第14話 料理をしますわ
決意を新たにし、今日も私は調理場に向かいました。
アレク様に気付かれる可能性があると分かりつつも、まだまだ修行が必要だと感じていました。高級な食材が手に入らない分、一層の努力が求められます。
「もし、味が悪かったらどうしよう……」
不安が頭をよぎりますが、そんなことを考えている暇はありません。
食材と調理器具を整え、作業を始めようとしたその瞬間、突然、聞き慣れた男性の声が聞こえました。
「何をしている?」
驚いてアレクと名前を叫んでしまい、思わず口を塞ぎました。
私のここでの生活が終わるのではないかと、心底から恐れました。
勝手な行動を取ってしまったこと、そして屋敷の規則を破ってしまったことについて、深く謝罪しなければなりません。
頭を下げて必死に謝る私に対し、アレク様はただ明かりをつけて静かに椅子に座り、「続けろ」とだけ言いました。
それ以上の言葉はありませんでした。
私は拍子抜けしてしまいました。
何らかの罰が下されると思っていたのに、アレク様の反応は予想外のものでした。
彼の言葉に従い、何が起こったのか理解できないまま、料理を続けることにしました。そして心のどこかで、アレク様のこの行動が、私にとって新たな希望の光となるのではないかと感じ始めていました。
料理を続ける私の手は震えていました。
アレク様が間近で見ているというプレッシャーに押しつぶされそうで、心を落ち着かせることができません。
そして、その緊張のあまり、私は失敗を重ねてしまいました。
鍋を焦がすことから始まり、料理道具を落としてしまったり、最終的には「いたっ!」という声と共に、不注意から包丁で指を切ってしまったのです。
「メイドなのにこんなにだらしないなんて……これだけ努力したのに、本番でこんな失敗を……」
自分を責めました。アレク様が失望されているのではないかと思って。
「はは、やっぱり私はダメな女ですね」
自嘲しました。
しかし、その痛みに顔をしかめていると、アレク様はすぐに立ち上がって私のそばに駆け寄りました。怪我をした指に対する彼の治療は手早く、的確でした。消毒をして包帯を巻くその手つきは、意外にも慣れたものでした。
彼の顔が近づくたびに、私はどうしようもなく顔を赤らめてしまいました。
処置が終わると、アレク様は小さなため息をつきました。
「そんなに無理をしなくていい」
静かに言いました。私は言葉を失い、ただ頭を下げるしかありませんでした。
なぜなら私は……何も優れたものを持っていないと、ずっとそう思っていたからです。
アレク様はそのまま静かに言葉を続けました。
「料理が上手いかどうかは、時間が解決してくれる……今は、怪我をしたお前が無理をしないことが大事だ」
その言葉に、私の中の何かが溶けていくような感覚がありました。
そして、彼のそのやさしさが、今まで私が自分自身に対して抱いていた厳しさを少し和らげてくれるのでした。
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