第11話 秘密を知ってしまいましたわ
屋敷の仕事に追われる中、私はナナリーさんにふとアレク様のことを尋ねました。
「アレク様の好きなものや趣味、過去について何かご存知ですか?」
ナナリーさんはしばし考える様子を見せた後、静かに言いました。
「実は、アレク様とは個人的な話をしたことがないの……ましてや、そういったことを聞く機会もないのよ! 私たちの関係はあくまで仕事上のもので、私はその一線を越えないようにしているの……ごめんね、力になれなくて」
私はナナリーさんの言葉に深く頷き、その一定の距離感を理解しつつも、アレク様への理解を深めたいという私の願いは変わらずにありました。
今日も私は屋敷の図書室で一人、本棚の整理をしていました。この屋敷には数えきれないほどの本があり、それぞれが歴史や物語を秘めています。私は一冊一冊に手をかけながら、埃を払い、時には表紙の革をやさしく拭きました。その繊細な作業に没頭していると、突然、一冊の本が棚から滑り落ち、私の頭にぽとりと落ちてきました。
痛みよりも驚きの方が大きくて、私はその本を拾い上げました。それは古びた装丁の中に、アレク様の名前が小さく記されていた日記のようなものでした。私は一瞬躊躇いましたが、これが彼の笑顔の手がかりになるかもしれないと思い、ページをめくり始めたのです。
日記には、アレク様とある女性が旅行に行った記録が詳細に綴られていました。そこには、「新しい土地の空気は格別だ」とか、「彼女と食べた料理はどれも忘れられない美味しさだった」という言葉が溢れていました。
日記を読み進めるうちに、私は心の中でつぶやきました。
「アレク様は本当に世界を愛し、食べることの喜びを知っているんですね。そして、彼女との瞬間瞬間を大切にされていた……」
そして日記の最後には、二人が肩を寄せ合う写真が挟まれていました。
私はその写真を見つめながら、心の中でアレク様に問いかけました。
「この女性との時間は、あなたにとってどんな意味があったのですか?」
その瞬間、私の心は暖炉のように温かくなりました。
アレク様の喜びとは、料理を楽しむこと、大切な人との時間を過ごすこと。それが彼の心を開く鍵だと直感しました。
「アレク様の心に寄り添うためには、まずその情熱を分かち合うことから始めなくては」
私は心に決めました。そして、アレク様の愛した料理の数々を再現し、彼にその味をもう一度思い出させることができたら……それが私にできる、彼への最初の一歩になるかもしれないと思ったのです。
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