなく三枚の爪をはがされた。しかし、罪ゆえに私は裁判所にいる。

「じゃあ、私もだいたい橘かもね」

と私は言いました。橘はレジスタンスの一員として強盗を行っていたのを知っている。あったものがなくなると悪いから。

「いや、ありえない。レジスタンスは先生の犬だろ?」

審問官が日記を取り上げ、もう一度目を通す。

 レジスタンスは自分たちの記録を盗んでいた。戸籍、日記、お薬手帳、監視カメラや盗聴器のデータ。クーデターから、それらを管理する統治機能は完全に失われていたから、強盗するのは簡単だった。その記録は首都にあることもあったし自治体にあることもあった。橘が私のデータを見て言った。

「消え失せろ」

監視カメラのデータはクリニックに通い始める以後のものしか見つからなかった。戸籍とか全部わからない。母親に電話するがつながらない。橘に会いに行ったけどまた集会所は変わった。でも絶対追いかけてみせる。

「母親って誰なんですか。ポストに入っていたノートは郵便されたものじゃなかった。なら自治体にいるってことですよね。でも日記には自治体の外にいるらしい。……レジスタンスが手引きしたんですか」

「ありえない、ありえないはずだ……」

 殺された強盗は女の人だった。その人と会ったことはなかったけどずっと自治体の施設に侵入しているベテランだったらしい。

「だから復讐したのよ。そしたら復讐されたのよ……」

とおばあちゃんは言った。

 母親から手紙が来たのは数日前だった。

「誰にも話すな」

手紙にはそれだけ書いてあって、筆跡がわからないように定規で文字が作られていた。便せんは百円ショップで売っているもので、緑地に熊のキャラクターがあしらわれていた。

 橘に見せていた手紙をクリアファイルに入れた。

「橘の記録を見せて」

とレジスタンスの管理係に言ったのに

「他人に記録を教えるのは駄目なの」

そう言ってケタケタ笑った。

「これ、首都の秘密指令ですよ……裁判所への召喚命令……」

審問官が困惑の表情を浮かべている。

「裁判所への召喚が秘密?」

と私は問いかける。

「怪異が首都の中枢機能……議会、裁判所を集中攻撃している。関係者だと知られるのは危険すぎる。だから首都はすべての機能を潜伏し、各自治体に寄生し起死回生を図っている」

「喋りすぎるな」

「こいつがここにいなければならないことに首都の意志はある。だから知る権利がある」

審問官が胸倉を掴みあってる。

 だから誰にも話すことをやめた。クリニックは私の気持ちを話すことを強要する。それが、統治のやり口だってわかっている。私が考えることは全部日記に書くことにしたけど書いてないこともあってクリニックはそれを話させる。考えてないことはないものだから悪いことで悪い考えが浮かぶと同時に善い考えが在る。先生助けて下さい。

「私は理性的本性を有する個的実体である以上に自在する関係です。あなたと私の交わりの中で構築されます。在ると感じるのは感覚が最初ですよね。それはとても気持ちいことです。だけど気持ちいいことだけで全部在るって考えたら私たちの絆みたいな目に見えないものはないから悪ってことですよね。それはとても怖い。私には複合、構成部分もないです。私のうちになんらかの区別が認められるとしたらそれは私から発出した私の関係です。それは知的認識において起きる知的言葉の流出です。意志の働きです。だからその妨げを行うものは言うでしょう『誰にも話すな』と。それを言うのは天狗です。天狗もかつて善くあったものなのに虚無に誘う邪道に落ちました。天狗の声が聞こえたら耳をふさいで私の声を思い出して下さい。私とはあなたとの関係です。親子であり同志であり鳥飼いたい気持ちでもあります。天狗は手紙を回します。これを見たら他の人に手紙を渡さないと不幸になる手紙です。ウィルスと同じ仕組みです。でもあなたたちは知っています。私との関係がその手紙にも在るならそれはとっても気持ちよく善いものだって。善いものが在り続けます。天狗はだいたいお化けですから悪い方です。お化けはいないからいない方がいいです」

「私天狗じゃありません」

とおばあちゃんが言いました。じゃあ母親が天狗かもしれないねって言おうとしたけど言う相手がいないので日記に書きます。今書きました。天狗はいたるところにいてメッセージを放っています。誰にも話すな。何も見るな。

「だから、なんで首都のメッセージを知っているんだ」

首都には天狗があふれています。怖いからすごくいやだけどそれは気持いいことだって知らせてくれたから善いことらしいけどやっぱり天狗は悪いので悪いです。

「事実、天狗によって首都の通信機能は麻痺した。手紙、インターネット、直接言葉を交わしても無駄だった。天狗の声がどこからも聞こえて、それが自分の声と区別がつかない」

