第8話 第一王子視点2 ゴリラ女が可愛い女の子だと判り、婚約者にしようと決意しました

女の子の群れの中に戻ると、代わる代わる女の子が俺のところに来たのだが、俺には皆同じに見えた。


眼の前のこの口うるさい女はラクロワ公爵家のグレースだし、母からは昔の因縁があるので、この子だけは絶対に駄目だと言われていた。まあ、俺も母の意向に逆らってまでこの女を婚約者にしたいとは思わなかったが、その横にいるのがポレット・ジード子爵令嬢だし、その後ろはジャクリーヌ・シャモニ伯爵令嬢だ。


姿絵と名前は暗記していたので、大体皆一致するんだけれど、あのケーキを美味しそうに食べている女の子だけが誰か判らない。あと、今日参加している令嬢で確認できていないのはゴリラ女と……あれ、ゴリラ女しかいない?

俺が唖然とした時だ。その子が突然やってきたのだ。

その行動強引さは確かにゴリラ女だった。


「あなた、ちょうど良かったわ」

俺はいきなりその子に手を引かれたのだ。

えっ、こいついきなりとても大胆になったんだけど、俺は手を引かれて真っ赤になったんだけど、

「ちょっと来てくれる」

と強引にリシャールの所に連れて行かれたのだ。


「あちゃーーー、本当に連れてきたのかよ」

リシャールは呆れて言ってくれた。


「何だ。リシャール?」

俺はむっとした。この子が俺を連れにきたのがリシャールが頼んだからというのがとても気に入らなかった。


「いや、フランソワーズ嬢が自分の姿絵を見たいとおっしゃられてだな」

「えっ、あれをか?」

俺は驚いた。ということは……


「あなたがフランスワーズ嬢?」

俺はまじまじとフランソワーズ嬢の顔を見た。どう見てもあのゴリラ女とは似ても似つかないんだけど。


「やっぱりあなたが姿絵を描いたのね?」

ムッとしてフランソワーズ嬢が言うが


「いや、俺は描いていないぞ」

俺は当然否定した。


ということはこれを送ってきたのはルブラン公爵か?

偶に王宮で会うが、いつも娘のことをとても自慢していたのだ。

「ぜひとも会わせてほしい」

と社交辞令でお願いしたら、

「絶対嫌です」

マジに返されて驚いたのを覚えている。


そうか、あの筋肉ゴリラの公爵からこの子の想像は出来なかった。姿絵を見て、公爵の子だから仕方がないのかと思っていたが、考えたら夫人のアンナはとても美人だった。その血を受け継いでいたら美人になるだろう。

そんな失礼なことを考えていたらいきなりリシャールが不味いことをバラしてくれた。


「よく言う。こんなゴリラ女は嫌だとか言っていたじゃないか」

「それを言うならばお前だろう! こんなゴリラ女と見合いなんて俺なら逃げるって言っていたじゃないか」

俺は必死に言い訳した。


「どうでもいいわ。見せて頂戴」

フランソワーズ嬢が怒っていうんだけど、膨れている姿も可愛いと思ってしまった。


「見ても怒るなよ」

俺は防波線を引いて、フランソワーズ嬢を俺の部屋に連れて行ったのだ。


「何なのよ。これは」

その姿絵を見せるとフランソワーズ嬢は怒っていた。


「誰よ、こんなのを作ったのは?」

「いや、こういう姿絵は基本的にお前の家から贈られてくるものだと思うぞ」

俺は絶対に娘を嫁に出したくない公爵が作らせたものだと思ったのだが。

でも、完全に切れている。フランソワーズ嬢の前で言うのもどうかと思ったので黙っていることにした。


それよりもこの子はお菓子だろう。

俺は会場を出る前に、俺の部屋にケーキを持ってくるように伝えてあったケーキが届いたタイミングで、


「この絵はこちらで処分しておくから、それよりも王宮料理人が腕によりをかけたケーキを持ってきてもらったんだ。一緒に食べないか?」

フランソワーズ嬢に言ったのだ。


「いいや、それよりもこの絵を描いた犯人を捕まえないと」

「まあ、良いじゃないか」

俺は先程のお返しとばかりに一切れフランソワーズ嬢の口にとろけるケーキを放り込んだのだ。


「美味しい」

フランソワーズ嬢は本当に美味しそうに食べてくれた。


侍従が呼びに来るまで、俺は何とかフランと仲良くなることに成功したのだ。



俺はその日の夕食の時に、途中で抜け出したことを母に愚痴愚痴怒られていたのだが、そんな事はどうでも良かった。


「アドルフ、判っているのですか? 母がわざわざあなたのためにお茶会を開いたのですよ。それを途中で抜け出すなんて」

「まあまあ、アデライド、良いではないか。アドルフにはまだ早かったのだよ。私が婚約してたのは王立学園を卒業してからだし」

「そうですわね。あなたは前王妃様とご婚約されたのは王立学園卒業後でしたわね」

「えっ、いや、あの」

父が母の地雷を踏み抜いたのだ。本当に父は馬鹿だ。いつもこれで喧嘩している。いい加減判れば良いのに!


まあ、俺は王家内を乱す元になる側妃をもつつもりはないけれど。

この二人が喧嘩を始めると長いのだ。下手したら母が泣き出して大変なことになる。

俺はその前に二人に話すことにした。


「俺の婚約者はフランが良いです」

「えっ?」

「なにか言ったか?」

二人して驚いて俺を見た。


「俺はフランソワーズ・ルブラン嬢を婚約者にしたいのですが」

俺はもう一度言った。


「えっ、あなたあんなゴリラ女は嫌だと言っていたではありませんか」

「それはあんな姿絵を見たからです。本人は全然違ったではないですか。あれは絶対にルブラン公爵の陰謀ですよね」

「しかし、あの子の礼儀作法はもう一つでしたよ」

「母上、フランソワーズ嬢はまだ、6歳ですよ。6歳であそこまでできれば十分でしょう」

「しかし、グレース嬢はもっと出来ていましたよ」

「何を仰るのですか。そもそも母上がフランソワーズ嬢を勧めていたのではないですか。グレース嬢だけは止めてくれと」

そう言うと母は黙ってしまったのだが

「しかし、アドルフ、いくらなんでもまだ早いのではないのか。もっと良い者が出てくるかもしれないぞ」

父がまた余計なことを言う。

「あなた何か仰って!」

また母が怒り出すんだけど。

「どのみち、私は王子であり、政略結婚でしょう。私に足りないのは文よりは武の部分が大きいので、我が国の武のルブラン家と縁を結びたいのです」

俺は父と母を何とか説得したのだ。

早くしないと他に取られてしまうかもしれない。

皆はまだフランがゴリラ女だと思っているんだ。

それがこんな可愛い子だと判ったら絶対に狙ってくる。リシャールやジルベールも気に入っていたし……

その前になんとしてでも押さえないと。

俺は俺なりに必死だった。


でも、中々すぐにはうまくいかなかったのだ



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『悪役令嬢に転生したけど、婚約破棄には興味ありません! ~学園生活を満喫するのに忙しいです~』https://kakuyomu.jp/works/16816927863351505814


が皆様の応援のお陰様で『次にくるライトノベル大賞2023』ノミネートされました。

https://tsugirano.jp/


なんと上から五番目に載っていました(あ行だから当然なんですが)

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