点と線と平面
あめはしつつじ
出発点
左手を腰にあてると、自然と左肩が上がる。
右足の踵に重心をかけ、左足は軽く、つま先立ち。
つま先から、頭の天辺まで、美の螺旋を撚り合わせる。
リョウコ・サヤマがランウェイで放った輝きは、全宇宙を照らした。
アルファ・テラリアン。
リョウコ・サヤマは、
地球人の中で最も美しいモデルである。
ファッションショーを終えた彼女は、ドレッシングルームで一人、鏡の前に立っていた。
着ていた服は全て脱ぎ捨て、下着も脱ぐ。
美しさに、余計なものはいらない、と彼女は思っていた。
体を捻り、体の曲がりで曲線を、丸みで曲面を描く。
くゆらせた肢体を元に戻し、今度は、ただ、正しく、真っ直ぐと立つ。
モデルの基本となるSI体位を鏡の前で確かめる。
「世界で一番美しいのは、私」
コンコンコンとドアをノックする音が聞こえる。
この部屋には誰も入るなと言っておいたはずなのに、と彼女は少し苛立ちを思いながらも、ドアを開ける。
帽子? それも古くぼろぼろの。と彼女は見下ろしながら思った。
「いんやー、お目にかかれて嬉しい。モデルのリョウコ・サヤマさんてごぜえますね。いやー、さすがモデルさんてすな、幅が大きくてお美しい。おんや、失礼。自己紹介がまたてしたな、私、ケージてす」
男は帽子を取って挨拶をした、リョウコに、背中を向けて、後ろ姿のままで。
「あなた、地球人じゃないわね」
リョウコは無表情で努めて言った。
「おんや、スーツの着こなしが悪かったてすかいね? 流石は地球一のファッションモデルさんた。なにぶん、辺鄙な田舎住みなもんて、ろくに重力もなくっててすね、失礼のねようにと心がけていたつもりてはあるんてすがね」
「別に気にしないわ、それより刑事さんが何の用かしら?」
「ケイジてはないです、ケージてす。翻訳機の訛りで聞き取りにくかったかもしんねてすけと」
リョウコは自身の勘違いに苦笑と安堵を覚えた。
「私、ケージ・トリカイです。探偵をやっております」
安堵から不意をつかれたリョウコは、ケージと自分自身に小さな苛立ちを感じた。私のアリバイは完璧だ。リョウコは確信していた。
「そう、探偵さん。お話、長くなりそうですか?」
「長く、えー長く? 難しい質問ですな」
「長くなりそうですね、では、とりあえず中へ」
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