「天狗が首都のメッセージ?」

私が聞くと、二人は小声で何かを囁きあって、

「首都のメッセージはすべて天狗に汚染されている。例外はここだけだ」

と言った。

「誰の意志で私はここにいるんですか」

「我々の独断だがそれは首都の意志だ」

「自治体の意志は私の意志です」

 何度目かわからない不愉快な説法を聞いたあと、またジャンクフードを流し込み、例の事故現場に行っていた。その場所はレジスタンスが知っていた。

「かわいそうに」

三人の男が花を添えていた。

「ひき逃げですか」

そう言うと男の一人がこちらの口をふさいできた。

「首都の人間か?」

男の一人がそう脅してきたのでゆっくりと首を横に振った。

「ひき逃げじゃない。天狗の仕業だよ」

「天狗が私たちを狙っている」

「天狗は私たちの声に擬態する」

「誰かに話したか?」

「誰かが話したからここに来たんだ」

「誰だ」

「誰の意志でここに来た」

「天狗に惑わされてはいけない」

「先生の声を思い出して」

「先生は言いました」

「ライターあるか?」

「黛を追ってきたのか?」

「あいつは天狗だよ」

「自爆するか?」

「人殺しだ」

「逃げるか?」

「お前も私たちと一緒に逃げるか?」

「どこに……」

と私はふさがれた口越しに呟いた。

「善きものがあるならそれは天狗じゃなく天狗がいるこの自治体はすごく善くない」

「だから駅は燃やされた」

「クリニックもな」

「クリニックは先兵だった」

「全部コントロールされていたんだ」

「先生が天狗を討伐してくれる」

「首都には天狗がいる」

「逃げ場は私たちが知っている」

 クリニックはハイウェイの先にあっていつも患者が静かに座っていた。私が患者を偽装して黛の行方を探っていたとき、医師は言った。

「見つからないものを探すのはやめなさい」

「行方を教えてくれるだけでいいんです」

「プライベートは知らないよ。どちらにしても執着は身を亡ぼす」

 医師の机に目をやると一枚の手紙が置いてあった。

「誰にも話すな」

手紙にそう書いてあるのが見えた。

「……指示されていたんですね」

「誰もがね」

「逃げ場なんてないんですね」

「だからこのクリニックがある。逃げ場がないことを自覚してしまえばゆっくりできない。それはとてもつらいことだと知っている」

「黛は……いえ、私を助けて下さい……」

「薬を出そう」

「殺す気ですね」

「違う」

「殺したんですか」

「君に必要なのは安心できる場所と休養だよ。それに少しの薬物」

「逃げ場などない」

と審問官は言った。

「この裁判所が最後だ。首都の機能はお前を裁くためだけにある」

「私は逃げるつもりなんてありません」

叫ぶと喉の奥に残っていた吐瀉物が引っかかった。

「なあ、もう私たちがやってきたことは遅かったんじゃないか……。首都の機能は全部自治体に取り込まれているよ……」

「そんなことはない」

審問官が激昂して殴りつけた。

「首都はもうどこにもないよ。私たちが最後だ」

その瞬間、扉が開いて、三人目の審問官が倒れこんできた。それは片腕がもげて、全身から血を流している。審問官の一人が駆け寄ろうとして、すぐに動きを止めた。扉の奥から、ひたひたと足音がする。審問官はまたタブレットを操作すると私の足の拘束帯が外れて完全に自由になった。

 人の顔が扉の上すれすれからのぞかせた。その次に見えたのは蛇の胴だった。

「いつまで」

 私はそれが合図だと知っている。審問官は所持していた拳銃を怪鳥に突き付けたが、その一瞬、怪鳥は跳ねるように飛び上がり、審問官の一人を押さえつけ、首筋に嚙みついた。悲鳴すらあげられることはなかった。私も叫ぶことなく扉の向こうを目指して走り出した。

 廊下は電灯すらついておらず、暗くて何も見えないが、壁を伝って走り出した。向こうで一発だけ銃声が聞こえた。

 何度か壁にぶつかってうねるように廊下を動き回っていると、窓のついた扉を奥に発見した。私はそこへ駆けだし、蹴破ってでも逃げようとしたが、鍵はかかっていなかった。

 扉の向こうはアパートの一室だった。黛の部屋と異なり汚臭もせず、清潔なキッチンと整頓された本棚が目に入り、そして複数の鳥かご。ウグイスもハクブンチョウも他の鳥もいる。ソファに座っている者がいる。それは先生だった。

