マイヨジョーヌカラーの凱旋門
翌日からの4日間、チーム・アンドゥは一丸となってマイヨジョーヌを守り抜いた。
最終日はパリシャンゼリゼのゴールだ。
このステージを狙う者達、特にスプリンター達にとっては重要なステージとなるが、総合争いの決着はもう付いている。ここで争う事はない。リュカは集団でゴールしさえすれば良いし、集団もリュカを守ってくれる。
シャンゼリゼ通りに入るまでの前半はパレードだ。
3週間の厳しいレースを戦い抜き、ここまで辿り着いた選手達がお互いの健闘を讃え祝福し合う。
リュカはこのステージを何度も走った事があるし、凪も経験している。
しかし、今年は格別だ。
リュカは全身を黄色のウエアで固め、バイクもヘルメットもソックスも黄色だ。
チーム員も全員ヘルメットとソックスは黄色。昨日まで着ていた馴染みのウエア、パッチワークのように重なり合っている深みのある赤の部分が濃い黄色に、緑の部分が薄い黄色に変更されている。
チーム全員が特別なご褒美を頂いた気分だ。
差し出されたシャンパングラスで乾杯し、口をつけるふりをする。
チーム全員が呼ばれ、集団から離れて横一列になり、肩を組み合ってカメラバイクに向かってポーズを撮る。
凪は自分が転んで皆を転ばせてしまったら取り返しがつかないと少しドキドキした。
今日でお終いだ。
ラルプデュエズを越えてからの4日間は身体が動かず本当に辛かったけれど、その全てが報われた気分だ。僕たちのエースは真のエース。それを皆に証明できて誇り高い気持ちに満たされていた。
パレードが終わりレースが始まっても、シャンゼリゼ通りは集団の流れの中で安全に気を配りながらも、集中して楽しめた。
歓喜のゴールを迎えた。
安堵の気持ちが押し寄せる。
ゴールの先でチーム・アンドゥの輪が出来る。ハグを交わして讃えあう。最高に幸せな瞬間だ。
★
夕暮れが差し迫り、ライトの光を浴びながら表彰台の一番上で、リュカのスピーチが始まった。
「こういうの苦手だって事、もうみんな分かってると思う」
たったそれだけで、大きな拍手と笑いが会場を包んだ。
「面白くないスピーチしか出来ないけど、今日は特別な日だから、ちょっとだけみんなの大切な時間を頂くとしよう」
会場は大興奮だ。
チーム・アンドゥの皆もまとまってそのスピーチを聞いている。
「リュカ〜! がんばれ〜」とヤジを飛ばす。
「小さい頃から夢に見続けたマイヨジョーヌ。21歳でプロのレースに出始めて、最初からそこそこ走れて色んなタイトルを獲って皆に期待された。だけど一番欲しかったマイヨジョーヌだけは何回挑戦しても手に入らなかった。皆の期待に応えられなかった。
13年目にしてようやく、ようやく皆にこの姿を見せる事ができたんだ」
一段と大きな拍手が起こり、涙を流している人達も大勢いる。フランス人の総合優勝はいったい何年振りだろう。フランスの人々はずっと長い間この日を待ち望んでいた。
「自分の力を示したいとずっと思ってやってきた。だけど今回はチームの為に俺が勝つんだって気持ちが一番強かった。それはチーム員ひとりひとりが俺を勝たせる為のレースをしてくれたからで、俺たちの勝利なんだって心から思っている。
ここに立っているのは俺一人だけど、よ〜く見てほしい。見えるだろ? 皆にも。チームの皆の姿が。
ずっと前からそういう事は分かってるつもりだった。だけど本当の意味でそれが分かって、ようやく、ようやくここに立つに相応しい人間になれたような気がする。
もっと前じゃなくて、今、ここに立てた事を幸運に思う。
一緒に頑張ったチームのみんな、心からありがとう。
応援してくれている人達、ロードレースを愛する人達、本当にありがとう!」
リュカコールが湧き起こった。
その瞬間を待っていたように凱旋門がマイヨジョーヌカラーにライトアップされた。
マイヨジョーヌを着たリュカが凱旋門に溶けていくような美し過ぎる光景を見ながら、凪は涙を流し続けていた。
僕たちのリーダーは最高にカッコいい!
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