第13話 突然の訪問に驚きですわ

 食材を手に入れて屋敷に戻ってきましたが、心は穏やかではありませんでした。元婚約者が別の女性と仲良く歩いていた光景が、どうしても頭から離れないのです。たまたまの出会いだったのか、それとも……彼らは明らかに親密な関係にあるように見えました。私を捨て、そしてメイリア嬢をも捨てたのかもしれないと、婚約破棄の可能性に心がざわつきました。


「いや、私には関係ないことよ! 気にしてはいけない」


 自分に言い聞かせます。

 それでも、次に元婚約者と顔を合わせたら、どのように振る舞うべきか迷いが残ります。


 そんなことを考えているとき、突然、部屋にアレク様が入ってきました。

 その意外な訪問に驚いて、私は椅子から転げ落ちてしまいました。

 アレク様は、口には出さないものの、その表情はわずかに驚きを含みつつも、ほんのりとした優しさを隠していました。


「大丈夫か?」


 少しだけからかうような口調で、しかし彼は差し出された手を温かいもので包んでくれます。

 この不器用な優しさが、私の心を掴んで離しません。立ち上がると、私はアレク様の目を見つめ、この屋敷での私の新しい挑戦について、そして私の心の中に渦巻く感情について、少しでも伝えられることがあるのかと考えました。



「用件は何ですか?」


 私は焦りを隠しきれずに尋ねました。


 アレク様は何気ない様子。


「いや、別に何というわけではないが、最近、夜な夜な調理場から変な音がするそうだ……使用人が騒いでいる、何か知っているか?」


 問いました。


 私はその質問に内心で戦慄しました。

 確かに私は知っている――その音は私がアレク様のために密かに料理の修行をしている音だったのです。彼に喜んでほしい、その一心で夜遅くまで練習していたのです。しかし、私は顔に冷や汗を浮かべながら、「いいえ、知りません」と答えました。


 アレク様は少しの沈黙の後、「そうか」とだけ言い、部屋を出て行きました。


「じゃまをしたな」


 彼の言葉に、私はただなんとか事なきを得たと安堵しましたが、それと同時に、もしも彼に真実がバレたらという恐怖が胸をよぎりました。


 彼が部屋を出た後、私は深呼吸をして自分を落ち着かせました。この秘密の修行は、何とか上手くいかせなければなりません。

 私は心の中で強くそう決意しました。そして、アレク様が喜んでくれるその日を夢見ながら、料理の練習を続けることにしました。

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