議論は平行線一

 絢爛な衣装が多数架けられているドレッシングルームに、二人。

 リョウコは裸のまま、椅子に座っており、ケージは帽子を被り直し、リョウコに背を向けて立っていた。

「ハルケキ星人のオトキ・コユキをご存知ですか、リョウコさん」

 翻訳機をチューニングし直したのか、訛りのない淡々とした口調で、ケージはリョウコに尋ねた。

「モデルのオトキ・コユキですか? ええ、知ってます」

「知っている? それだけですか?」

「何度か食事をしたことがありますが」

「何度か? 何度も、ではありませんか」

「何が違うのです?」

「親しさの度合い、ですかね。信用の度合いと言ってもいいかもしれません。彼女とは、一週間に一度ほど、食事をご一緒されるそうじゃありませんか?」

「なるほど、かなりお調べになられているようですね。モデルという職業上、食事にはかなり気を使っておりますので、一緒に食事をできる仲というのは限られてきます。そういった意味では、ええ、確かにオトキと私は親しい間柄です」

「ハルケキ星までの四光年を週に一度、行き来するほどに」

「四光年なんて、すぐじゃありませんか」

「まあ、確かに。ハルケキ星まで、ご移動はいつもどうやって?」

「タクシーで、一人で」

「なるほど、鉄道や飛行機などには乗らない、いえ、乗れないのですね。貴方ほど人気がありますと。そういえば、オトキ・コユキさん。彼女、アルファ・ハルケキアン。ハルケキ星で一番美しいモデルだったそうですね。地球でもかなり有名で、あなたと人気を二分するほどだとか」

 リョウコは、沈黙を少し、置いた後、

「ええ、彼女は美しいですからね」

 とだけ答えた。

 重くなった空気を振動させたのは、ケージだった。

「悪いニュースと、良いニュースがあるんです。美しさが失われてしまうのは、非常に悲しい。オトキ・コユキさんは、先ほど亡くなられてしまったようです」

「そんな、そんな、それは本当ですか?」

「ええ、宇宙を照らす一つの輝きが失われてしまったのです、我々に取ってこれほど、悪いニュースはない」

「本当です。これほど、悪い知らせを聞いたのは初めてです。でも、良いニュースというのは? オトキの蘇生に成功したとか」

「いえ、悪いニュースというのは、我々にとって、なんです。良いニュースは、貴方に取って、なんです」

「私にとって?」

「オトキ・コユキさんは、先ほど亡くなられてしまったようです。蘇生も不可能」

「それのどこが、良いニュースなんですか?」

「リョウコさん、貴方がオトキ・コユキを殺したからです」

「私が殺した? いつ?」

「いつ? リョウコさん、貴方はなぜ、いつ、なんて聞いたんです? 貴方は余程、ご自身のアリバイトリックに自信がおありのようだ」

「アリバイ? なんのことです? 知りません。私は殺していません」

「ええ、貴方は殺していません。オトキ・コユキが殺された時間、貴方は、地球で、ファッションショーの最中だった。四光年離れたハルケキ星まで、貴方が向かい殺すことは、不可能です」

「ちょっと待ってください。私が殺していないのに、私が殺したというんですか。矛盾しているじゃないですか」

「いえ、全く矛盾などしていません。貴方は、オトキ・コユキを殺していません。しかしながら、オトキ・コユキを殺したのは、貴方、なんですよ」



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