第12話 浮気の浮気のなんですわ
その日から私は、アレク様に少しでも喜んでいただけるよう、誰にも知られることなく料理の修業を始めました。仕事の合間や深夜、屋敷の厨房でこっそりと料理の練習を重ねる日々。
仕事で疲れた体を奮い立たせ、アレク様のためだという一心で、私はそれまで知らなかった調理の技術やレシピに挑戦しました。
日記に記されていた料理の中で特に頻繁に挙がっていたものをリストアップしましたが、そのほとんどが高級食材を使うものでした。屋敷の食材を勝手に使うわけにはいかないし、次の買い出しの際にこっそりと必要なものを買い足すことにしました。
「ナナリーさんに協力をお願いするかしら?」と一瞬考えましたが、すぐに心を決めました。
「いや、これは私一人でやるべきこと」
私はなぜか、アレク様の笑顔を独り占めしたいという強い願望を感じていました。理由は自分でもよくわかりませんが、そもそもアレク様が笑顔になってくれるかどうかも分かりませんでした。
しかし、私は決心しました。
「次の休日に市場へ行こう」
お金はためていた小遣いから出すことになるでしょう。貯金箱を開けてみれば、きっと必要な額は何とかなるはずです。そして、その料理でアレク様がほんの少しでも幸せを感じてくれたら、それがすべての努力に値するのですから。
休日を迎えた私は、屋敷から許可を得て、再び町へと出かけました。今回は一人で、必要な食材を選ぶためです。小銭を数えながら市場を歩き、お金が何とか足りそうだと安心しました。
高級な食材は手が出ませんが、代わりになるものを見つけることに集中しました。「これで喜んでくれるかしら?」と自問自答しながら、不安と期待が入り混じった心境で必要なものを手に取りました。
食材を一通り揃えて、屋敷に戻ろうとしたその時でした。
通りの角を曲がると、そこには思いもよらぬ光景が広がっていました。
元婚約者である彼と、アメリア嬢ではない別の女性が手を繋いで仲良く歩いているのです。驚きで息をのみ、私は近くの建物の陰に身を隠しました。
彼らは互いに何かを話しながら、時折笑い合い、明らかに幸せそうでした。
その様子を見ていると、私の胸の中には複雑な感情が渦巻きました。
悲しみや寂しさといった感情が湧き上がる一方で、アレク様への料理を通じて少しでも喜びを届けたいという強い意志も心に刻まれていました。
私は深呼吸をして、自分の感情を整理しました。
そして、屋敷へ戻る決意を固めました。
この出会いが私にとっての試練であると受け止め、アレク様に対する想いを新たにしました。私の料理が、もしかするとアレク様の心に新しい風を吹き込むかもしれないと信じて。
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