ニコへの憤り
ニコはインタビューではいつもにこやかにチーム員への感謝の気持ちを述べていた。
全ての選手が自分1人では戦えない事をよくよく承知しているし、チームで戦っている以上それは礼儀のようなものでもある。
しかし、心からの感謝と、言葉としてだけ述べているものとは大抵違いが分かるものだ。
このレースに出場していないリュカは自宅でテレビ中継を観ていたが、3週目の山場となっていた山岳ステージのゴール後に見せたニコの態度に怒りを露わにしていた。
山頂ゴールのそのステージ、最後の上りで凪がニコを献身的にアシストし、先頭集団を6名まで絞ってラスト1キロで仕事を終え、後ろに下がっていった時の事。
ちょうどそのタイミングでアタックに出た選手と凪が運悪く交錯し、両者共に地面に叩きつけられてしまった。
残りの4名はそれに気づいたが、この勝負所で勝負を中断するわけにはいかず、4人での勝負が始まった。
立ち上がった凪が一瞬、画面に映し出されたが、それを見てリュカは思わず目を覆った。
凪の顔が真っ赤な血で染まっていた。
すぐに先頭争いに画面が切り替わってしまったので、リュカは心配でたまらなくなった。
ニコは2位に入り辛くもマリアローザを守る事に成功。
残りのステージを考えるとほぼほぼ総合優勝を確定させるステージとなった。
何分か遅れて、顔から血を流しながらゴールしてきた凪が映し出された。
直ちに係の人が凪を支え、その場に座らせる。
凪は意識もはっきりしていて、大丈夫だという仕草を見せていた。
こめかみ当たりからの流血のようだ。
顔は少し切るだけで出血量が多いから驚いたけれど、結果的には少し縫うだけでの怪我で済み、不幸中の幸いだった。
先にゴールして他の選手達と話ていたニコは凪のゴールを目撃していたはずなのに、気にかける様子もなく話し続けていた。
それはテレビのほんの片隅に映っていて、誰も気づかないような風景だったが、リュカの目はそこにフォーカスされていた。
そしてその後のニコへのインタビューが、更にリュカの大きな反感を買う事となる。
「ナギは今日も本当にいい仕事をしてくれた。お陰でマリアローザはもう俺の手に入ったようなものだ。怪我をして例え凪が明日から走れないにしても、彼もアシストとしていい仕事が出来て、マリアローザ獲得に貢献できて満足だろう。明日からの心配はしなくていいとナギに伝えたい」
そんな感じのインタビューだった。
お前は何様のつもりだ?
確かにマリアローザはニコの物でそれは賞賛すべきものではあるが、こういうステージは凪の働きに頼りっぱなしではないか。
ニコは美味しい所だけを頂いているという印象が強い。
アシストとエースはそういう関係でも良いのかもしれないけれど、リュカから見て、ニコがエースらしい強い選手だとはまだまだ思えない。
凪の力に頼っている所が大きいくせに、あいつの発言はいつも上から目線で、他人へのリスペクトの気持ちが感じられない。
残りの4日間、大きな山場は無いがまだまだ気の抜けないステージが続いた。
凪はこめかみに大きな絆創膏を張りながらも、これまでと変わりなくニコをアシストし続けた。
案の定、ニコはチーム員のアシストなくして、このジャージを守れなかっただろう。
パンクのトラブルに見舞われた時も、ライバルチームの波状攻撃に遭った時も、チーム員が一丸となってニコを守り抜いたのだ。
それでもニコは、それが皆の仕事で、ニコの為に働くのが当然だと考えているのだろうか。
チーム・アンドゥは今年の3つの目標のうちの最初の目標を達成した。
チーム一丸となって勝ち取った勝利は誇らしい物のはずだが、リュカは安堵の気持ち以上に後味の悪さを感じていた。
リュカは誓った。
ニコにはツールで俺たちの走りを見せて、教えてやろう。
エースとはどういうものなのかを。
エースと呼ばれる者としての誇りを懸けて‥‥‥。
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