「……先生?なんでこんなところに?」

 それはゆっくりとこちらの方を向いて手招きをした。ソファに座れということだろうか。私に選択肢はなく、少し距離を取ってソファに座ると、先生は尻を動かし、密着し、私の腕を取った。花の腐った香水の臭いがした。

「かわいそうに。痛かったでしょう」

先生が私の爪を見ている。

「……先生、何で首都の裁判所にいるんですか。そんなことより怪鳥が……本当にいたんですよ……早く逃げないと」

先生は口角を上げると、私の腕を離して肩に手を回し、頬を撫でた。再び吐き気をもよおした。

「ここは首都じゃないですよ。というか、ここが首都なんです。みんなには自治体って教えてますけど、ここが、すべての中心、行政と立法と裁判を司る場です。真実のある場所です」

「自分が拉致されたのは……」

「審問官たちもいい働きをしてくれました。首都の任務に燃える真面目な人たちなんです。許してあげてください」

「許す?何の罪と罰を?」

「こちらにおいで」

先生が私の腕を組んで移動させる。部屋の中にまた扉があり、先生がそれを押し開けると、その先はホールだった。定例会が行われる見慣れた光景。だがそこには誰もいなかった。

「あなたはよく私を信じないでくれました。だから怪異は本当に存在できたんです。ありがとう」

先生が私の頭を撫でた。

「私が首都と自治体を生み出し、その均衡が崩れるガス抜きとして怪異を用意しました。少し経てば、社会の方からそれを生み出してくれるって期待していました。でも例外は黛さん程度だった。存在は善いことです。なのに黛は存在しないことを選んでしまった。悪いですね。だからこう考えたらどうでしょう。あなたが私を信じず、黛の存在を信じていれば、いっぱい存在できてすごく善いと」

 後ろからまた足音が聞こえる。

「あなたは、この自治体……首都?は私に何をさせたがっているんですか」

「私は執行機関です。考えることが仕事ではありません。もしあなたがここにいるならそれは自治体の意志です」

「あの死刑になった人たちのように?」

「善はなされるためにあります」

「私は怖いのは嫌だ……」

「ここに天狗がやってきてからずいぶん経ちました。境界を河童が監視してからずいぶん経ちました。もうすぐ怪鳥が来ます」

「首都が用意したんじゃ……」

「怖かったんですね。私と関係を持てないすべてはお化けのせいにしました。私はお化けを退治しました。でももうやめます」

「助けて下さい。それでいいから助けて下さい」

私は爪のはがされた指を見せつけた。

「爪がなくなるのは善くないことですね。でも審問官にとっては爪を得られて善いことだったんですよ。私との関係で考えて下さい。質量保存の法則を知って下さい。お化けが悪いのはそれらに反しているからです。お化けはすごく過剰ですごく過少なんです。善くないものは怖いからいやです」

「誰にも言いませんから助けて下さい」

「それは天狗の言い分です。かわいそう」

振り向いた先に老婆がいる気がしたが、私は振り返らなかった。先生の目を見ることしかできなかったが、その目が放っているメッセージはわかる。

 誰にも話すな。

 天狗はすでにすべてを取り込んでいた。天狗は存在しないから。

 天狗は存在しないというのが私の結論です。それを伝えるためにこの日記を書いていたのかもしれません。すべてが善くあるのに天狗は存在しています。だから私たちの言葉は届かないし、手紙は配られないし、橘にも会えないし、強盗は死にました。もしその天狗が気持ちのいいことだったらとても悲しい。だから善くないものが存在しているならそれは天狗ではなく、先生との関係ってことがわかりました。先生はいつでも近くにいてものすごくうるさくて全部話してくれるから、それっていないのと同じだと知った。悲しいが在るのは善くあるもので悲しいを与えてくれる先生を殺します。そうしたら、すべての先生の言葉が私の内側で言葉になって全部在る方がめっちゃ善い。それで思い出してみたら、クリニックに通い始める前、クーデターが起きる前のことを全部思い出せないことに日記をつけるようになって気が付くようになりました。先生の言葉の中にしか私はいないんですね。じゃあ、先生もだいたい死んでいて幽霊だしお化けで善くないから殺します。殺したら、きっと助けを求める人が増えると思います。だけど、気が付いたけど、天狗も河童も人を助けてくれていたのに知りました。首都が用意した救いだったんですね。怖いから。私も首都から来たんだなあってわかってきました。母親によろしくって言ってこの日記を託します。そして、殺してきます。でも、先生との関係で内側の先生の言葉を殺してみたらもう先生が在っても無くても一緒だなって思いました。じゃあ、もういいです。助けてくれなくていいです。かわりにこの日記を読んだ人を助けて、私が助けます。

