第10話 アレク様の笑顔が見たいわ

 アレク様に「可愛い」と言われてからというもの、私は自分自身を鏡で見つめることが増えました。だけど、何度見ても自分の顔はアメリア嬢やナナリーさんのようには目立たず、平凡な容姿。特技もなく、なぜアレク様が私を引き取って、この名門の屋敷に連れてきたのか、その理由がわかりません。


「頑張らなくては」と自分に言い聞かせます。


 この屋敷に居られるのも、もしかすると今日で最後かもしれない。

 そう思うと、不安でいっぱいになります。

 けれども、不思議とアレク様を見ると、そんな心配が嘘のように消えてなくなるのです。

 彼の外見は冷酷そうに見えても、その瞳には暖かさが宿っています。


「きっと私の思い過ごしよ」


 自嘲しつつも、どこかで彼が私に優しさを向けてくれているのを感じている自分がいました。それが、私がこの屋敷で一日一日を大切に生きる力になっていました。


 でも、私には悩みがあります。

 それは、アレク様の笑顔は、月が雲間に隠れるように、ほんのりとしか見せず、その満面の笑みはまだ私の目には映っていません。

 彼の表情の奥には、何か重い過去が隠されているのかもしれません。詮索は失礼かもしれないと思いつつも、彼の心の霧を晴らす手助けができたらと、私は少しずつ心を動かされていました。


 彼がなぜあまり笑わないのか、その理由を探るのは簡単ではありませんが、私にできることを探そうと決意しました。

 もしかしたら、彼の日々の業務を見守る中で、その糸口を見つけられるかもしれません。

 確かに、彼の多忙を手伝うことで既に彼の負担を少しでも軽減できているかもしれませんが、それでもアレク様からの「可愛い」という言葉は、私に新たな力を与えてくれます。


 それは、彼に何かを返せるかもしれないという希望を育む魔法のようなものでした。


 そうして、私は彼の微笑を引き出すことができるような、何か小さな奇跡を起こせるように、屋敷の日々の中で探し始めたのです。


 彼の真の笑顔を見るために。


 私……なんでこんなことしてるんだろ?

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