第15話 完成しましたわ
怪我をした手に痛みを感じながらも、私は屈することなく再び立ち上がりました。多くはできないかもしれない。
手際も良くなく、見栄えのするものを作ることも難しい。
しかし、それでも私は諦めたくありませんでした。
今できること、それは自分の力で作り上げる料理。
それがどんなに地味で簡素なものであっても、私は全力を尽くすのです。
アレク様がどう思うかは、私にはコントロールできないこと。
けれども、ここで諦めたら、私はまた何かを失うことになる。
それはしょうもない自分のプライドかもしれないけれど、もう逃げたり、失ったりしたくはないのです。
その決意を胸に、痛む手を我慢しながら、私は何とか作れそうな料理に挑戦しました。それは多分、アレク様が過去に日記で「美味しい」と書いていたような料理ではないかもしれません。
しかし、私の心を込めた一品です。
そしてついに、その料理が完成しました。
シンプルながらも、私の努力と心が込められた料理をテーブルの上に置き、アレク様と私は無言でそれを見つめました。
静寂の中、アレク様の反応を待つ瞬間は、まるで時間が止まったかのように長く、重く感じられました。
完成した料理は、私の手から生まれた驚きと希望の結晶でした。
それをテーブルに置く手が震えました。
期待と不安が交錯する中、料理を前にして無言のアレク様と私。私はその沈黙が、私の努力を無にするのではないかという恐れに押しつぶされそうになりました。
料理に込めた情熱は、怪我をした手の痛みを超えたものでした。
アレク様が私の料理を一口食べるその瞬間を想像すると、胸が高鳴りました。彼の一言一言が、私の将来を左右するかもしれないと感じられました。
彼の口から出る言葉に、私の全てがかかっているような気がしていました。
アレク様の目が料理に落ち、そしてゆっくりと私に上がる。
その視線には、私の料理への評価が隠されていると信じていました。
その瞳には何が映っているのでしょうか? 認められることの喜びか、それともさらなる努力を促す冷たさか。
私の内側では心の波が高まり、もし彼が失望したら、私はどう立ち直ればいいのかと思いました。しかし、私は自分の中にある小さな声に耳を傾けました。
「やれることはやった……これ以上はない」
勇気を出して、アレク様の判断を待つしかありませんでした。
この静かな部屋で、アレク様と二人きり。後はアレク様の感想だけです。
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