 事故現場で会った三人の男は私を墓に案内した。

「死刑になったのは私の母親だった」

一人の男は目を伏せて語った。

「母親は学校で教師をしていた。どう仕事をしていたのか知らないけど、昔は生徒からよく電話が来たからいい教師だったんだと思う。でも死刑になる前、誰からも連絡はなかったよ。母親は天狗の仕業って言い聞かせていた」

「川で溺れ死んだ老婆を私は知っていた」

もう一人が私の目を見た。

「いつも川沿いのバス停のベンチに座っていた。しばらくして話すようになった。夫がクーデターで死んだこと。少女漫画を読むのが好きだけど白内障が悪化したこと。鳥を飼っていたこと。白い文鳥だったらしい。お気に入りのバッグを盗まれたこと。ずっと憎いって言っていたよ。息子が買ってくれたバッグが盗まれて、それからあの老婆はベンチから出歩くようになった。でも、周りの人は、老婆の家族は妄想だって知っていた。有名な浮浪者だったそうだ。でも現実を突きつける意味なんてないだろ?私はバッグを探すって約束したよ。それからすぐに死んだ」

「私は黛あおいに殺された」

最後の男の目は見えない。

「私が老婆からバッグを奪った。自分は生き延びないといけないと思っていた。でもバッグには何も入っていなかった。バッグを捨てて自殺しようと思ったとき、黛あおいと会った。黛あおいは言ったよ。『あなたが私の服を行進させた犯人なのはわかっているんですけど、それがわかったのは先生のおかげということが、あなたにはまだわからなそうなのでお伝えしに来たんですけどレジスタンスの活動と全部先生の気持ちがわけてもらってるってことが一致しなくて、ていうかレジスタンスにいるのは橘がいたからなんんですけど、あ、レジスタンスに参加したから橘を見たんだった。私、ごっちゃになりたくないんです。善いことと悪いこととか生きていることと死んでいろこととかシャンプーしたかリンスしたかとか犬食べたのか猫食べたのか、私の飼ってるウグイスの区別つかないんです。で、先生は全部区別するのは関係だっていっていてそれは言葉でウィルスだって。ウィルスが流行ったとき、怪鳥が来ます。いつまでと聞こえたら合図です。それでたくさんの人が死にます。それはとても悲しいことだけど、質量保存の法則に則っているからいいか、って思ったけど怪鳥が食べたエネルギーはどこにもいきません。怪鳥は虚無で悪だから。それで死ぬのはとても悪いから先に殺します。ひき逃げしたとき、殺したかもって思ったけど、戻ってきたらあなたの息がありました。体温を感じました。とてもうれしくてだきしめようと思ったらいつまでって聞こえました。いつまで生きているのかって意味なんですかね。だからかわいそうだから殺します。先生の意志を伝えます。それではさようなら。黛あおいでした』」

「なんで死なないといけなかったかあなたにはわかりますよね」

「私が?」

墓場には私たち以外もいたが誰もが私を見ていた。

「助けてくれとは言えない。誰も言えなかった。それが天狗の仕業か?先生の意志なのか?それとも首都の意志なのか?そんなこと知らない。だけどここの死者たちは何も叫べなかったんだ」

「私たちはそれを許さない」

「お前は罰を受けるよ」

「どうして私なんだ?」

「選ばれたからだ」

「自治体の意志があなたを選びました」

先生の吐息がかかる。

「全ての善いものの目的って幸福ですよね。目的ってようするに終わりです。自由に選んで計画して実現を目指す終わりじゃなくて根源的な終わりです。最高に善いのは意志が誤ったことを選択することが不可能であるほど絶対の自由です。幸福があなたを選びました。爪をはがされるのも幸福でしたよね。オーガズムなんて肉体に依拠しないくらい気持ちよかったですよね。それは存在だからです。善いことだからです。生まれてきてくれてありがとう。足音が聞こえますよね。怪鳥です」

「全部仕組まれていたんだよ」

と墓場で男は漏らした。

「どこにも私たちの意志はなかった。私たちが出会ったのも、黛あおいを知っているのも全部最初から意志の結果なんだ」

「私の意志はありますよ。先生なんかどうでもいい」

私は手で顔を覆った。そのときはまだ爪があった。

「先生は意志の傀儡ですよ。もっと大きな意志……自治体でも首都でもなく、もっと大きな……それがずっと私たちをコントロールしている」

「……先生、黛あおいはどこにいるんですか」

「いつまでもあなたの側に存在しません」

 怪鳥が扉をくぐりぬけた。私は怪鳥と目が合った。その顔を私は知っていた。

「ありがとう。さようなら」

「いつまで」

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